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結ばれた理由と結ばれる2人

 巨人の家に着いて、クレアさんが出迎えてきたんだけど、なんだか怒っていないか?

 「よう、クレア。待ったか?」

 「後で言いたいことがたくさんあるから。」

 「うん、わかった。」

 パトリックはずっと嬉しそうにしているな。あの剣幕で言われても全く動じていないとは。

 「トキヒサ様。この度はありがとうございました。」

 「あ、はい。」

 クレアさんって、意外に気が強いよな。全く動じていないというか、巨人の貢物になってしまっていた人とは思えないんだけど。

 「ところで、もう1人は無事ですか?」

 「もう1人?ココアさんの事ですか?」

 ああそうか、クレアさんはまだ事情を知らないんだったな。彼女が転移者で、助けるためには妻にするしかなくて、パトリックと一緒に巨人に挑んで勝ち取りに来たことを説明すると、逐一驚いている様子だな。

 「そうでしたか。転移者の方というのは知っていましたが、そのような事になっていたのですね。わかりました、ご案内いたします。」

 案内してくれているけど、本当に気丈に振舞っているよな。使用人としての姿も淡々としている印象が強かったけどね。

 「トキヒサ、どうしたんだ?」

 「いや、こんな人だったんだなと。」

 「ん?そういえば使用人をしている所しか知らないんだったか。いいだろ?」

 まぁ、パトリックが好きになった理由はわかった気がするけどな。俺と初めて会った時もそうだったけど、気兼ねなくなんでも言ってくるのを望んでいたみたいだったからな。クレアさんのあの感じ、きっと遠慮なく何かを言う事もあったんだろうな。

 「お前の好みは、よくわかった気がするよ。」

 「なんだそれ?」

 「お似合いって意味だよ。」

 クレアさんも悪い気分ではない、というか楽しんでいるんだろうな。でないと一緒に駆け落ちしようなんてしたり、巨人の貢物の話をこんなに素直に受け入れたりしないだろうし。

 「ところで、デンメスはクレアさんをどうするつもりだったんだ?」

 「なんでって、特に理由なんてないんだろうな。」

 「そんなもんなのか。」

 デンメスってそこまで考えなしには見えないんだよな。人間に対して理不尽な印象はあるんだけどさ。

 「デンメス様はココアさんの世話係をご所望でした。」

 世話係?そりゃ巨人が身の回りの事を出来るとは思えないけど、そんな気を使っていたのか?

 「正確には、これから来るかもしれない転移者の方々も含めて、全員の世話をご所望でした。私は使用人としての経験がありますので。」

 ああ、それでクレアさんが選ばれたのね。突然目をつけられるのは、すごく運が悪いと思ったんだけど、それなら納得だな。元使用人なんて、そんな都合よく見つからないからな。

 「日々弱っていくココアさんを見ているのは辛かったですので、助けてくださりありがとうございます。」

 「いえ、俺が望んだことなので。」

 別に感謝されるようなことじゃないよな。

 「それは存じております。私個人の気持ちと思っていただければ幸いです。ココアさんはこちらにいらっしゃいます。あなたはこっちよ。」

 末次さんがいる部屋に案内してくれた後、パトリックは連れられてしまっていった。普段はあんな感じだったんだな。あの夜と同じくらい今日のパトリックはボロボロのはずなんだけど、まぁ放っておくか。

 「末次さん。九十九だけど、入るよ。」

 返事がない。どうしようか、クレアさんは行ってしまったし。でも、ここでずっと突っ立ってるわけにもいかないよな。入るか。

 「悪いけど、入っちゃうよ。」

 ベッドに横たわっているのが見えるけど、大丈夫か?クレアさんの態度を見る限り、無事ではあるだろうけど。近くによると、かすかに頭が動いているのが見える。

 「大丈夫?」 

 「あぁ、来てくれたんだね。」

 すごく弱っているみたいだな。どうしようか、回復させてあげたいんだけど、そういうことは出来ないんだよな。

 「ちょっと待ってね。」

 「あっ、無理しないで。」

 「うん。」

 とか言いながら起き上がろうとしているけど、そんなにちゃんとしたいのか?まぁ、手伝うけどさ。

 「ありがとう。来てくれたんだね。」

 「当たり前だろ。」

 なるべく早く会いに来るって約束だったからな。ってなんでだ、泣き出してしまった。

 「ご、ごめん。遅かった?巨人とは決着つけないといけなくってさ。これでも急いだつもりだったんだけど、」

 「ううん。そうじゃないの、そうじゃなくて。」

 「そ、そう?」

 じゃぁなんで泣き出しちゃったんだ?何かあったのかな。

 「夢から覚めて、全部わかったの。」

 「全部?」

 「私が、こんな事になっていたこと。」

 幻覚から抜け出した後に、デンメスとのことを思い出したんだろうな。幻覚の中でも状況は説明していたはずだけど、それだけだと上手く実感出来ていなかったんだろうな。

 「私の事を助けに来てくれたのが九十九君じゃなかったら、どうなっちゃったんだろうって。」

 「それは。」

 告白を断って戻ってしまった場合の事を言っているのか。それは考慮していなかったな。もし断っていたら、苦しみから逃れる最後の機会を手放す事になってしまう。

 「だから、本当に、良かった。」

 そこまで言い終わると、俺の胸元に飛び込んできて、そのまま泣きじゃくってしまった。そんな様子を見ていると、すぐにテルペリオンと出発するわけにはいかないと感じるな。何日か、出来るだけ長く先延ばしにしてもらうように、後でテルペリオンに頼みに行かなきゃな。


挿絵(By みてみん)


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