戸惑わないトキヒサと戸惑う皇太子
「お久しぶりです。アリシア様、トキヒサ様。お客様方もおくつろぎください。」
「久しぶりだな。ベンジャミン。」
ベンジャミンと会うのは授与式の時以来か。あの後いろんなところを点々としてしまったからな。王都に作られた俺の屋敷はとても奇麗に保たれていて、調度品が少ないこと以外は他の貴族の屋敷と大して変わらないくらいだ。管理を全部任せちゃって悪かったよ。
「ずっと留守にして悪かったな。」
「いえいえ、私の勤めですので。いつまで滞在なさるのですか?」
「多分、すぐに出発することになると思う。」
「左様ですか。では、ご入用のものがあれば何なりとお申し付けください。」
何も文句を言わずにベンジャミンは受け入れているけど、怒らないのかな?まぁ大丈夫か、そもそもそんなこと気にしていたら、クレアさんを助けるどころじゃなくなっちゃうからな。
「そういうことならさ、久しぶりにパトリックとも会いたいんだけど?どうかな?」
「皇太子殿下とですか?お伝えはできますが、いつか会えるかまでは。」
「じゃぁ伝えるときに聞いておいて。」
「かしこまりました。」
つい忘れちゃうんだけど、パトリックは要人なんだよな。いつ会えるんだろうか。あんまり時間がかかるようなら、王城に忍び込んじゃおうかな。
「トキヒサ様。あまり問題になるような事はなさらないでいただけると助かります。」
「ん?ああ、そうだな。」
さすがはベンジャミン、鋭いね。これから問題行動する気満々だからな。でも、無理してパトリックに会いに行く程度の心配しかしていないんだろうな。まさか巨人に喧嘩売って、そのままパトリックを逃がすつもりだとは夢にも思っていなさそう。
「安心してベンジャミン。私が見張っているから。」
「そういうことでしたら私も安心です。」
「そうね。もう下がっていいわよ。」
「はい。では失礼いたします。」
行ったな。それにしても、俺って信用無いんだな。最近は大人しくしていたはずなんだけど。それと、これからベンジャミンに迷惑をかけちゃうね。
「なぁ、ベンジャミンには伝えていた方がいいのか?」
「ダメよ。事前に知っていたら、ますます良くないことになるわ。出来るだけ早く出発した方がいいわね。」
「そうだな。今夜にでも会いに行くか。」
「王城に?でもトキヒサはそういうの苦手じゃなかった?」
「この2人に任せれば何とかなる。」
カノンとユカリに頼めば、誰にも気づかれずに王城に忍び込めるだろうからな。ついでにパトリックも隠してもらえそうだし。
「いいじゃんいいじゃん。私たちに任せて。」
「うん。」
2人ともやる気みたいだし。それに、もし見つかっても俺が無理矢理やらせたことにすればいいだけだからな。
「2人とも、いつの間にそんなことを。」
「なになに?委員長も覚える?」
「遠慮します。」
「ははは。まぁ男どもには教えない方がいいだろうな。」
「それはそうだな。そういえばマコトはどんなのが得意なんだ?」
「俺か?俺は力持ちになれるな。」
「は?」
「悪かったな。地味で。」
いや、地味っていうか、そんなことまでできるんだな。
「ま、まぁマコトらしいというか、使いやすくていいんじゃない?」
「ふん。」
忍び込むとして、3人で行くことになるだろうな。それでベンジャミンにどうだったか聞いてみると、やっぱり時間がかかりそうだったから、とっとと王城に忍び込むことにした。
ベンジャミンには、アリシアから朝まで起こすなって言ってもらったから、今日はバレずにすむな。
「ねぇねぇ。夜のお城って、ちょっと怖いね。」
「やめて。」
こういうところって夜の不気味さが際立つよな。確か、パトリックの休んでいる部屋はこっちだったな。
「ここだ。入ろうか。」
鍵、は別にかけられていないな。それじゃ早速。
「またか、心配しなくてもここにいるぞ?」
「ん?どういうことだ?」
パトリックのやつ、いきなり意味不明な事を言い出したな。そんなによく誰かが忍び込むのか?
「え?トキヒサなのか?なんでここに?」
「いろいろあってね。クレアさんの事は知ってる?」
「もちろん知っているさ。おかげで逃げ出さないか常に監視されてるけどな。」
「そうなのか?誰もいなかったけど?」
「さっき追い出したばかりだからな。それより、どうやってここまで来たんだ?そういうの苦手だったろ。」
「そんなの後でいいだろ?行くぞ。」
「行く?どこへ?」
「クレアさんの所に決まってるじゃん。」
「・・・いや、それは。」
「嫌か?」
「嫌というか、お前は良いのか?この前は止めてきたじゃん。」
「大丈夫だ、アリシアとも話してある。見張りがいるんだろ?時間がないだろ?詳しくは道すがら。早く行こう。」
「なんだか知らんが、昔に戻ったみたいだな。いいぞ、俺も望んでいたことだ。」




