最後の確認と最後の旅
テルペリオンが戻った次の日の朝に、早速旅支度をすることになってしまった。俺は覚悟していたんだけど、特にココアさんは抵抗感があるみたいで、準備を進めている俺の側から離れようとしてくれないんだよな。
「ねぇ、いつ戻ってこれるの?」
「それは、なるべく早く戻るよ。」
いつと聞かれてもな。何が見つかるかによるから、わからないんだよな。もしかしたら戻ってこれないかもしれないし。
「早く帰ってきてね。」
「ああ。」
事前に出かけなきゃいけないことは伝えてあるから、聞き分けてくれてはいるんだけど。やっぱり腑に落ちてはいないみたいだね。
「アリシアさんは置いて行っちゃうの?」
「そうだけど、どうして?」
調べに行くのは、転移者についてだからな。アリシアは直接関係ないし、もしかしたらショッキングな事実があるかもしれないから、最初は俺だけで確かめに行きたいんだよな。
「そんなに危ないところなのかなって。」
「うーん、危なくはないんだけどさ。」
ちょっと勘違いしているみたいだな。別に危ないわけじゃないんだけど、結論がどうなるかわからないというか。転移者全員に関わる事だから、詳しくは話していないんだけど。というか話せないよな。
「危なくないの?じゃぁ、何しに行くの?」
「それは、帰ったら話すよ。」
「う、うん。」
ココアさんは納得いっていないみたいだけど、それ以上は追及しないでくれるのはありがたいな。どんな結論になりそうなのか、後でテルペリオンに確認してみようかな。
「準備は終わったのか?」
「ああ、それで聞きたい事があるんだけど。」
「何だ?」
一通り準備を終えて、あとは挨拶するだけなんだけど、最後にどんな事になりそうか確認したいんだよな。そのためには、やっぱりこの1週間でテルペリオンが何をしていたのか聞くのが良いのかな。
「今までどこに行っていたんだ?」
「そういえば話していなかったな。アレンの魔源樹を探していた。」
アレンの魔源樹か、よく考えれば手がかりにはなるな。それでどうなったんだ?
「見つかったのか?」
「見つけたが、破壊されていた。」
おいおい、それって、あんまり良くない事なんじゃないか?
「なぁ、それって。」
「心配するな。そうだからと言って、すぐに結論が出せるわけでもない。」
やけに冷静だな。前にマコト達が転移してきた場所に壊れた魔源樹があったことが関係しているのかな?
「ならいいんだけど、それでどうするんだ?」
「エルフにアレンの魔源樹の記憶を遡って貰おうかと思ったんだがな、上手くいかなかった。トキヒサがやれば何かが起きるのではと思ってな。」
「なるほど。」
もしこの体とアレンが関係しているとすれば、俺が試せば違う結果になりそうだな。
「そういうことなら、話したい人がいるんだけど。」
「ん?誰だ?」
「妖精の長老。」
初めて会ったときに、俺の記憶を覗いて何故か泣いていたからな。何かしら見ていたとしても不思議じゃないんだよな。なんで言わなかったのかはわからないけど。その辺を説明するとテルペリオンは怪訝な顔をしているな。
「単に涙脆いだけに思えるがな。話を聞きに行くくらいなら構わんが。」
「そうかなぁ。」
泣くほど悲しい過去があるわけじゃないからな。あの時に何かを確認したと思うんだけどな。
「仮に何かを見たうえで黙っているとしたら、それはそれで問題ない。」
「どういうこと?」
「彼女は信用できる。上位種族の代表でもあるからな。」
つまり良くないものを見ていたとしたら、その場でちゃんと言うはずって事か。逆に何も言わないってことは、特に問題ないって事だな。だとすると、何かを確認してくれていた方がありがたいな。そうじゃない時が心配だけど。
「1つ頼みがあるんだけどさ。」
「どうかしたか?」
「何があったとしても、一度戻りたいなと。」
旅立って、そのまま戻れない事だけは避けたいんだよな。
「そんなことか。もし転移者自体に問題があったとしたなら、それはお前だけの問題ではない。心配せずとも一度戻る事になるさ。」
「ならよかった。」
返事を聞いたテルペリオンはちょっと笑っているけど、そんなに変な事は言っていないはずなんだけどね。
「見送りが来たぞ。今の事を教えてやるといい。」
振り返ると、みんなが見送りに出てきている。テルペリオンが交渉してくれたから、デンメスだけはいなくて、ココアさんも安心して外に出てきているな。
「時久君、本当に1人で行っちゃうんだね。」
「うん。テルペリオンと話したんだけどさ。何があっても一度は戻るからさ、安心してよ。」
「そうなの?良かった。あっテルペリオンさん、時久君の事よろしくお願いします。」
「案ずるな。悪いようにはしない。」
テルペリオンの返事を聞いて、ココアさんとアリシアは一安心したみたいで、表情が少しだけ明るくなったように見えるな。
「トキヒサ、早く帰ってきてね。」
ココアさんの前で悪いとは思ったんだけど、いろいろと抑えきれなくなってしまって、ついアリシアの事を抱きしめてしまった。ココアさんには軽く頭をなでる程度にして、このままずっと留まるわけにもいかないし、意を決して出発することにした。
「これで最後ではないと言っている。」
「わかってるさ。」
テルペリオンは呆れているみたいだけど、なんとなくね。
「でもさ、どうもこれがテルペリオンとの最後の旅になっちゃう気はしているんだよね。」
「縁起でもないことを言うものではない。」
それはそうなんだけど、こういう予感って自分の意思で消せるもんじゃないからな。外れてくれれば良いとはおもうけどさ。




