時久の記憶とトキヒサの決意
「なぁテルペリオン。」
「今、考えている。」
「ああ。」
転移前の記憶が無い?転移中の記憶すら無かったみたいだけど。いや、でも転移前の高校の記憶はあるぞ?みんなのことも名前はともかく、顔はちゃんと全員覚えていたし。
「古すぎて遡れなかったとか?」
「・・・いや、過去の記憶でも鮮明に覚えている事がある。途中の記憶も、印象的なものであったろ?」
「それは、まぁ。」
「人間の記憶の場合、10代の頃の記憶はむしろよく覚えているはずなんだがな。」
「記憶喪失ってこと?」
「そうなのか?」
「違うと思う。」
「だろうな。」
だってヨシエさんが委員長だった事とか、マコトの名前とか覚えていたからね。
「他の転移者でも同じことをした方が良さそうだな。」
「え?大丈夫なの?」
「途中で記憶と同化しかけていたであろ?それを止める事さえ出来るならば、信頼関係等は必要ないからな。エルフ達でも同じことは出来る。」
「そういうもんか。なぁ、転移の時に何があったと思う?」
「わからん。ただテレポートというわけではなさそうだな。」
「単純に移動したんじゃないってこと?」
「全く違うようだな。予想はできていたが。」
全く覚えてないしな。どうやって転移してきたのかなんて。みんなも覚えてないから、特殊な事が起こったんだろうけど。
・・・それより、いやそれも大事なんだけどさ、どうしても、昔の自分の感覚を思い出してしまう。
「どうしたトキヒサ?記憶がないのは気になるだろうがな、深く考えても仕方がないぞ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「違うのか?」
「なぁ、テルペリオン。最近の俺をどう思う?」
「どうとは?」
「なんというか、自分が何をしたかったのか分からないなと。」
「・・・もう27歳であったか。そういう時期なのではないか?」
「どういうこと?」
「守るべきものができ、自らの限界を自覚し、周囲の期待も増える。自分のやりたいことだけできるわけではないから、そう感じるのだろ。」
「それは、良いことなのか?」
「良いことではないのか?成長したということであろ。」
本当なのか?クレアさんがこんなことになってしまうなんて、望んでいなかった。本音を言うと、パトリックとクレアさんにも幸せになって欲しかったんだ。ただアリシアの事を大切に思って、いや違うか。アリシアを言い訳にしていただけか。そもそも、みんなバラバラなんて結末を誰が望んでいたんだ?
「なぁ、俺は成長しない方が良かったのかな。」
「何故だ?」
何故って、俺が何をしたって言うんだ?新しく来た7人にも、まともな事をしてやれていないし。詠唱魔法が使える事がわかってなんとかなるかも、という風にはなったけどさ。今回の巨人の件も、なんとなくパトリックを引き留めて、それで終わりか?また、モヤモヤした結末になるだけじゃないのか?
「・・・。」
「どうしたというのだ?成長するのは当たり前のことだ。自分の意思だけで行動できなくなるのは、年齢からすると当たり前のことではないのか?」
確かに、俺と同じくらいならよくあることかもな。でもそういうことじゃないなくて、成長して大人になって、馬鹿なことはしなくなったかもしれないけど、大切な人だけは守れているだろうけど。
「俺は成長して大切な人を守っているかもしれないけど、それだけだよな。テルペリオン、聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「俺の限界ってさ、アリシアを守ることまでなのかな?」
「その質問はあまり意味がないな。私は常に協力すると言っているだろ?」
「・・・そうだったな、悪い。」
「限界など、そもそも考える必要などない。トキヒサ、お前が気にすべきなのは理に反するか否か。それだけだ。」
理、ねぇ。ずっと言われていたはずなのに、なんで俺は自分自身の限界を制限してしまったんだろうな。自分の力じゃなくて、テルペリオンの力っていう感覚だったからか?無意識にテルペリオン無しでも出来る限界を選んでしまっていたのかもな。
「今まで悪かったな。テルペリオンのことを信じ切れていなかっただけかもしれない。俺自身の限界で考えていたんだと思う。」
「構わん。むしろ自分の限界がわかっているのは良いことだ。ただ、もっと信頼しろ。」
「わかった、質問を変える。巨人と戦うことは、理に反することか?」
「何だと?巨人と?」
「ダメか?」
「・・・ククッ、フッフハハハハハハハ。いいぞ、そうでなくてはな。」
「笑わなくてもいいだろ。」
「そう言うな。巨人と戦うことは理には反しない、良かったな。」
「じゃぁ決まりだな。パトリックの野郎の背中を思いっきり押しちまおう。」




