トキヒサの調査と時久の葛藤
「そんなに嫌だった?」
「嫌っていうか、心配なんだよ。」
結局アリシアも一緒に来ることになってしまったけど、
この頼まれたら断れない雰囲気をどうにかしないと、
いつか本当にアリシアが傷つけてしまう気がしている。それが心配。
すぐに首を突っ込みたがる性格だから、ある程度は仕方ないんだろうけど。
っとそんなことを考えていたら、あれが例の魔源樹だな。
「これはヒドいな。」
「うん。」
切り倒されたというより、破壊されたって感じだな。
「それにしても、どうやってここまで来たんだ?」
「ん~。わかんない。」
教えてもらった魔源樹の場所は思った以上に森のはずれなんだよな。
魔源樹の森に入るには門を通らないといけないし、
門以外は城壁で守られているし、
ここまで来るのに時間がかかるし。
見つからずに来るなんて出来るのか?
でも森の向こう側は人の住めない土地で、もっとありえないからな。
「トキヒサ?これって本当に人間がやったことなのかな?」
「魔源樹についてはアリシアの方が詳しいでしょ。ありえないんじゃない?」
「そう、だよね。」
気持ちはわかるよ。でも人の手以外あり得ないんだよな。
魔源樹は魔力を纏っていて、雷だろうがなんだろうが弾いてしまう。
それに魔源樹の魔力に干渉できるのは人間だけだから、
テルペリオンですら切り倒すには難儀するらしい。
だから警備隊に気付かれないうちにこんなことができるのは人間以外ありえない。
「まっ調べてみれば何かわかるでしょ。集中するからちょっと待ってて。」
「うん。わかった。」
「やれやれ。やっと私の出番か。」
ドラゴンの力を使えば、魔法でも見えない痕跡を見ることができるからね。
1週間程度だったら特に問題ないし。
というわけでテルペリオン、お願いします。
ふむふむ。人がいたのは間違いないみたいだね。
それも3人か。こいつらが切り倒した張本人だな。
どこから来たかは、わからないな。
まるで突然ここに現れたような。
うーん。どこへ行ったか見てみるか・・・ん?
「痕跡を見つけた。」
「本当?それで?」
「まだ森の中をさまよっているみたい、とりあえず痕跡を辿ろう。」
とりあえず辿ってはみるけどさ。どういうことだ?
魔源樹を一本だけ破壊して、ふらふらとさまよっているのか?
それと、なんで警備隊に見つからないんだ?
「トキヒサよ。本当はわかっているんだろ。」
ん?テルペリオン?突然何を言いだすんだ?
「こんなことができる存在を。トキヒサは知っているだろ。」
「そうなの?教えて。」
そりゃ思い当たるところはあるけど。あり得るのか?
いや、テルペリオンがそう言うってことはあり得るのか。
というかそれ以外考えられないな。
「これはね。」
「これは?」
「俺と同じ転移者がやった事なんじゃないかな。」
「・・・転移者?」
「そうそう。
それなら魔法の痕跡が残っていないことも、
一本しか切り倒さないのも、すべて説明できる。」
「でも、なんで転移者が魔源樹を切り倒したの?」
「アリシアよ。そんなことは本人に聞けばよかろう?」
想像はつくけどね。きっと何も知らなかったんだな。
俺だって魔源樹の存在には驚いたんだ。遺体が木になるなんて想像できるか?
木を切り倒してはいけないなんて思いもよらなかったんだろう。
なんで切り倒す必要があったのかは知らんが。
でも知らなかったじゃ許されないだろうな。それだけ重要なことだし。
何とかしてやりたいが。
「アリシア?これが事故だったらどうなると思う?」
「事故?」
「例えば、転移の衝撃で魔源樹を倒しちゃったとか。」
「うーん。」
「トキヒサよ。それは同郷の者を救いたいという意味なのか?」
「いや。そういう意味ではないんだけど。」
とは言うものの救いたいという意識はあるのかもしれない。
可愛そうというよりも、自分も同じことをしたかもしれないという同情があるからだと思うけど。
「初めて出会ったときにも言ったがな、
トキヒサは異郷で育ったことを自覚した方がいい。
アリシアは問題ないだろうが、他の人間の前でそんなことは言わない方がいい。」
「わかっているよ。それは。」
言いたいことはわかるさ。
理由が何であれ魔源樹を害したのならどうしようもないってことでしょ。
地球には魔源樹なんてないから、どうしてもそのへんの感覚がズレてしまうんだよな。
「大丈夫よ。私はいつでも味方だから。」
「アリシア、ありがとう。でも心配しなくてもいいよ。
アリシアを傷つけるようなことはしないからさ。」
そうだな。気にならないと言えば嘘になるけど、
一番しないといけないのはアリシアを守る事だからな。
ん?アリシア、どうした?
「おい、トキヒサ。惚気るのはその辺にし、あれを見ろ。」
あれって?えーっと。あっあいつらか。
あやしい3人組がいるな。
「アリシア、離れちゃダメだよ。」
「うん。わかった。」
近くにいてくれれば何があっても守れるからね。それじゃ行きますか。
というかあの3人、ずいぶんリラックスしているな。
俺と違って3人一緒だからか。うらやましい限りだ。
近づいてから気付いたんだが、制服を着ているな。
俺の高校の制服に似ていないか?
いや、あれは俺の高校の制服だな。
というかよく見ると、
・・・あいつらって、まさか。
「誰かいるのか?ってなんだ九十九時久か。お前も飛ばされたんだな。」