トキヒサの事情と時久の相談
「それで、転移した場所ってどこ?」
「ルーサと会った場所ってどこだっけ?」
「ちょっと待ちなさい。地図を持ってくるわ。」
それでルーサに場所を教えてもらったんだけど、人間の街で出会ったんだな。ドワーフの国との国境付近だったのも踏まえると幸運なことで。肝心の転移した場所は街からそんなに離れていないらしい、みんなの記憶によるとだけど。
「それなら、この街でゆっくりしつつ行こうか。」
「ん?俺達の心配なら大丈夫だぞ。十分ゆっくりできたし。」
「いや、これは俺の問題だ。」
「どういうこと?」
「最近、アリシアと2人きりでゆっくり出来ていない。」
「「「「「「「・・・。」」」」」」」
「どうした?」
「へー。」
「この野郎。」
「新婚みたい。」
「九十九君って、そんな人だったのね。」
「意外。」
「羨ましい奴。」
「ずっと我慢してたのか?」
だー、いっぺんにしゃべるな。いいだろ別に、2週間近く部屋が別々でゆっくりできなかったし、ここから転移場所までの道中も2人きりにはなれないだろうし。この街でゆっくりするしかないだろ。なんだ?その目は。
「やれやれ。トキヒサ、方針が決まったのなら私はもう行くぞ。ではな。」
「あ、ああ。また後でな。」
テルペリオンとのリンクが切れた。のはいいけど、みんな見計らったように寄ってくるな。
「じゃぁさじゃぁさ。街についたら2人部屋にしなきゃね。」
「そうかもしれないけど、大丈夫なのか?魔力無しって下手したら豚箱送りなんだろ?」
「なによ、2人の邪魔したいの?」
「そういう訳じゃないけど。」
「あっ、その心配はない。登録さえすれば捕まえられたりしないから。登録するまでは注意しないといけないけど。」
「そんなにすぐに登録できるのか?」
「大丈夫じゃない?ダメなら部屋でおとなしくしてもらうことになるね。」
「・・・。」
「エイコムに警護してもらえば変なことにはならないって。」
「ならいいんだけど。」
「いいじゃない、それくらい協力しましょ。」
「じゃぁ決まりということで、ここから街までの準備をするから。ルーサさん、それとマコト、手伝ってくれない?」
「いいわよ。」
「お、おう。じゃぁみんな、後でな。」
早めに話は切り上げてしまおうか。アリシアとゆっくりするのは決定事項だしな。マコトとルーサに話したいこともあるし、とっとと部屋を出ていこう。
「なぁ、九十九。俺も名前呼びしていいか?」
「え?あ、ああ良いけど。こっちじゃ名前呼びが普通だからつい。」
「そんなこと気にするなって。」
「そうか?じゃぁちょっと聞きづらいこともあるんだけどさ。」
「なんだよ、遠慮すんなって。」
「あとで残り6人の名前を教えてくれないか?さすがに10年も経つと忘れちゃって。」
「あぁそんなことか。でも俺の名前は覚えてたじゃん。」
「それは、まぁ。」
「あと末次さんの名前も覚えてなかったか?」
「それも、まぁ。」
「おいおい、はっきり言えって。」
イテテ、小突くな。別に深い意味は、無いこともないけど。
「まっ、いいや。それより俺も聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「時久って、格闘技でもやっていたのか?」
「転移前はやってなかったな。」
「転移後は?」
「テルぺリオンに絞られた。」
「やっぱりな。」
今思えば、よくテルぺリオンのしごきに付いていけたよな。自分にそんな体力があったとは。
「なぁなぁ。時久はドラゴンの加護が無くても、1人でやっていけるんじゃないか
?」
「どうかな?魔力無しは無理じゃない?」
「でもエイコムさんとほぼ互角だろ?スタンガンみたいな魔法しか使っていなかったし。」
「うーん。」
そう言われると確かにエイコムと互角ぐらい、なのか。エイコムがガーダンの中でどれだけ強いのか知らないけど。ガーダンと同じ戦闘能力なら意外にやっていけるのか?
「魔法無しでやっていけるかをさ、テルペリオン様に聞いてみてくれない?」
「俺がか?テルペリオンに直接?」
それはちょっと恥ずかしいというか、情けない質問というか、だってお前無しで俺はやっていけるのか?って聞くってことだろ。
「頼むって、テルペリオン様とは話しにくいんだよ。」
ルーサさんに散々注意されてたみたいだし、気持ちはわかるけどさ。聞きにくいもんは聞きにくいんだよな。
「考えとくよ。それにしても、マコトもみんなも元気だよな。」
「そうか?」
「だって炭鉱で働いていたんだろ?もっと早くダウンしそうだけど。特にマコトはガーゴイルと戦える体力まであったし。」
「あぁ、まぁ、そう言われれば転移前より体力があるかもな。転移の時の女神様からの贈り物だったりして。」
「まさか。」
「でもどうやってここに来たのか誰も覚えてないんだろ?」
「それはそうだけど、だとしたらもっと良い贈り物が欲しいね。」
「確かに。」
「まっ、いいや。そうだ、ルーサさん。」
「なに?2人で盛り上がっちゃって、忘れているのかと思っていたわ。」
「わるいわるい。女子の方の準備で聞いて欲しいことがあるから、少し2人で話せる?」
「いいわよ。マコトはここで待っていなさい。」
「わぁってるよ。」
本当の事をいうと、ルーサさんと2人で話したいだけなんだけどね。ちょっと離れて、この辺で良いかな。
「それで話なんだけどさ。」
「なに?というか女の子達の準備は、私とアリシアだけでやろうと思っていたんだけど。」
「じゃぁそこは頼んだ。実はみんなに話すか迷っていることがあってさ。」
「そうなの?」
それで転移者が他に4人来ていた事を話して、3人はもういなくて、1人はエルフの里でお世話になっていることを伝えて、
「で、この事をいつ話すか迷っているんだけどさ。」
「そうねぇ、あの子達にとっては辛い事かも。エルフの里の1人って大丈夫なの?」
「どうだろう。何かあったら連絡が来るはずだけど。」
「エルフって言うのが心配なところね。理性の塊みたいな連中だから、人の感情なんてわからないだろうし、逆に良い方へ向かうかもしれないけれど。」
「あの時は他に選択肢が無かったんだよ。人間の中で生活するのは辛いだろうし、」
「それはわかるわ。みんなに話すのは後にした方が良さそうね。理由を聞かれても答えられないから。好きな仕事ができないってだけでも辛いのに、加えて好きな人と結婚もできないなんて。」
「そうだな、わかった。ルーサさん、お願いがあるんだけど。」
「その子の相談に乗ってあげて欲しいってことなら任せてちょうだい。」
「良いのか?ありがとう。」
「いいわよ、お礼なんて。こういうのが好きなだけだから。落ち着いたらエルフの里に行きましょ。」




