晴れやかな皇太子と晴れないトキヒサ
「おいおい、どうした?トキヒサ。もっと喜べって。」
「あ、ああ。」
ちょっと拍子抜けだったな。もっと泥臭い戦いが続いてしまうんじゃないかと思ったんだが。パトリックは両手を振り上げて喜んでいるけど、俺はそういう気分にはなれないな。嬉しいのは嬉しいんだけどさ。
「デンメス様。クレアに会いに行ってもいいでしょうか?」
「好きにしろ。俺はここで休む。」
「ありがとうございます。早く行こうぜ。」
ずいぶん元気だな。パトリックだってボロボロだっていうのにさ。早く会いたくてしょうがないんだろうけど。まぁ、末次さんの様子が心配なのはその通りだな。でもその前に、
「テルペリオン、この後なんだけど。」
「話は後でいい。」
「いいのか?じゃぁ、また後でな。」
気を遣ってくれているみたいだな。ありがたく受け取ることにしようか。というか、今までみたいに決着をつけないで気が晴れないままっていうのは嫌だからな。パトリックが振り向いて待っているみたいだし、早く行くことにしよう。
「なぁ、なんか悩んでいるのか?」
「それは、そうだが。」
「やっぱりか。誰か反対しているのか?」
反対って、転移者のみんなの中に納得していない人がいると思っているのか。今の状況ならそう思っても不思議ではないな。
「そういうわけじゃない。」
「違うのか?じゃぁ何だ?」
本当の理由なんてわかるわけないよな。パトリックは心配そうにしてくれているけど、どこまで話したもんか。いや、テルペリオンと話して裏が取れたら逆にもう話せなくなっちゃうか。それに、たまにはパトリックに相談してみるのも悪くないな。
「実はな、この体は俺のものじゃないかもしれないんだ。」
「どういうことだ?」
そう言われてもな。俺も何でこうなったのかはわからないんだよ。ただ、あの記憶を見る限り間違いない。この体に宿る幼少期の記憶は俺のものじゃなくって、どうして年配の頃の記憶まであったのかはよくわからないけど。
「俺もよくわからないんだけど、詠唱魔法で自分の記憶を遡れるだろ?」
「あ、ああ。」
「この体に宿っている記憶は、俺のものじゃない。」
パトリックは眉間に皺を寄せているけど、疑っているというより勘違いじゃないのかと考えてそうな雰囲気だな。気持ちはわからないでもないけど、俺も同じ事を言われたらそう考えそうなもんだし。
「詠唱を間違ったとか?」
「それはない。テルペリオンと一緒に転移直前の記憶まで遡ったことがある。」
「そう、か。」
あんなリアルな記憶が詠唱を間違っただけで出てくるとは思えないしな。
「テルペリオン様はなんて言っているんだ?」
「まだ話していない。これが終わったらってことになっている。」
「ああ、それで浮かない顔をしていたんだな。」
そりゃな。テルペリオンの反応が1番気になるというか、心配というか。何て言われるかよくわからないんだよな。結構厳しいところもあるし。
「テルペリオンは何て言うと思う?」
「いや、わからんな。」
「それもそうか。」
「悪いな。」
いや、パトリックは悪くないんだけどさ。というか聞くべき事を間違ったみたいだな。
「じゃぁ、もし許されない事だったら、どうすれば良いと思う?」
「それは、んー、だとしても何も知らないんだろ?」
知らないというか何というか。何かあったとしたら転移前後だと思うんだけど、その時に何があったかわからないんだよな。遡っても何も無かったくらいだし。それに、知らなかったじゃ許されない事だってあるからな。
「何もわからないから気になっているんだよな。」
「ああ、そういうことか。でも心配しすぎだって、テルペリオン様が理不尽なことするとは思えないし。」
テルペリオンは理不尽なことはしない、か。そうだな、テルペリオンをもっと信頼しないとな。
「それ、いつ気が付いたんだ?」
「え?それって?」
「体が自分のものじゃないかもしれないってこと。」
「うーん。末次さんと話に行って、途中から何となく違和感があって、最後の最後に確信出来たって感じだな。」
今思えばいきなり新人と魔物討伐に行くっていうのもおかしな話だったからな。記憶の追体験と思えば納得できるけど。
「お前さぁ、よくそんな状態で告白が成功したよな。」
「どういう意味だ?」
「だってよ、そんな状況は尋常じゃないだろ。俺なら告白どころじゃなくなるぞ。」
「まぁ、何とかなったというか、許してもらったというか。」
「なんだそれ?」
自分でもよく成功したと思うさ。どちらかというとこれからが肝心だよな。
「とにかく、心配することないって。それより2人目と上手くいくかどうかを心配するんだな。あんだけ一途を貫いておいて、なんでこうなったんだかな。」
「おいおい。事情は知っているだろ?」
「さてな。」
こいつ、からかってるな。まぁでも一理あるんだよな。ちゃんと向き合わないと、だな。




