アリシアの母とアリシアの想い
今週は朝7時過ぎに投稿予定です。
プライベートな理由で申し訳ありませんが、
引き続き完結に向けて投稿しますので、よろしくお願いします。
「トキヒサ。王都に来たら、寄りたいところがあるんだ。」
「ん?いいよ。授与式まで時間があるしね。」
爵位の授与式のために王都に到着した途端、アリシアからお願いされたんだが。
断るわけがないのに、妙に緊張した雰囲気でどうしたんだろうね。
「ありがとう。ベンジャミン、そういうわけだから先に王宮に行っていて頂戴。」
「かしこまりました。お待ちしております。」
「またあとでな。ベンジャミン。」
お辞儀しているベンジャミンを置いて、アリシアとデート、って雰囲気でもないんだよな。
どこへ行くんだろう?王都の郊外に向かっているみたいだけど。
「ここか?」
「うん。」
ここは、公園?細い木が一本だけあって、周りには何もないな。
というかこの細い木、よく見ると魔源樹か?とすると、まさか、
「この木ってもしかして。」
「トキヒサは初めてだよね。そう、私のお母さん。」
アリシアの母親が王都で何者かの手にかかった事は聞いていたけど、こんなところで。
この世界での殺人は珍しい事らしいけど、全くないわけでもない。
それにしても細いな。
「驚いたでしょ。こんなに細いなんて。魔力もほとんどないんだ。」
若いときに死んでしまうと、その分魔源樹の魔力が少なくなってしまうらしい。
アリシアが生まれた直後に母親はこうなってしまったから、
こんなにも細い魔源樹になったんだろうな。
「アリシア、その。」
「大丈夫。一度、見ておいて欲しかっただけだから。」
一般人ならともかく、貴族はより強い魔法を使えることを求められるから、
親の魔源樹の魔力が少ないのは致命的らしいな。
アリシアは、昔それで苦労していたって聞いたことがある。
「アリシア。昔のことは、もう気にするな。」
「うん、ありがとう。でもそれは大丈夫なんだ。
辛いこともあったけど、おかげでトキヒサと結ばれたから。」
貴族なのに、子に継承できる魔力が少ない。
そんな微妙な立場だったから、俺との結婚が認められたんだったっけ。
それにしても、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
「でもね。」
「でも?」
「お母さん、切り倒されちゃうんだ。魔力はほとんどないし、場所がね。」
「そうなのか?反対しないのか?」
「もう認めちゃった。」
「・・・そうか。」
それなら、俺から言うことはないか。親子の問題だしな。
「だから、その前に一度ね。ありがとう。もう十分。行こ。」
励ましてやりたいんだが、なんて言ったらいいのかわからん。
もう10年も経つのに、この世界のこと理解できていないことが多いし、アリシアのことも。
不甲斐ないな。
「お帰りなさいませ。ご夕食の準備は整っております。」
王宮、といってもその別館に滞在することになっているんだが、
生活は全部ベンジャミンに任せられるから楽でいいな。
テルペリオンが近くにいないから、なんとなく物足りない感じはするんだが。
近くの山でのんびりしているんだっけか。
「トキヒサ、どうする?」
「お腹空いた。」
「ふふ、じゃぁもう夕食にしましょうか。ベンジャミン。」
「かしこまりました。」
そんじゃ、席に座って料理を待ちますか。っとそういえば明日からどうなるんだっけ?
「ベンジャミン。明日からどうすればいいんだ?」
「はい。授与式は1週間後ですので、
それまでトキヒサ様にはお召し物の準備と作法の最終確認をお願いしたいと存じます。
また、ご来客も何名か決まっておりますので、その応対もございます。」
「来客?」
「はい。授与式後のご来客が多いのですが、前にも何名かおりますので。」
「ふーん。」
「明日もご来客予定がございますが、ご存じありませんでしたか?」
「そうなの?」
初耳なんだが、アリシア?あっ目を逸らしやがった。言うのを忘れてやがったな。
「そ、そんなことより、トキヒサは授与式の後が大変よ。ね、ベンジャミン。」
しかも話を逸らしやがった。まぁいいけどさ。
「そうですね。授与式後は縁談関連のご来客が多くなりますので、」
「は?縁談?どういうことだ、聞いていないぞ。」
本当にどういうことだ?俺にはアリシアがいるんだぞ。
「だって、この間の3人の転移者、遺体が魔源樹になったでしょ。
だからトキヒサも魔源樹になれるってことだし、爵位ももらうんだし、当然じゃない?」
当然って、そういえば昔、テルペリオンに貴族は一夫多妻もしくは一妻多夫だって聞いたな。
なんでだっけか、たしか子供が少ない方が魔力が濃縮されて、
でも子供が少ないと不安定だから、とかなんとか。
もっとちゃんと聞いておけばよかったな、あとでちゃんと教えてもらおう。
「そんなに悩まなくても大丈夫だって。私がちゃんといい人見つけるから。」
アリシアさん?そうじゃない、そうじゃないんですよ。
そんな心配をしているんじゃなくて、俺はアリシアだけを愛したいんだ。
でも地球の常識が全く通じない事があるからな。
アリシアはものすごく嬉しそうにしているし。
子爵様が俺の立場がどうのと言っていたのはこのことか。
俺が魔源樹になれるかわからなかったから、今までこんな話にはならなかったんだな、きっと。
どうしよう、やる気満々のアリシアを説得するのは容易じゃなさそうだぞ。




