10年前の夢と10年後の日常
森をさまよう。ひたすらさまよう。
村があった。村を訪れた。
魔法を使われた。魔法を使えなかった。
身元を聞かれた。正直に話した。誰も信じない。
拘束された。都市へ運ばれた。疑われている。
別に何もしていないのに、何故?
逃げ出した。あてもなく。逃げて、逃げて、逃げて。
そして出会った。ドラゴンだった。もう終わり、そう思った。
納得いかなかった。だから、抗った。
戦って、戦って、戦って。笑われた。
それからは。ドラゴンと話した。人と話した。
誤解を知った。この世界を知った。帰れないと知った。
貴族と出会った。大切な人と出会った。
それから、
そして、
そのあとに・・・。
「トキヒサ、トキヒサ。起きて。」
「うぅ。どうした?なんかあったっけ?」
「忘れたの?お父様に呼ばれていること。」
「子爵様に?」
「そうよ。早く準備してね。」
そういえば今日だっけ。すっかり忘れてた。早く着替えないと。
「夢でも見てたの?」
「ああ。10年前の夢を見ていた。どうして?」
「だって、うなされていたから。」
「そうなんだ。あの時は苦労したからね。」
あの時は、苦労というより死にかけたからな。いろんな意味で。
見知らぬ土地に飛ばされて、いきなり犯罪者扱いされて、酷いもんだったな。
「大丈夫?」
「おっおぅ。心配すんな。」
いきなり顔を覗き込んでくるなよな。
それにしても、まさかこんな綺麗な人と結ばれるなんて、夢にも思わなかったな。
今日は長いブロンドヘアーをハーフアップにしていて、
レースの付いた白いワンピースみたいな服もとても良く似合っているし。
「どうしたの?」
「・・・いや。なんでもない。」
「ふーん。」
「それより、なんで呼ばれたんだっけ?」
「それは、あとのお楽しみ。」
なんだそれ?でも嬉しそうにしているところを見るに、良い話なんだろうな。
「着替えたぞ。行くか。」
「うん。そうしましょ。」
部屋を出て長い廊下を歩くが、最近どうも居心地が悪くなってきたな。
いや、この屋敷が嫌なわけじゃないんだけど、居候というのがね。
妻の家に厄介になり続けるというのは、どうにも。
立場上好き勝手できないから、仕方ない事なんだけど。
途中で侍女だの執事だのが頭を下げてくるのもなんだかな。
「アリシアさま。トキヒサさま。おはようございます。旦那様がお待ちです。」
「おはよう。ベンジャミン。」
執事のベンジャミンはダイニングに案内してくれているが、朝食と一緒に話をするんだっけか。
一体、何の話なんだ?また無茶な依頼じゃなければ良いんだが。
「来たか。とりあえず座りなさい。話は、食べながらにしよう。」
相変わらず子爵様は固い喋り方をするな。性分なんだろうけど。
朝食は、いつも通り並べられているな。
「お父様。話というのは?」
「ふむ。トキヒサ。」
「はい。」
「あと3ヵ月で、君がドラゴンの加護を得てから10年になるな。」
「そうなります。」
「以前からあった話なんだが、ちょうどいい節目ということもあって、君に爵位が贈られることになった。」
なに?そんな話があったのか。というかアリシアは知っていたな。
これは、あとで問い詰めてやらないとだな。満面の笑みを浮かべやがって。
「なのでそれに合わせて王都へ向かってもらうことになった。良かったな。」
それだけって。平民扱いだった俺が爵位をもらうって、前代未聞のはずだよな?
まぁ子爵様らしいといえばそうだけど。
話が終わると朝食を黙々と食べちゃってるし。もっと愛想よくすればいいのに。
「わかりました。準備しておきます。」
とりあえず返事したはいいが、何を準備すればいいのかわからないんだけどね。
あとでアリシアに聞けばいいか。
とりあえず朝食を食べちゃおう。
さーて食べ終わった。
アリシアが食べ終わったら、部屋に戻ってさっきの話を問い詰めなければ。
ん?ノックか。
食事中に割り込んでくるのは珍しいな。
「入りたまえ。」
「お食事中に失礼いたします。」
「それは構わんが、一体どうした。」
「はい。先ほど一報が入りまして、魔源樹が一本切り倒されているそうです。」
「なんだと?」
おいおい。どこの誰だ?そんな馬鹿な事をしたのは。
流石の子爵様も驚いちゃってるじゃないか。
アリシアは、完全に手が止まっちゃってるし。
「本当なのか?警備はどうなっている。」
「それが、詳しいことまでは。コトがコトですので早くご連絡した方が良いと思いまして。」
「それもそうだが。」
考えこんじゃってるよ。無理もないよな、魔源樹に手を出すなんて。
誤報と考えた方が納得できるし。
というか、なんだか嫌な予感がする。
「トキヒサ。行って確かめてきてくれ。」
やっぱりな、そうなると思ったよ。
誤報な気もするけど、俺の仕事は外敵の排除だからな。
これもその一環ということで。
ん?アリシアが何か言いたそうにしている。これも嫌な予感が。
「トキヒサ。私にも手伝わせて。」
「え?いや、ダメでしょ。」
「どうして?」
「どうしてって。魔源樹に手を出すような奴がいるかもしれないんだから、危ないでしょ。」
「いいんじゃないか?」
え?子爵様?アリシアはまだいいとして、あなたまで何言っちゃってるんですか?
「魔物と戦うわけでは無いだろ?それに君に勝てる者なんていない。問題あるまい。」
なんですか、その高評価は?
そりゃドラゴンの加護を持っている人間は俺だけだけど、もっと強い種族はいるでしょうに。
というか子爵様も誤報だと思っているわけね。
危険が少ないのはいいんだが、アリシアを危ないところに連れていくのはな。
でもアリシアと一緒の方が楽しいし、どうしたものか。
「大丈夫よ。調べてみて危なそうだったら、街でおとなしくしているから。」
「本当だろうな?じゃ一緒に行くか。」
「やったー。」
まっ嬉しそうで何よりですよ。




