呪文の試し方と呪文の真偽
「ちょっと待て、呪文なんて誰に習ったんだ?」
そもそも呪文はこの世界の人間ですら使わないし、エルフにでも習ったのか?
「誰って、こっちに来てから普通に使えるようになったけど?」
「いや、それは。おかしいとは思わなかったのか?」
まさか詠唱魔法まで使えるとは。完成度が人によって違ったりするのか?
「おかしいって何が?異世界なんてそんなもんだろ?」
「まぁ、そう思ってもしょうがないんだけどさ。」
ついこの間まで俺も疑問に思わなかったから、気持ちはわかるんだけどさ。というかこいつら、そんな作品知っているんだな。
「どういう意味?」
「いや、そこはいい。地球に戻る呪文はどうやって作った?何故、戻れるとわかる。」
押し問答になりそうになったところで、テルペリオンに止められたけど。確かにそれも問題だな。呪文を作れたとして、なんで上手くいくとわかるんだ?
「シミュレーションしましたので。」
「なんだそれは?」
テルペリオンにシミュレーションの説明をしながら思うんだけど、どうやってやるんだ?想像もできないな。
「九十九って杖の機能を知らないのか?呪文がどんな風に発動するのか、杖を使えばわかるだろ?」
そうなのか?杖を持っていないからわからないんだけど。
「それは確かな事なのか?」
「はい、テルペリオン様。この家も何度もシミュレーションして建てたものですので、間違いありません。」
ああ、やけに家の完成度が高いとは思っていたけど、それなら納得できるな。最初からこんな家を作れるものかと思っていたけれど、何度も試した結果だったのか。
「で、シミュレーションだとどうなるんだ?」
「地球に戻れるけど?」
「うーん、そうじゃなくて。どうやって地球に戻るんだ?」
まさか、魂だけ抜けて地球の体に戻るとかじゃないよな。でもそんなシミュレーションを見たら、自分たちがどういう存在か気付きそうだけど。どうも違うみたいだな。
「どうって、宇宙に飛び立って、そのまま地球まで飛んでいくんだけど?」
「は?」
待て待て、そんな無茶苦茶な。この世界が宇宙のどこかの星だとでも言いたいのか?いや、それはありえなくはないか。でも宇宙でどうやって生きるんだ?テルペリオン達にも宇宙を説明するけど、同じ疑問を持っているみたいだな。
「宇宙で生きられるのか?」
「はい、テルペリオン様。私達は問題ないと考えています。」
「なんでだ?宇宙服でも作っているのか?」
「生きられるかも含めてシミュレーションしているからだ。九十九もやってみるか?」
そういわれても杖を持っていないし無理なんだよな。借りるのもなんか嫌だし。
「まっ出来るっていうならやってみてもらえばいいんじゃない?ただし、他の魔源樹には手を出さない事、いいわね。」
「承知しました、ルーサ様。今日はここでお泊り下さい。明日、皆で地球に帰る予定ですので、その後はご自由にこの家を使われて結構です。テルペリオン様は、何かお造りした方がよろしいでしょうか?」
「不要だ。」
「かしこまりました。では、私達はこれで失礼させていただきます。」
明日帰るって、ずいぶん急だな。というか元々その予定だったのか?会釈しながら全員出ていったから、もう1回話し合いが出来るな。
「ルーサさん、やらせて良かったの?」
「何の事?」
「地球に帰る魔法なんて、使わせて良いのかなと。」
「いいんじゃない?どうせ失敗するだろうし。」
そうなのか?だとしたら危ないだろうから止めた方がいいような気もするんだけど。
「なんでそう思うの?」
「だって、魔力量が足りないじゃない。」
「魔力量?」
「トキヒサ、アレンの記憶では何本もの魔源樹が協力して、やっと30人弱の人間の魂をここまで持ってきていたな。」
まぁね、たしか26人だったっけか。魔源樹が何本だったのかはよくわからないけど、数10本じゃすまない数だったな。
「魔力量が足りないというのはそういう意味だ。魔源樹1本の魔力量で出来る事ではない。」
「それにね、子孫がいない魔源樹が何本あると思う?1本だけで魂を持ってこれるなら、復活した魔源樹で溢れかえっちゃってるわよ。」
なるほどね。地球の総人口と同じ数の魔源樹が復活できるはずなのに、俺達しかしていないから1本じゃ無理だろってことか。
「シミュレーションが間違っていたのかな?」
「知らないわよ、そんなこと。合っているけど、魔力量は考慮できていないとかじゃない?」
うーん、どうなんだろうな。その辺も考慮していそうだけど、間違っているのかもしれないな。
「そんなに深く考える必要ないんじゃない?明日、失敗した後に今後の話をしましょ。その方があの子たちも納得できるわよ。テルペリオンもそれでいい?」
「構わん。」
確かに1回失敗した方が話が早いか。ちょっと引っかかる所もあるけど、まぁいいか。




