今後の委員長と今後のクレア
「パトリックさん。どうして。」
倒れて動けないパトリックを連れて戻ったのはいいんだけど、
ヨシエ委員長は予想通りの反応だな。
パトリックはクレアさんに介抱してもらって、これで最後だろうし放っておこう。
「なんでなの?九十九君。」
「委員長。俺はな、もう10年もここで過ごしてきたんだ。この世界で、アリシアと生きていくと決めているんだ。」
「そうじゃない。九十九君がアリシアさんの事を好きなだけなのはわかってる。そうじゃなくて、なんというか、同じ人間とは思えないの。」
あぁそういうことね。こっちの人間の考え方は俺だって未だに慣れてないからな。
ヨシエ委員長にとっては、理解できないことだらけなんだろうね。
というか、どうしようかな。
なんだか理由を話しても意味がなさそうというか、地球に帰りたいって雰囲気なんだよな。
「娘よ。ならばエルフの里で暮らしてみるか?」
「エルフの?」
「そうだ。エルフは生涯で1人しか愛さない。愛する者も自分で決める。」
「そう、なんですか?でも。」
「そこでゆっくりしながら、他の転移者を待てば良い。」
「え?みんなも来ているんですか?」
「みんな、かどうかは知らんがな。転移者が他にもいるという話は聞いている。」
そうなのか?そんな話、聞いてないぞ。テルペリオンが言うなら、そうなんだろうけど。
「あの、それなら私も一緒に探したいんですけど、ダメですか?」
「私とトキヒサと3人で探しに行きたいという意味か?アリシアが許すとは思えんが。」
気を使ってるんだろうけど、すごく遠回しな言い方だな。
まぁ、あまりハッキリ言っちゃうのもね。
「それは。」
「そういうことだ。さて、パトリックよ。」
「なんでしょうか?」
「今さら逃げようなどとは思うまい。ならば今日はここで夜を明かすとしよう。」
「はい、ありがとうございます。テルペリオン様。」
なるほど、そういうことね。
なら、アリシアとヨシエ委員長と3人で野宿の準備でもしますかね。
野宿の準備、って思ったんだけどな。本当に便利だな、この遺跡は。
パトリックに教えてもらった呪文を唱えるだけで、大体の準備は整えられるし、
野宿というよりコテージに泊まる感覚だな。
思ったよりとても早く終わって、暗くなる前に食事の準備もできたし、
そろそろパトリックを呼びに行こうかな。
「みんな、悪いな。全部任せちゃって。」
「ああ、ってパトリック。お前、大丈夫か?」
まだ仰向けに寝ている、というより動けないのか?
「大丈夫だ。魔力が尽きていてね。体は動かせないけど、特に問題ない。」
と言いながら起き上がろうとしているけど、全く動けていないな。
「パトパト。無理しないの。」
「お、おい。クレア。その呼び方は。」
「いいじゃない。これで最後なんだし。トキヒサ様、この度はご迷惑をおかけしました。」
「もういいよ。終わったことだし。」
「ありがとうございます。それでパトパトから聞いたんですが、使用人として雇ってもらえるという話は、辞退させていただきたいと思っております。」
「クレア。それは、」
「パトパト。そんなことしたらダメよ。私はもっと遠くへ行くべきなの。私が屋敷にいたら、トキヒサ様と会いにくくなってしまうでしょ。」
あぁそれは考えていなかったな。
俺の屋敷にクレアがいるとなると、パトリックも来にくくなるのか。
クレアに会いに来ていると誤解されちゃうからね。
「気にする必要ない。第一、全部俺がやったことじゃないか。」
「そんなこと言わないで。私も同じ夢を見ていたの。これはその代償よ。」
なんか揉めてる。どうしたものか。っと考えていたら、アリシアが目の前に、
「トキヒサ。そんな約束をしていたの?」
「ア、アリシア。これは、その。」
「別に怒っていない。でも、そういうことならお父様に相談した方がいい。」
「子爵様に?」
「うん。はっきり言って貴族の屋敷の使用人はやめた方がいい。
どこに行ったとしても良くない感じになると思うから。
お父様に頼んで一般人の屋敷を紹介してもらわない?」
「この間の代表の屋敷とか?」
「そう。」
確かに。一般人の屋敷なら、皇太子が直接訪れる用事なんてないから、特に支障はないか。
「アリシアさん。パトリックさん達を助けてくれるんですか?」
「私は、みんなの考えが間違っているとは思っていないから。ただ、同じにはなれないだけ。」
「そう、だったんですね。ごめんなさい。私、」
「いいの、気にしないで。私も言い過ぎちゃったし。ごめんね。」
仲直り、したのか?まぁ2人とも悪気があったわけじゃないからな。
すごい距離感を感じるけど。
「お気遣いありがとうございます。お申し出は大変ありがたいのですが、一度実家に帰ろうと思っていますので。」
クレアさんは、どうしても俺達に頼る形になるのに抵抗があるみたいで。
パトリック達は、たとえ実家であっても、この先どうなるかわからないと引き留めているけど。
結局クレアさんの意思は変わらないままで、話が終わると沈黙が続いてしまって、
「ねぇ、九十九君。食事はどうしようか?パトリックさんは動けないみたいだし。」
「うーん。ここで食べようか?暗くなってきたから、焚火でもしてさ。」
それで焚火を準備して、食べ始めたけど、変わらず沈黙が続いてしまって。
食べ終わってからも、焚火を見ながらちょっと話す程度だし。
みんなそれぞれ思い詰めているみたいで、静かな夜だな。




