街へ到着と街の代表
「テルペリオン。あの辺の空き地に降ろしてくれ。」
「掴まっていろ。」
街が近づいてきたけど、街中に着地するわけにもいかないし、
門の近くの空き地から歩くことにしよう。
着地の衝撃からアリシアを守らないと。
「着いたぞ。」
「ありがとよ。」
「ありがとうございます。テルペリオン様。」
しっかりアリシアをエスコートしないと。
テルペリオンのその目はなんだ?というか夕暮れになっちゃったな。
テルペリオンに荷物と一緒に待っててもらって、街に入るか。
「トキヒサ。待っているだけはつまらん。リンクさせろ。」
テルペリオンとは精神をリンクさせて、
離れていても会話したり、視界を共有したり、いろいろできるんだけど、最近やってなかったな。
アリシアと2人きりになりたいし、テルペリオンも遠慮してくれていたみたいだし。
でも、しばらくはリンクし続けることになりそうだな。
「わかった。ちょっと待って。」
たしか右のポケットに。あれ?無いな。左だっけか。あったあった。
テルペリオンの鱗のブレスレットを着ければ、よし出来た。
「よし。ではここで待っていよう。行ってくるがいい。」
「よろしくな。行こう、アリシア。」
「うん。テルペリオン様。失礼いたします。」
さて、じゃぁ街に行こうかな。
アリシア?一応、手をつなぐのは控えような。
門に着いたんだけど、なんでこんなにあわただしい雰囲気なんだ?
なんか偉そうな人が出てきたぞ。
白髪交じりの髪をオールバックにしていて、50代ってところか。
ちょっと息切れしてるけど大丈夫か?
「はぁ、はぁ。トキヒサ様とアリシア様でしょうか?
ふー、ふー。失礼。私はこの街の代表です。」
息が整うまでちょっと待っててやるって。
・・・そろそろいいかな。
「はい。そうですが、なんでわかったんですか?」
「物見からドラゴンが来たと連絡がありまして、急いで参ったという次第です。」
なるほど。それにしてもそんなに急ぐ必要はあったのか?
「人間。魔源樹の件は本当なのか?」
代表さん驚いちゃってる。
そりゃブレスレットからいきなりドラゴンの声が聞こえればね。
その辺は説明してあげないとな。
「これは失礼しました。魔源樹の件は残念ながら本当です。
誤報だと疑うのは当然のことなので、迅速に対応していただき感謝しております。
立ち話もなんですので、私の屋敷までお越しください。」
「わかった。それとお願いがあるんだけど。」
「なんでしょう?」
「この先でテルペリオンが俺たちの荷物を持っててくれているから、あとで運んでくれるかな?」
「はい。もちろんです。対応しておきます。」
「よろしく。それじゃ行こうか。」
これは旅行気分というわけにはいかなくなったな。まさか本当に切り倒されていたとは。
アリシアは残念そうにしている、わけないな。ものすごくやる気になっていないか?
「あらためましてお越しいただきありがとうございます。
まさか、かの有名な竜騎士トキヒサ様にお越しいただけるとは、思ってもみませんでした。」
「はぁ。俺ってそんなに有名でしたっけ?」
「何をおっしゃいますか。
ドラゴンの加護を持つ唯一無二の人間で、人類最強、天下無双、一騎当千。
迫りくる魔物の大群をなぎ倒し、数々の有力者を打破し、未踏の大地を」
「ちょちょ、ちょっと待って。もういいんで。」
「そうですか?」
なんなんだ?その高評価は。
俺はただ子爵様に頼まれた討伐依頼をこなしていただけだぞ。
アリシアさん?笑いすぎですよ?
「えーっと。とりあえず何が起こったのか教えてもらえますか?」
「はい。といっても出来事自体はシンプルなものでして、
1週間ほど前に魔源樹の異常を探知し、
急ぎ確認すると切り倒されていたというしだいです。」
「犯人はどうしたんですか?」
「申し訳ありません。犯人は目星すら立っていない状態です。」
「ん?それはどういう?」
「それがですね。痕跡を調べたのですが、
そもそもどこから魔源樹の森に人が入ったのかわからなかったのです。
どこへ行ったのかも不明でして。」
そんなことできるのか?現地に行って何かわかるといいんだが。
「それで、被害はどれくらいなんですか?」
「不幸中の幸いと申しますか、被害については限定的です。
切り倒された魔源樹は一本だけで、しかも齢10年ほどの若い者でしたので。」
「一本か。」
「はい。ですので関係者に話は聞いたのですが。」
「怪しい奴はいなくて、手詰まりってところですか。」
「そのとおりです。」
まとめると、何にもわからないってことね。
その割にみんなリラックスしているのは、被害がとても少ないからか。
一本だけというのは解せないんだよな。やるならもっとやった方が良いはずなんだが。
おや?ずっと黙ってたアリシアの様子が。というかその顔は、まさか。
「トキヒサ。」
「はい。なんでしょう。」
「私も手伝う。」
やっぱり。約束と違うんだよな、困ったもんだ。
「アリシアさん?街でおとなしくしているというのは?」
「だってぇ。」
そんな俯きながら、頬を膨らませながら、ちょっと睨みながら言われてもね。
約束だったしさ。犯人を探しに行くのは一番危ないと思うから、連れていきたくないんだよな。
なにか良い案はないか?・・・そうだ。
「じゃぁさ、アリシアは警備の手伝いをお願い。これ以上切り倒させるわけにもいかないしさ。」
「え?それなら一緒に行こうよ。」
「・・・あのね、魔源樹を切り倒すような奴を探しに行くんだよ?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。」
「でもね。」
押し問答になっちゃったよ。街に残ってて欲しいんだよな。
このままじゃ押し切られちゃいそう。
「私は大丈夫だと思いますが?トキヒサ様の近くが一番安全でしょうし。」
代表?余計なこと言わないでもらえますか?
ダメだ、アリシアはもう行く気満々になってしまっている。
仕方がない、でも本当に大丈夫かな?