幸先の疑問と幸先の悪さ
ここは?てっきり地球のどこかの幻覚になると思ったんだけど、森の中か?
「どうした?」
いや不思議だなと、って
「何でここにテルペリオンがいるんだ?」
「お前が呼んだんだろ?」
え?そんなはずは。まぁいいか、いて不都合があるわけでもないし。人の心の中でもリンクできるんだな。意外に器用なことができるんじゃないか。
「そうだっけ?」
「忘れたのか?新人の育成をするんだろ?」
新人?育成?何のことだ?
「はぁ。寝ぼけているのか?ほら、もう来てしまったぞ。」
そんなこと言われてもな。何のことかわからないけど、新人の育成なんかしに来たんじゃないからな。
「すみません、遅くなりました。今日はよろしくお願いします。」
「ああ、これはどうも。でもこれは手違い、って?」
「あれ?九十九君?」
新人って末次さんの事だったの?なんで?
「えーっと、」
「教官って、九十九君だったの?」
「末次さんこそ、どうしてここに?」
「え?どうしてって、教室で九十九君が倒れちゃって、それで気がついたらこんなところにいて、それで、あれ?」
これはマズいかも。あんまり思い出させたら巨人との一件を思い出してしまいそうだな。適当に話を合わせないと。
「あっ、あー、ごめん、やっぱりいいや。それよりこれからどうしようか?」
「そう?どうするって言われても、魔物との戦い方を教えてくれるんじゃないの?」
なんだそれ?俺の深層心理ってそんなことになっていたのか?何故かテルペリオンまでいるし、一体どうなっているんだ?
「なんだ?知り合いなのか。」
「わー、すごーい。本物のドラゴンだー。」
あーもう、よくわからなくなってきた。どうすればいいんだ?ヨシエ委員長、何かを間違えたんじゃないか?ここからどうやって告白の話に持っていけと?
「もういいや。ところで戦い方って言っても、末次さんってどうやって戦うの?」
「へへーん。ほらこれ。」
ちょっと待ってくれ。何なんだ?その巨大なハンマーは。どこから出したのかは、幻覚の中だし置いておくとして。
「それ、ちゃんと使える?」
「んー?使えるよ。ほら。」
とか言いながら勢いよく振り回しだしてるな。本当にどういうことなんだ?
「どうよ。いい感じでしょ。」
「う、うん、驚いた。それじゃぁ俺を攻撃してみて。テルペリオン、力を貸してくれ。」
「ふむ、そのくらいならいいだろう。」
どれくらい戦えるのかは素振りだけじゃわからないこともあるからね。意外にも強そうなんだけど。
「いいの?当たると痛いよ?」
「当たんないから大丈夫。」
まぁ、当たっても痛くはなさそうなんだけどね。といっても納得していないみたいだけど。
「ほら、テルペリオンの力もあるから、当たったとしても大したことにはならないし。それにこれが一番正確に実力がわかるからさ。」
「うーん。本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。」
渋々といった雰囲気でハンマーを構えてくれた。やけに大きく振りかぶって、ハンマーを振り下ろしてくるな。ちゃんと避けられるようにしているんだろうけど、それじゃ意味ないし、あえて正面から受けきるかな。
「へ?」
「だから言ったろ?大丈夫だって。」
「うん。」
その後は、少しずつだけど遠慮が無くなっていって、思い切り攻撃してくれるようになってくれたな。思った通り、結構強いな。なんでだ?一旦間合いを取って何か話すか。でも、あんまり詳しく聞かないように気を付けないとな。
「結構やるじゃん。」
「そう?九十九君は、なんかすごいね。」
どういう意味、かはなんとなくわかるな。
「信じられないと思うけどさ、俺がこっちに来てからもう10年経っているんだよね。」
「そうなの?見た目、全然変わらないね。」
俺の見た目って10年前のままなのか?鏡でもあればいいんだけど。
「お前たち、何の話をしているんだ?」
あらら、テルペリオンが不機嫌になってしまった。無駄話はこれくらいにしておくか、って本来ならこういう他愛もない会話から入るはずだったんだけどな。
「まっ、まぁ大体の強さはわかったよ。これだったらデュラハンあたりに挑んでも大丈夫かな。」
「えぇ?いきなりデュラハンなの?」
「どうして?」
「いや、こういうのって普通は一番弱そうな魔物からなのかなと。」
それならゴブリンになっちゃうんだけど、あいつらはあんまり好きじゃないんだよな。
「一番弱いっていったら、やっぱりゴブリンになるんだけどさ。おススメしない。」
「どうして?」
「汚いから。」
「う、うん。」
特に女性を前にすると汚くなるし、そもそも人間より弱いから戦っても意味ないんだよな。デュラハンの生息域までは距離があるけど、テルペリオンに運んでもらえれば問題ないしね。
「デュラハンとは相性良さそうだし、危なくなったら割って入るからさ。それに、そこそこ強い奴と戦わないとね。」
「うーん、それじゃあお願いしようかな。九十九君って結構スパルタなんだね。」
「あはは。」
しまった。つい本気で鍛える感じになってしまった。こんなはずではなかったんだが、どうしたものか。




