助けたい委員長と助けられたい委員長
駆け落ちって、パトリックはそこまで思い詰めていたのか。こうしちゃいられん。
「トキヒサ待って。どこへ行くの?」
「どこって、パトリックを追いかけるに決まってるじゃん。」
「追いかけてどうするの?」
どうするって、どうするんだ?
「連れ戻すの?そのまま逃がすの?」
「いや、それは。」
「連れ戻さないとダメだよ。」
「わかってるよ。」
「・・・私も行く。」
「えっ、でも、きっとワイバーンの巣に行ったんだろうし、危ないよ。」
「ダメ、私も行く。トキヒサは絶対流される。それで逃がしちゃう。」
「それは、」
否定しきれん。仕方ない、一緒に行くか。
まぁ途中で追いつけるかもしれないし、巣に入る前にアリシアを降せばいいし、なんとかなるだろ。
「九十九君。良かった、見つかった。」
この声はヨシエ委員長か。なんだか嫌な予感が。
この2人、反りが合わないみたいで、会うたびに口論するんだよな。
というか、パトリックにはヨシエ委員長にちゃんと事情を説明してあげて欲しかったよな。余裕がないのはわかるけどさ。事情さえ知っていればヨシエ委員長もわかってくれると思うんだけど。
テルペリオンに相談しても放っておけって言われちゃうし。
「あのね、2人をこのまま逃がしてあげて欲しいの。」
「ちょっと待って。そんなことしたらトキヒサがどうなるかわかっているの?
何も知らないのに、無責任なこと言わないで。」
「何も知らないのは、アリシアさんじゃないですか。2人がどんなに悩んでいたか。」
「そんなの大したことない。」
「大したことありますよ。好きな人同士が結婚できるのは、とても大事なことじゃないですか。」
「あなたの世界じゃそうかもしれないけど。私たちの世界はそうじゃないの。」
「そんなのおかしいですよ。
それじゃぁ、アリシアさんは九十九君と結婚できなくても良かったんですか?」
「そういう問題じゃない。
みんな限られた選択肢の中から幸せをつかんでいるの。
全部が自分の思い通りになるわけじゃない。」
「おかしい、絶対おかしいですよ。九十九君、お願い。」
「トキヒサを巻き込まないで!!これから皇太子殿下を連れ戻しに行くんだから。」
どうすんだ、これ?まだ言い争ってるし、終わりそうにないし。
ヨシエ委員長には一から説明しないといけないから、すぐには説得できんしな。
まぁ悪いけど、置いていくかな、急いだほうが良さそうだし。
「委員長、悪いんだけど先に行くね。」
「九十九君!?」
「あとでちゃんと説明するからさ。」
「待ちなさい。どこに行ったか知っているの?」
「え?ワイバーンの巣でしょ?」
「違う、別の場所に行ったの。」
「なによそれ。トキヒサ、聞く必要ないからね。」
「本当よ。私も連れてってくれるなら、場所を教えるから。」
「そんなの信じられるわけないでしょ。」
「九十九君。お願い。」
困ったな。委員長が嘘をついているようには見えないんだけど、今さらそんなこと言われてもね。
痕跡が残っていれば問題ないんだけど、パトリックがそんなミスをするとは思えないしな。
「おかしいじゃない。あなたは皇太子殿下に逃げて欲しいんでしょ?居場所を教えるわけない。」
まぁそうなんだよな。もういいや、準備してテルペリオンと合流しよう。
「話はわかった。どっちに行くんだ?ワイバーンの巣か、その娘が案内する場所か。」
合流したのはいいんだけど、ヨシエ委員長が付いて来ちゃったし。
振り切ること自体は簡単なんだけど、なんかやりづらいんだよな。
「テルペリオン様。この人は皇太子殿下を逃がそうとしているんです。
話を聞く必要はありません。」
「ふむ、トキヒサ。パトリックが拾ったというのはこの娘か?」
「ん?そうだけど。」
「そうか。娘、皆が真剣なのは伝わっているな?それでも行先を知っているというのか?」
「え、あの。はい。」
「・・・いいだろう。どこへ行ったんだ?」
え?テルペリオン?なんでそんなにすぐに信じられるんだ?アリシアも驚いているし。
ドラゴン相手に反論はできないみたいだけど、納得もできていないみたいだな。
「テルペリオン。自身満々だけど、大丈夫か?」
「問題ない。」
「あの、聞いたあと置いていったりしないですよね?」
「信用するから聞いている。置いていくつもりなら、はじめからこんなこと聞かん。」
「・・・北にある大きな湖です。」
なんかテルペリオンの一声で決まってしまったな。たまにあるんだけど。
道すがら理由を聞くかな、アリシアが不満そうにしているし。
となると、頭に俺とアリシアが乗って、ヨシエ委員長には手に乗ってもらうのが良さそうだな。
では早速。
「乗ったな。では行くぞ。」
湖までは大体30分くらいかな。その間に理由を聞くか。
「テルペリオン。なんで委員長のことを信じられたんだ?」
「あの娘のことか?あれはな不安なんだよ。」
「不安?」
「ずっと世話になった皇太子がいなくなってしまう。
次に頼りになるのはトキヒサだが、その妻のアリシアとは折り合いが悪い。
1人ぼっちになってしまわないか不安ということだ。」
「だから皇太子の行先を教えてくれたのか?」
「だろうな。あの娘は、助けようとしているつもりなんだろうが、本当は助けられたい。
つまり皇太子に行って欲しくないということだ。
それに、ここで嘘をついたらトキヒサとも完全に対立してしまうだろ。」
「なるほどね。」
「それにだ、あの皇太子が事前に話したワイバーンの巣へ安直に向かうと思うのか?我々が追ってくるのが目に見えているのに。」
「それもそうだな。」
言われてみればって感じだな。
「自分勝手ですよ。」
アリシアさん?そんなに怒らないで欲しいな。




