旅立つ2人と旅立ちの時
「2人はやっぱり例のエルフの遺跡に行くのか?」
「まぁな。他に行く当てもないしな。」
パトリックとクレアさんが出発する前に、時間があったからこれからどうするのか聞いてみたんだけど、予想通りの回答だな。ちなみに他の人たちとは既に挨拶を終えてあるらしい。見送りのために後ろに待機しているけどね、ちゃっかりデンメスまでいるし。
「ねぇ、その遺跡って本当に勝手に使っていいの?」
「心配性だな。誰も使っていないんだから大丈夫だろ?」
クレアさんは無断で使っていいものなのか気にしているのか。その心配はいらないと思うけどな、ちゃんと伝えてあげようかな。
「心配はいらないと思うよ。」
「そうなんですか?」
「前にエルフと話した時に、エルフにとっては不要なものと言ってたから。」
それに勝手に使ってもいいとか言っていたからね。勝手に住みついたとして何も言ってこないんじゃないかな。
「へー、そうなのか。ほらな、問題なかったろ。」
「あなたは黙っていて。」
本当に仲がいいな。クレアさんについては、思っていたのとはちょっと違うんだけどさ。
「トキヒサ様、ありがとうございます。」
「あ、うん。気を付けてね。」
「はい、それでは。行くわよ。」
クレアさんに引っ張られるようにパトリックは行ってしまったな。みんなで微妙な顔をしながら手を振って見送る。ワイバーンの巣を通り抜けるのはパトリックでも一苦労するだろうけど、なんとかなるだろう。生活についても、あの2人なら上手くやっていけるだろうしな。時間が出来たら遊びに行きたいけど、そんな時間が出来るだろうか。
「さて、戻るか。そうだ委員長、話があるんだけど。」
「何?」
「ココアさん何だけどさ、そろそろ運動もした方がいいんじゃないかなと。」
とはいえデンメスが居るからな。どっか行けなんて言うわけにもいかないし、外は難しいよな。全く興味がないみたいに庭の手入れを始めているし。
「それは私も思っていたけど。」
ヨシエ委員長はデンメスをちらちら見ながら難しい顔をしている。感じるところは他のみんなも同じみたいで、それぞれ困っている様に見えるな。マコトは考えがあるみたいだけど。
「なぁ、要するにこっちから巨人が見えなきゃいいんだろ?2人で隠蔽できないのか?」
つまり周りから認識できないようにするんじゃなくて、ココアさんだけデンメスを認識できないようにするわけか。確かに出来そうではあるな。
「どう?出来そう?」
「全然出来るよ。」
「可能。」
2人とも自信満々だし、大丈夫そうだな。それじゃぁ昼過ぎに外出することにしようか。とりあえず、この間の小屋に行けばいいかな。
「ねぇ、ちょっと恥ずかしいよ。」
「もう少しだからさ。」
デンメスを認識できないように隠蔽してもらいながら小屋へ向かうのはいいんだけど、ココアさんは俺がお姫様抱っこして運ぶことになってしまった。地味に距離があるし、途中で立ち止まると困ったことになるから仕方がないんだよね。
「そんなに気を使わないでも大丈夫だと思うよ。」
「いや、まだやめておこう。」
本人は俺達がデンメスに会わせないようにしている事には気付いていて、会っても大丈夫と思っているみたいなんだけど、まだ止めておいた方が良いと思うんだよな。
「あっ、あそこの事?」
「そうそう。」
ちょうど見えてきたな。少し前に泊まったばかりなのに、なんだか懐かしく感じるな。
「へー、なんだかキャンプ場みたいで楽しそうだね。今日はここに泊まらない?」
「ああ、それもありかもな。」
辺りを散歩して帰るつもりだったんだけど、このままここに泊まっちゃうのもありかもな。歩き回らなくても、適度な運動にはなりそうだし。
「みんなどうする?予定とは変わっちゃうけど。」
「いいじゃんいいじゃん。そうしようよ。」
「賛成。」
結構乗り気だな。じゃぁそうしちゃうか。
「マコト、食べ物を持ってきてくれない?あとアリシアも呼んでくれ。」
そろそろアリシアと会わせたいという事はみんなにも伝えてあるし、せっかくだから呼んでしまおうかな。
「マジか、食べ物って結構な量になるよな?俺1人でか。」
「頼んだ。」
まぁ、力仕事なら一番適任だからな。ブツブツ言いながらデンメスの家に戻っていくところを見ると悪いなと思ってしまうけど。
それから、小屋の中で食べるのも味気ないって話になって、外に机を出してバーベキューをすることにした。持ってきて欲しい食べ物が大きく変わってしまったから、ヨシエ委員長にもそれを伝えに行ってもらうことになったけど。前に湖の近くの遺跡で夜を明かしたことを思い出して、こんなことならパトリック達も誘えばよかったな。アリシアとココアさんは、最初はちょっと距離感があったけれど、思ったより早く打ち解けてくれたみたいで一安心。食べ終わった後は小屋に入ったんだけど、手作りのトランプを取り出してきて、久しぶりにそれで遊んだんだけど、懐かしいような楽しいような。夜も更けてきたし、そろそろ寝ようかと思っていたんだけど、この感じは。
「ちょっと外に行ってくるな。」
返事も聞かずに小屋を出ると、思った通りテルペリオンが帰ってくるのが見えるな。
「戻ったぞ。時間は足りたか?」
どうだろうね。時間はいくらあっても足りないもんだからな。
「十分じゃないね。最低限の事は出来たけど。」
「なら問題あるまい。明日には発つ、準備しておけ。」
「わかったよ。」
有無を言わさぬ感じがするな。仕方がないんだろうけど。みんなにもすぐ伝えないとな。




