救いたい思いと救われる決意
今日で最後だったけど、やれることはやったのかな。幻覚の中が殺風景というか、本当に何もなくて苦労したけどね。なんで歓楽街がどこにもないんだ?農村部の村ばかりで、都市がほとんどない。あったとしても武術大会的なもので盛り上がっていて、それに引っ張られるような気がしたから近づかないようにしなきゃいけなくて。いい景色を探したりしながら何とかそれっぽいことをしたけどさ。そして夕暮れを見ながら2人で丘の上に何故か1つだけあるベンチに腰掛けることにして、もう覚悟を決めないといけないな。
「末次さんってさ、将来どうしたいとかあるの?」
「将来かぁ。あんまりイメージ湧かないかな。」
ヨシエ委員長はああ言ってくれているし、とりあえずはアリシアのことは隠して話を進めるかな。
「好きな人とかいるの?」
「ええ?突然どうしたの?」
「なんとなくだけど。」
やっぱり唐突すぎたか?ちょっと回答に困っているように見えるな。
「どうだろうね。九十九君はどうなの?」
「俺か?俺は。」
「あっ、その感じはやっぱり誰かいるんでしょ。」
そりゃいるけどさ。うまく隠しているつもりだったんだけど、どうなんだ?
「その人とは上手くいっているの?」
「え?」
「隠さなくてもいいって、10年も経ってるんだもん。そういう人がいて当然じゃん。」
隠しきれなかったのか、でもなんでバレたんだ?今日はアリシアのことは何も話していないし、その前は戦いばかりだったし、何も話していないはずだよな。
「そういう人なんていないって。」
「ええ、いいじゃん教えてよ。隠されると余計気になっちゃうし。」
「なんで、そういう人がいるってわかるんだ?」
「わかるよ。だって昔の九十九君って私と話す時すごく緊張していたでしょ?今は全然だし。最初は私の事を子供扱いしているだけかなって思ったけど、なんだか対等に話そうとしてくるから違うかなって。どう?合ってるでしょ。」
やけに自信満々だな。ところどころよくわかんないけど、アリシアに相当する人がいることには薄々気付いているみたいで、誤魔化せそうにもないな。ごめん委員長、せっかく協力してくれたのにヘマしちゃったみたいだ。もう、仕方がないか。
「あのさ、末次さん。」
「なに?」
「俺と結婚してくれない?」
「へっ?」
「それでさ、俺って実はもう結婚しているんだよね。だから2人目のってことになるんだけど、でもこっちの世界だとむしろ当たり前のことだから心配いらなくて、アリシアも認めているというかむしろ」
「ちょ、ちょっと待ってって。な、何を言い出すの?」
「頼むって。」
失敗だ、絶対に失敗だ。でももう勢いで何とかするしかない。
「そんなこと言われてもさ。もう結婚しているって、OKしてもらえると思っているの?」
「思わないけど、ちゃんと話さないといけないなって。隠しても無駄でしょ?」
「言っていることは正しいんだけどさ。」
そりゃこうなるよな。ひっぱたかれて終わりにならなかっただけマシだな。
「九十九君、何を隠しているの?」
「別に、何も。」
「嘘。」
まぁ嘘なんだけどね。だってそれを言ったら断れなくなっちゃうじゃん。なんとかこのまま押し通すしかないんだよな。
「じゃぁ、恋人になりましょ。結婚はまた後で考えればいいんじゃない?」
「ダメだ。結婚だ。」
「・・・。やっぱり何か隠しているでしょ。」
だから隠してるけどさ、これ以上何も話せないんだって。あまり詮索しないでくれ。
「結婚しているって本当なの?」
「本当。」
「ふーん。奥さんとは仲良し?」
「とても仲良しだよ。」
「なのに2人目が欲しいの?」
「欲しい。」
正確には末次さんを失いたくないというのが正しいけどね。本当はこんな風にしたくはなかったさ。
「九十九君のこと、嫌いじゃないけど。返事しずらいよ。」
「それは、」
もういっそ全部話すか?でもな、結婚のカミングアウトは不快にさせるだけだけど、巨人に拘束されている件は追い詰めるようなことになっちゃうからな。
「断ったら、どうなるの?」
「言えない。」
「どうして?」
「どうしても。」
やっぱり言っちゃダメ、だよな。どんなに言いつくろったとしても脅迫するみたいになっちゃうからな。
「言って。」
「ダメだ。」
「言わないと断るよ。」
それはそれで困るんだよな。言うしかないのか?
「出来れば聞いて欲しくない。」
「じゃぁ聞いて欲しくない理由も聞かせて。」
思い通りにいかないもんだな。ただ敵を倒すだけの戦闘がどんなに楽なことか。ここが現実じゃない事とか、巨人との件とか、断ったらどうなるかとか、アリシアの事とか、脅迫みたいになるから話せなかったこととか、全部話すことになってしまった。
「そんなことになってたんだね。1つ確認していい?」
「もちろん。」
「九十九君ってさ、私の事が好きなの?」
難しい質問をしてくるな。正直に言うべきなのか、心地いい言葉にすべきなのか。でも心地いい言葉って、多少なりとも嘘というか誤魔化しを含んじゃうからな。正直に言っちゃうかな、どうせ正解なんてわからないんだし。
「今、好きなのはアリシアだけなんだ。だから、ごめん。でも失いたくないっていうか、もっと話したいというか、2度と会えなくなるのは嫌と思っているのは本当なんだ。」
ど、どうだ?全部正直に言ってしまったけど。俺の目をすごく見てくるけど、何を思っているのかよくわからないんだよな。
「わかった。私の事、お願いね。」
「いいのか?」
「うん。正直に言ってくれて嬉しいし、それにちゃんと向き合ってくれると思うから。もともと嫌いじゃなかったし。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
予定がかなり狂ってしまったけど、結果的には一番良い方向になったな。アリシアの事も含めて納得してもらえて、ヨシエ委員長の負担も無くなったし。まっ、俺から見るとこれからが大事なことには変わりないんだけどね。
「こことはもうお別れなのかな。」
「そうだね。」
夕暮れ時だったはずなのに、何故か昼時の晴天の青空が広がっているな。
「それじゃ、また後で。」
「すぐに迎えに行くよ。」
「うん。」
末次さんの後ろ姿を見ていると、早く助けたいと、そんな闘志が湧き上がるな。戻ったらなるべく早くパトリックと巨人に挑むようにしよう。




