使える魔法と使えない魔法
「アリシア、疲れてない?」
「ううん。大丈夫。」
なんやかんやで人間の街に着いて、ゆっくりできるのは良いんだけど、ちょっと疲れてるみたいだな。生活魔法を使えるのはアリシアだけだから、どうしても頼らないといけなかったんだよね。炊事とか、魔法無しでも出来ることはなるべくやるようにはしたんだけど。
「どこかで休もうか。何か飲みながらさ。」
「うん。そうしよ。」
それじゃ、どこか適当な店にでも入ろうかな。みんなはテルペリオン達が世話、というか聞き取りしてくれているし、まったりさせてもらおうかな。何を聞いているのか気になるけど、この先ゆっくりできないかもしれないしね。
「トキヒサは大丈夫なの?」
「俺?は大丈夫だけど。」
「そう?ならいいけど。」
まぁ今のところは大丈夫だね。悩ましいことはたくさんあるけど、今日は忘れよう。
「今日はゆっくりしようか。有名な店があるみたいだから、夕食はそこにしよう。」
「おはよう。みんな、昨日はどうだった?」
「時久、すごいことがわかったぞ。」
なんだ?宿のロビーで全員集合したから、なんとなく聞いてみただけなんだが、マコトだけじゃなくみんなも興奮しているみたいだな。朝なのに。
「そんなに?」
「ああ、俺らも魔法を使えるみたいだ。」
「は?」
どういうこと?魔源樹が無いんだから、魔法は使えないはずだよな。実はあったってこと?
「私が話す。魔法といっても、詠唱魔法の事だ。」
「詠唱?でもそれって、」
「そうだ。詠唱魔法は上位種族しか使えない。もっともまともに使えるのはエルフだけだがな。」
詠唱魔法は魔源樹のじゃなくて世界樹の魔力を使うんだっけ。魔法というより儀式に近いイメージらしいけど。でも世界樹から魔力を引き出すこと自体が高度な技術が必要なことで、上位種族みたいに長命な種族が長い鍛錬の末に詠唱という補助をつかってやっと発動できるんだよな。ってパトリックの件の後にテルペリオンに教えてもらったんだけどね。
「俺たち、魔法の鍛錬なんてしたことないけど?なんで世界樹の魔力を引き出せるんだ?」
「そこが大問題だ。地球にも魔法は存在するものと思っていた。」
「どういうこと?」
「お前に魔法の使い方を教えたことが無いだろ?何故使える?」
「何故って、そういうもんじゃないの?」
「そんなわけなかろう。世界樹と違って魔源樹から魔力を引き出す事は容易だが、それだけで魔法が使えるわけがない。人類が幼少の時からどれだけ鍛錬を重ねることか。」
「じゃぁ最初の3人が魔法もどきを使えたのは?」
「地球にも魔法が存在するものと思っていた。だから疑問にも思わなかった。」
まぁ俺が使えるのも、地球でも使っていたからと思ったんだろうな。つまり、これも女神様の贈り物ってことなのか?
「魔法が出てくる物語ならたくさんあるけどね。」
「昨日詳しく聞いた。だが、実際に使えていたのでは無いのだろ?物語と同じ呪文を唱えてもらったが何も起きなかった。関係ないな。もっとも、何故魔法を知っているのかという疑問には答えてくれたがな。」
「じゃぁ転移の時に、魔法の使い方を教えてもらったのかな?」
「それについては、ありえなくはない。」
含みのある言い方だな。可能だったとしても、やる必要があるかと言われるとわからないしな。まぁ、そもそも世界樹が連れてきたのかすら分からないから不毛な話かもしれないけどね。
「前にエルフの遺跡に行った時にパトリックが詠唱魔法を使っていたよね。あれって遺跡の力なの?」
「そうだ。詠唱に反応して自動で魔法が発動するようになっている。」
「俺たちも同じ状態なのか?」
「自動で発動していると言いたいのか?」
「正直、魔法を使うのに何かを意識したことないんだよね。」
「そうだとすると、転移者はある意味で上位種族を超える存在ということになるが?いずれにしても転移者が何者なのか考え直す必要がありそうだな。」
「人間ではないってこと?」
「正確にはどの種族にも当てはまらない、だな。」
本来は別の世界にいたわけだし、こっちの人間と違ったり、どの種族にも当てはまらなかったとしても変じゃない、よな。イメージができているかの問題じゃないのか?
「地球だとさ、魔法って映像化されたりもしているんだよね。だからイメージが濃いとかないかな?」
「映像、というのも昨日聞いたがな。ではこの世界の人類はどうなる?映像どころか実物を見ているのだぞ。」
「まぁ、確かに。」
そりゃ実物を見ている方が映像より鮮明なイメージになるか。じゃぁなんで魔法を使えるんだ?
「詠唱魔法を使えるということ自体は転移者にとって良いことなのかもしれん。特有の能力であることに違いはないからな。だが・・・、」
「だが?」
「同じことを言うがな。転移者が何者であるか、もっと知る必要がある。転移地点を確認した後に、全員エルフの里に来てもらうぞ。そういう調べ事はエルフが一番得意とする所だからな。」




