始まりの時と始まりの場所
昨晩はテルペリオンとルーサでずっと話し込んでいたらしい。もし妖精の長老が全てを知っていたんだったら、もうアレンの魔源樹に行く必要なんて無いのか?
「なぁテルペリオン。これからどうするんだ?」
「予定通りだ。」
つまり、アレン魔源樹というより俺の転移地点に行くのをやめたりしないのか。どうしてなんだろうか。
「妖精の長老はどこまでわかっていたんだ?もう行く意味が無いような気がするんだけど。」
「他人の記憶というのは、どうしても不正確になってしまう。遡ったとしても全てを見ることはできない。だから本人に確認してもらう必要もある。」
うーん。そんなに正確な情報が必要なものなのか?それともあいまいな部分が多すぎるということなのか。というか何が何でも教えてくれないんだな。
「俺が行くことに意味があるってことか。」
「そうだ。」
「何か気になる事でもあるの?」
要するに調べたい事、というか俺に調べて欲しいことがあるということだよな。
「最後に話す。」
徹底しているね。昨日ずっと話して、何も伝えない事に決めているみたいだな。そういえば、ルーサさんはどこに行ったんだろうか。
「じゃぁ、最後にちゃんと教えてもらうとして、ルーサさんはどこ?」
「彼女はエルフの里に戻った。転移者達が心配らしい。」
そっちに行ったのね。てっきり妖精の長老の所かと思ったんだけど。
「心配って、これから調べる事と関係あるの?」
「ある。どうしても気になるようだな、無理もないが。何も話せないのは、余計な先入観を与えないためだ。お前には先陣を切ってもらいたい。」
先陣ね。そんなに衝撃的な事なのか。
「わかったよ。みんなには後で話すということね。」
「他にも伝えるか否か。それは全てを知ってから決める事だ。」
俺が決める事なのか?なんか知りたくなくなってきたな。
「そんなになのか。」
「残念ながら。トキヒサ、真実を受け入れるという事は、時に勇気が必要になる。」
テルペリオンのこんな表情初めて見るな。悲しんでいるような、期待しているような、不思議な顔だ。
「どうしたんだ?突然。」
「まぁ聞け。お前ならきっと乗り切れる。もっと自信を持て。転移前の事を考える必要はない。こちらに転移してからの10年で何を手に入れたのか、それをしっかりと思い出すことだ。」
10年ね。失ったものに気付いたり指摘された直後なんだけどな。今度は手に入れたものか。転移前の事は考えなくていいってどういう意味なんだ?
「なぁ、1つ教えて欲しいんだけどさ。」
「何だ?」
「俺達は転移しても良かったのか?」
テルペリオンは喉を鳴らしながら俺の事をジッと見てくる。一番気になるのはそこなんだよな。
「私は、お前と出会えて嬉しいぞ。同じように感じる人間もいるだろう。トキヒサにとって良かったかは、私が決める事ではない。」
「それは、俺もテルペリオンと旅ができて楽しかったさ。」
「なら問題あるまい。行くぞ。」
早く乗るように促されるんだけど、まだ飲み込み切れていないんだよな。何が待っていることやら。勇気ね、そんなものでなんとかなるとは思えないけど、やれるだけやってみようか。
転移地点へ向かう途中で、世界樹が大きくなってきたな。いよいよか。
「この辺りだ。」
近くに俺の転移地点があるらしいんだけど、もう10年前の事だからな。なんとなく自分の記憶を遡った時の景色と似ているような気もするけど、ただの森だし、10年で景色も変わっているだろうし。あの時は気が動転していたはずだから、そもそも覚えていない事も多いんだろうな。
「こっちだ。」
と言われてもピンとこない。正直、アレン魔源樹自体が見つかっているのは助かるな。ここから案内してと言われても難しいし。
「これが、アレン?」
「いかにも。」
そこにあったのは破壊された魔源樹。転移した時に壊れたのだとして、なんで壊れたのかとか、なんで気がつかなかったとか疑問に思えるけど、まぁそれも含めてすぐにわかるんだろうけど。
「さて、アレンの記憶を見ればいいのか?」
「そうだな、ただし魔源樹となった後の記憶だ。人間だった時の記憶は必要ない。」
「わかった。けど、どうすればいいんだ?」
単純に遡るだけなら簡単なんだけどな。そんなに細かい指定の仕方がわからないんだよな。
「問題ない。アレンの没年月日はわかっている。その日を狙えばいい。」
なるほど、ピンポイントで日付を指定するわけか。エルフ達が調べてくれたらしいな。
「じゃぁ呪文を教えてくれ。早速始めよう。」
魔源樹に記憶なんてあるんだな、。とか気になることはいくらでもあるんだけど、もう一々聞くより自分で確認した方が早そうなんだよな。とっとと始めてしまおう。




