帰る同級生と帰る魔源樹
次の日に、地球に戻る予定の10人を見送るんだけど、どうも引っかかるんだよな。
「それでは私達は帰りますので、これにて失礼させていただきます。」
「一度に帰るのか。」
「はい、テルペリオン様。皆で協力して作った呪文ですし、地球へも一緒に帰ろうと思います。」
1人が代表して試してみるとかやらないんだな。シミュレーションを信じすぎじゃないか?
「失敗したらとか考えないのか?」
「九十九は心配性だな。大丈夫だって。」
「ならいいけど。」
自信満々だな。発動時に衝撃があるとか言うから、離れて見守ることにするけど。どうなることやら。
「ルーサさんはどうなると思う?」
「失敗するんじゃない?」
「どう失敗するのかなと。」
魔力量が足りない時って、どうなるんだっけ。
「その場合は何も起きないな。お前もやったことがあるんじゃないか?」
「ああ、そういえば。」
テルペリオンに出会う前に魔法を使ってみるように言われて、その時は何も発動しなかったんだったな。それも魔力量が皆無だったからわけで、足りない場合も同じように何も発動しないわけか。っと思っていたら始めるみたいだな。どんな呪文なんだろうか。
『憤りし魂の帰還』
ん?なんて言った?地球に帰る呪文には聞こえない。むしろ、
「テルペリオン、今のってどういう意味だ?」
「知らん。地球に帰るのではないのか?」
そう言っていたな。でも全然そんな雰囲気じゃないけど。なんか魔法自体発動しちゃってるみたいだし。
「どうなってる。」
「あの杖って、もしかして魂の塊だったの?」
「そのようだ。魔源樹の魂がどこに行ったかわからなかったが、あの杖がそうだったのか。」
のんきに言っている場合なのか?禍々しい杖が大きくなって、全員飲み込まれてるけど。大丈夫、なわけないよな。
「止めてくる。」
「ちょっと、トキヒサ。」
飛び出したのはいいけど、どうやって止めればいいんだ?杖はどんどん大きく成長していて、もはや魔源樹のようになっているけど。というか魔源樹そのものだ。
「おい、どうなってる?返事しろ。」
反応がない、というか魔源樹が10本も同時に成長しているから何も聞こえないし近づけない。中はどうなっているんだ?
「トキヒサ、無理よ。離れましょ。」
ダメか。何がシミュレーションだよ。
「ルーサさん、あの杖が魔源樹の魂ってどういうこと?」
もはや止められないと思って、ルーサさんの言うとおりに離れるんだけど。杖が魂ってどういうことだ?
「どうって、言葉通りの意味よ。トキヒサ達の魂がその体に上書きされたとして、元々の魂はどこに行ったのかって話。魂の形自体は魔源樹になっていたから、追い出された魂が杖の形になったのでしょうね。」
なんでそうなる?いや、今は離れるか。もはや見守ることしかできないしな。
「終わったか?」
「そのようだ。」
ようやく収まったのはいいんだけど、これは。杖は魔源樹の姿に戻った後に、どんどん縮んでしまって、最後に人型になった。でもあれって、誰だ?
「つまり、魔源樹の基だった人間に戻ったってことか?」
「あるいは、既にほとんど戻っていたか。」
テルペリオンは冷静に分析しているけど、俺はすごく不快だぞ。下手すれば同じ事になるかもしれないんだろ。
「トキヒサ、心配しなくても大丈夫よ。あなた達はあんな風にならないから。」
「そうなのか?」
「ええ。転移者が何者なのか、散々調べたもの。2つの魂が同居なんてしていたら、流石に気付くわよ。」
言われればそうなんだろうけど、気分の問題だからな。
「私も保証する。心配するな。不安はぬぐえんかもしれんがな。」
テルペリオンとは記憶を一緒に遡ったし、説得力はあるけどさ。
「それよりも前を見ろ。我々に用があるようだぞ。」
見てみると何人かがこっちに向かってきている。友好的、な感じではないな。嫌われる理由はわからないけど。
「アレン、ヘマしたな。せっかく一番乗りだったのにな。」
「なんだ?いきなりだな。」
「ははっ、こりゃいい。1人で先に戻った結果がそれか。」
そんなこと言われてもな。俺だけ10年先にこっちに来たことなんだろうけど、どうしてそうなったのかわからないしな。
「それじゃ、せっかくだから教えてもらえるかしら?どうしてトキヒサだけ10年先にこっちへ来たのかしら?」
「ん? 我らが必死に維持していた道を、コイツは何の協力もせずに1人で帰ったからな。」
あれ?ため口だな。さっきまで敬語だったのに、どうしたんだ?まぁ別人といえばそうなんだけど。
「貴様ら、目的はなんだ?」
「目的?それはこちらのセリフだぞドラゴン。どうして我々は魔源樹にならねばならん。」
おいおい、それを言うのか。というかこの感じ、そうとう怒っているみたいだな。




