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異世界転移と異世界の歴史

挿絵(By みてみん)


 長老の村の近くの空地に、巨大な献花台が設置されていた。ドラゴンの葬儀が行われることは初めての事らしい。孤高を好むドラゴンは、その生涯も独りで終わらせる。最期の日々をどう過ごしているのかドラゴン同士でもわからないらしく、当然その死体も見つかることはない。

 そう考えるとテルペリオンは異例中の異例だったのだろう。人間が必要に応じて欲望を抑えるように、テルペリオンも孤高であることを抑えてくれたんだと思った。遺体があるわけではないが、その巨体と同じくらいの広さに花々が広げられている。

 「トキヒサ、こっちよ。」

 小さくて見えにくかったが、ルーサさんに呼ばれた。マコト達も来てはいるが、テルペリオンと一番親しかったという事で俺だけ特別扱いされている。

 葬儀といっても、ドラゴンの文化などわからないのでどうすればいいか誰にもわからない。なのでどんなことをするのか話し合いが行われ、俺も参加していた。その場では墓を作ろうとか、記念碑でも建てようという話も出てきたが、テルペリオンが望むような事では無い気がしたので反対した。むしろ形に残すようなことはして欲しくないんじゃないかと思う。

 そんなことを考えていると、エルフの歌が聞こえてきた。死者を弔うための悲しき鎮魂歌。その歌の中で、各種族の代表が一歩前に出て祈りをささげる。俺は勇者の代表として、そしてテルペリオンを一番よく知る者として共に祈った。

 

 「終わったわね。本当にこれだけでいいの?」

 「ああ。静かに送ってやりたいし、俺に望んでいることはこんなことじゃないと思うんだよね。」

 「そうね。魔王をちゃんと倒せてよかったじゃない。」

 「これで終わりならいいんだけどね。」

 魔源樹は無数にある。まだ魔王と同じ心を持った魔源樹があってもおかしくないし、これから生まれてくる事も考えられる。テルペリオンがどこまで頼むつもりだったのかはわからないが、これからも魔源樹の動向は確認していきたいと思っていた。

 「大丈夫よ。あの子たちも良い子たちよ。」

 「そうだね。」

 本人が問題を起こすとは思っていないが、だからといって安心できない。魔族と勇者は表裏一体で、何かのきっかけで裏表が逆転してもおかしくないのだから。

 「ここにいたのか。葬儀はもう終わったのだから、次の話を進めるぞ。ついて来い。」

 「あなたねぇ。本当にエルフには心というものがないんだから。」

 エルフの長に見つかってしまった。エルフ以外の種族はまだ感慨にふけっているというのに、彼らにそんな素振りはない。ルーサさんは呆れたように言っているが、追及したりしても仕方が無いとわかっているのでそれ以上は何も言わない。

 ついて行った先に見えてきたのは長老達が住んでいた家。誰も住んでいないはずのその中に入っていく。ドラゴンや巨人が入るには小さそうな部屋で、エルフだけ椅子に座った。

 「この辺りで問題ないな。では、新しい長老会でも開こうか。といっても、まだ2名しかいないがな。」

 「長老?ルーサさんが?」

 「ええ。そういうことになったみたい。」

 「実はおばあちゃんだったの?」

 「し、失礼ね。他に適任がいないから引き受けただけよ。人間に例えれば、まだ30歳くらいなんだから。」

 胸を張って反論しているが、特に若いわけではなかった。

 「そんなこと、どうでもよかろう。それより君には勇者の代表としてアキシギルの歴史をしっかりと学んでもらうことになる。」

 「あ、はい。」

 ルーサさんと盛り上がる前に横入りされた。どうやらアキシギルについての教育が本題だったらしい。座るように促されたので、俺も目の前の椅子に座る。

 「ちょっと、まさか一度で教えるつもりじゃないでしょうね?無理よ。」

 「もちろん、そんなつもりはない。実際に見た方が速いものもあるからな。エイコムといったか、ガーダンと共にアキシギルを見て回ることになる。」

 そう言いながら机に地図を広げていく。アキシギルの地図を見るのは初めての事で新鮮だった。そして、図らずもテルペリオンと一緒にやろうと思っていたこととほぼ同じだったので懐かしく思う。

 「子供が生まれるんだったか。しばらくは一緒に暮らして構わんが、時期が来たら旅立ってもらうぞ。歴史を知ってもらうためにな。」

 「はい。」

 流石のエルフでも子供に関しては考慮してくれるようだった。旅と聞いて少し楽しみに思ってしまったが、それを察したのかエルフから一言あるようだ。

 「観光気分では困るぞ。」

 「わかってます。」

 「ならいいがな。それにしても、また人間が歴史の転換点を作るとはな。」

 俺はどういう意味なのかよくわからなかったが、ルーサさんはその意味を理解しているようだった。どこか神妙な表情に変わっている事からそう思う。

 「たしか、今は第七紀でしたっけ?」

 「その通りだ。流石に知っているか。勇者と魔族の誕生を受けて第八紀が始まる事になったがな。つまり、君は歴史的な人物になったわけだ。良かったじゃないか。」

 「え、ええ。」

 そう言われても、いまいち実感が湧かなかった。ただ一つ言えることは、これからは本当の意味でアキシギルという異世界の一員として生きていくという事。ただ巻き込まれて、なんとなく異世界で暮らすのではない。自分の運命を受け入れて、勇者として魔族に警戒しながら、アリシアと子供を守りながら、アキシギルの大地を踏みしめよう。


最終章【完】

最後までお読みいただきありがとうございます。

これにて本作は完結となります。


物語としては終わりとなりますが、

次話のあとがきで、

本作を書こうと思った経緯や

今後の方針などを含めて話しますので、

ぜひ、お読みいただければと思います。


 最終章投稿中も☆☆☆☆☆の評価と、

ブックマークが順調に増えてきており大変うれしく思います。


 今後ともよろしくお願いします。


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