強いトキヒサと強くないはずの時久
3章はもう少しだけ続きます。
「ねぇねぇ。九十九君、アリシアさんとはどこで出会ったの?」
「どこって、王都だけど。」
さっきから俺とアリシアの馴れ初めをずっと聞いてくるのは川井花音だったか。街に行く途中で、みんなで野営の準備をしているんだから話ばっかりしないで手伝ってほしいんだけどな。
「それでそれで。一目惚れだったの?」
「一目惚れというか、なんというか、」
「違うの?」
便乗してるのは、えーっと、伊藤ゆかりだな。ちゃんと準備しているんだろうな。
「それはだな、」
「それはそれは?」
「また今度話すよ。」
「なにそれ?」
ダメだ、諦めてくれそうにない。なんとか逃げられないかな。周りの様子は、アリシアは魔法でテントを作っている途中で、エイコムは男3人を引き連れて焚き火の準備をしていて、女2人は食料の下ごしらえをしてくれていて、残りの2人が俺の事を質問攻めにしてきている。うん、逃げ場は無さそうだな、なら作っちゃうか。
「まだテルペリオンに会った事無かったよね?」
「突然どうしたの?」
「いや、一回くらい直接挨拶した方が良いと思ってね。」
「えっ?えっ?」
街道沿いに行くとはいえ、危険がないわけではないからテルペリオンとはリンクしてあるんだよね。ここは広いから呼んでも問題ないしね。じゃぁ早速、
「何かあったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど、まだみんなと直接会ったことないよなって。」
「ふむ、それもそうだな、待っていろ。」
「「呼んじゃった?」」
「呼んじゃったよ。すぐ来ると思うけど。」
って身だしなみを整えながらエイコムの後ろに隠れに行っちゃった。そこまでする必要はないんだけど、ルーサさんに何を言われたんだ?っと来たな。
「待たせたな。」
「おおー本物だ。」
「馬鹿、頭を下げろ。」
ドラゴンの姿を見て男2人が騒いでいる。確か佐久間健一と杉山大介か。
「かしこまる必要はないんだがな。ルーサと会うのも初めてだったか。」
「そうね。よろしく。」
「なぁなぁ。時久、この間の聞いてくれよ。」
いつの間にかマコトが近づいてきて、例の恥ずかしい質問を催促してきてやがる。
「やっぱり自分で聞けば?テルペリオン、マコトが聞きたいことあるんだってよ。」
「お、おい。」
「なんだ?」
「あ、え、えーっと。俺達って、仕事がなくて困っているじゃないですか。もし時久とかエイコムさんと同じくらい動ければ、仕事になるのかなと。」
「仕事にはなるだろうが、可能なのか?」
「時久もテルペリオン様に鍛えられたと聞いているので、誰かに鍛えてもらえれば出来るのかなと。」
「ん?エイコム、彼の強さはどれくらいだ?」
「はい。一般的な人間と同じくらいかと。」
「では難しいのではないか?」
「・・・え?テルペリオン、なんで難しいなんだ?」
「どういう意味だ?」
どういうって、話が噛み合っていないな。俺とマコトって同じくらい、というか転移前は確実にマコトの方が強かったよな。
「えーっと、俺とマコトってそんなに違うのか?」
「違うどころではないだろ。トキヒサ、お前は私と会ったときには既に並のガーダンに匹敵する戦闘能力を持っていたではないか。」
「は?」
「エイコムと互角なのだろ?彼女は免許皆伝だぞ。」
エイコムってそんなに強かったの?ということは、俺って魔法なしでもガーダン並に強いってこと?
「気付いていなかったのか?アリシアも貴族なのだぞ、素手で勝てるだろ。」
確かに、そう言われれば爵位授与式に貴族の人達とたくさんあったけど、素手でなんとかなりそうな人ばかりだったな。アリシアは支援系だから気にしていなかったけど、貴族ってみんなあれくらいの強さなのか?
「つ、九十九ー。さては転移前もコソ練していたな。」
「ちょ、ちょっと待て、お前は黙ってろ。失礼しました。」
「それはどういう意味だ?」
「だっておかしいじゃないですか。」
「頼むからやめてくれ。失礼しました、テルペリオン様。九十九のことは転移前も知っていたのですが、そんなに強いという認識が無かったという意味です。」
コソ練なんてしてないってば。でもテルペリオンいわく転移直後で大きく差が開いていたのか、なんでだ?
「地球でも強かったのではないのか?では何故そんなに差が出るのだ?」
「そんなの、女神様の贈り物的な何かでしょ?九十九だけズルいじゃないですか。」
そう言ったあと、佐久間健一はみんなに連行されていってしまった。それで、ルーサさんにこってり絞られちゃってるな。
「トキヒサ、女神とはなんだ?」
「女神は、こっちなら世界樹と同じ存在だね。」
「つまり世界樹が転移の原因という意味だな。その時にトキヒサへ何かを与えたと。」
「そこまで深く考えてないと思うけどね。」
「・・・何故だ?・・・10年で何か変わったのか?・・・前例はあるが。・・・それにしても妙だ。」
あらら、なんかすごく真剣に考え始めちゃった。そりゃ変だと思うけどさ、マコトより俺の方が強いなんて。
「あのー、九十九君?」
「ん?」
この子は、岩本薫だったか。やけに遠慮気味だな。
「九十九君って、テルペリオン様に会うまでに苦労したんだね。」
「え?なんで?」
「だって、転移してから大変だったんでしょ?」
うーん、そりゃ大変だったよ、大変だったけどさ。テルペリオンと出会ったのって、転移してから3ヶ月くらい経ってからだよな。今のマコトと同じくらいの時期だし、それに牢屋に拘束されていた俺と、炭鉱で働いていたマコトだったら、マコトの方が体力あるだろうし強いだろうし。
「ねぇ、九十九君。怒らないで聞いて欲しいんだけど、九十九君がそんなに強いのは違和感があるんだよね。」
「大丈夫。俺も変だと思っているから。」
梶原美紀の言い分は正しいと思う。だって本人もそう思っているし。
「トキヒサ。人間の街に着いたら、少し滞在する予定だったな。」
「あぁ、そうだけど。」
「お前が惚気ている間に、転移者達から詳しく話を聞く。今は忙しいだろうからな。ルーサも一緒にどうだ?」
「いいわよ。私も気になったから。」




