戦う皇太子と戦うトキヒサ
晴天。夕暮れ。
「残念だよ、トキヒサ。こうなるかもとは思っていたけどね。」
「そうだな。」
湖の上空、約50m。風速、約5m。
「一緒に暮らすのは無理でも、見逃してはくれないのか?」
「そうだな。」
敵との距離、約3m。戦闘準備、鎧形成開始。
「話を聞いているのか?」
「そうだな。」
0秒経過。杖を確認。鎧形成完了。
0.1秒経過。互いに急加速、そのまま前進。
0.3秒経過。炎盾の形成開始を確認。こちらも盾の形成を開始。
0.5秒経過。炎盾も振り上げを確認。盾を前に構えて前進。
0.8秒経過。炎盾の形成終了および振り下げを確認。そのまま前進。
1秒経過。激突。
1.1秒経過。力の拮抗を確認。出力維持。
2.7秒経過。引き続き拮抗。盾の硬化開始。
3.1秒経過。盾の硬化終了。
4秒経過。一時後退、上空へ加速、敵の背中へ一撃。敵の落下確認。
4.6秒経過。追撃開始、一旦中止。
4.9秒経過。光弾、複数接近。急上昇、迎撃準備、炎弾を複数展開。
5.1秒経過。互いの中間地点を中心とし円周運動開始、光弾および炎弾の射出継続。
5.3秒経過。光弾および炎弾の衝突開始。円周運動継続。
6秒経過。互いに同高度。円周から離脱、湖面まで後退、咆哮準備。
6.3秒経過。敵の追撃を確認。湖面を氷結、咆哮準備完了。
7.7秒経過。湖面へ着氷、咆哮。
8.2秒経過。炎盾での防御確認。咆哮継続。
9秒経過。炎盾の破壊確認。咆哮終了。氷を蹴り、急上昇、急接近。
10秒経過。生存および中度の損傷確認。
「容赦ねぇな。」
「そうだな。」
距離0m。盾を構えたまま衝突、上空へはね飛ばす、風による防御確認。
距離50m。雷雲の形成確認。空を蹴り、急上昇。
距離20m。落雷。1本目は回避、2本目は盾で防御、そのまま上昇。3本目以降は不明。
距離10m。盾の破壊確認。そのまま上昇に挑戦、雷の直撃により失敗、落下。
距離15m。姿勢制御、落下停止、成功。敵の追撃を確認、雷と共に急速接近中。
距離0m。直撃。鎧の損傷確認、湖面まで急速落下。
距離100m。湖へ着水、潜水、湖面まで上昇。雷雲の増大を確認。
迎撃『天を満たす湖水の奔流』、放射。
迎撃確認、不能。敵の損害、不明。戦闘終了確認、保留。
「派手にやったな。トキヒサ。」
「そうだな。」
「トキヒサ。もう決着しているぞ。」
「え?テルペリオン?」
終わった、のか。集中すると何を言われているかわからなくなるんだよな。
それにしても流石パトリック。鎧を壊されるとは思わなかった。
「それで、パトリックはどうなったんだ?」
「飛んでいったな。」
「いや、それくらいはわかるんだけど。」
「そうか?お前は戦いになると何も見えなくなるからな。」
「まぁ、そうだけど。」
「心配するな。どこへ飛んでいったかは確認してある。行くぞ。」
ずいぶん飛んでいったんだな。大丈夫だろうか?
「あそこだ。」
テルペリオンに降ろしてもらいながらパトリックの様子を確認してみるが、
仰向けに倒れていて、ボロボロだけど大丈夫そうだな。
「やぁ、パトリック。大丈夫か?」
「まぁな。・・・負けたのか。」
「そうだけど、流石だな。あの鎧を壊されるとは思わなかった。」
「よく言う。テルペリオン様と共に戦うのがトキヒサの本気だろ?」
「そんなことしたら、ただじゃすまないぞ?テルペリオンは手加減できないから。」
「それもそうか。」
仰向けのまま全然起き上がろうとしない、完全に力尽きたって感じだな。
「なぁトキヒサ。最後に頼みがあるんだが。」
そんな縁起でもない言い方はしないで欲しいね。別に取って食べたりしないって。
「なんだ?悪いけど、逃がしてくれって言うのは無しだぞ。」
「ははは。今さらそんなこと言わないって。クレアのことだ。」
「クレアさん?」
「そうだ。クレアの今後のことだ。」
「今後、ねぇ。」
まぁ良いことはないだろうな。
パトリックとは引きはがされるだろうし、その後どうなるかはわからないし。
「悔しいが、俺はもう守ってやれない。代わりに守ってくれないか?」
「代わりにって、言われてもな。」
「トキヒサは爵位をもらえるだろ?
領地はないかもしれないが、少なくとも屋敷はもらえる。
使用人としてクレアを雇ってやって欲しい。」
「あぁそういうことか。それくらいなら良いけど。」
「頼む。・・・みんなで暮らせれば、楽しかったんだけどな。」
みんなで暮らす、か。それはそれで楽しかったかもな。
でも悪いな、アリシアがいない生活は考えられないんだよ。
「なぁ、トキヒサ。」
「どうした?」
「俺はな、地球が羨ましいよ。
たとえ王族という身分ではなかったとしても、貴族であろうが何だろうが、みんな結婚相手には制限があるからな。」
「地球だって、何の制限もないわけでは無いぞ?反対されることもあるし。」
「反対、ねぇ。そんなのどうとでもなるだろ。でも俺たちは、能力が高いほどに不自由になる。」
「それは、そうだけど。」
「・・・もし、生まれ変われるなら、地球に生まれたいな。」




