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魔王とトキヒサ

 魔王は既に5本の杖を取り出していた。そのうちの1本がふるわれる。何も起きなかったように見えたが、テルペリオンとの一戦を思い出し上空を確認すると、予想通り剣の塊が現れている。

 剣の雨が降り注ぐ。最初の数本は指先の光弾で弾き飛ばすが、全てを防ぐことはできない。なので避けるしかないが、ただ避けるだけでは埒が明かない。魔王へ向かって駆けだした。

 光弾を正面から打ち込むが、障壁に阻まれた。構わず打ち込みながら接近する。また杖を振るおうとしたので、足に魔力を込めて一気に前に跳躍した。肩から着地し前転しながら後ろを確認すると、上からの重力で地面が陥没しているのが見える。

 立ち上がると目の前に魔王。作戦通り、これだけ近づけば剣の雨はもう来ない。後ろに飛び退き距離を取ろうとしているが、逃すまいと前に出た。近づいて、顔面に向かって手の平を突き出す。硬い感触があり、障壁がまだ存在している事がわかる。

 手の平で魔力を回転させる。障壁も回転させることで内部から壊していく。ちょうど腕を通せるほどの穴を作れたので、腕を通して魔王へ直接光弾を放つ。

 舌打ちしながら光弾を避けた魔王は、再び重力を作り出す。今度は、水平に俺に向かって重力が発生した。障壁から腕を通していたので、とっさに避けることが出来ず後ろへ突き飛ばされてしまう。そして頭上には剣の塊。再び降り注いだ剣の雨が迫りくる。

 『天を満たす光の奔流』

 避けきれるものではなかった。なので手の平の魔力の回転を、全身に広げていく。かつて湖水を巻き上げたのと同じ力、いやそれ以上の力で大気を操作した。 周囲のガレキを巻き込んで竜巻のように大気が動く。剣の雨を、その塊ごと吹き飛ばそうとする。だが、頭上から再び重力が発生し、2つの力がぶつかり合う。

 拮抗していた。下からの奔流と上からの重力。真正面から戦わずとも、避けることなど容易なことだ。いつもなら、本来のアレンの戦い方なら無駄な力など使わずに避けただろう。でも、ここで避けるのは良くないと思った。この戦いは、魔王側の魔源樹に力を見せつけるためのものでもあるのだから。

 なので力を緩めたりしない。逆に魔力を増やしていき、奔流の勢いも増大させる。重力に逆らえず落ちてきていた剣の雨を、強引に空へと押し戻す。魔力の総量で負けることはない。そのまま押し切るのは、思ったよりも容易だった。

 「ちっ。」

 魔王は舌打ちしながら重力を解除している。剣の塊すら巻き込む光の奔流を操り、魔王へとぶつける。命中したかに見えたが、障壁に阻まれている。だが、先ほど空けた穴のせいで強度が下がっていたらしく、打ち砕くことには成功した。

 チャンスと思い息を大きく吸い込みながら魔力を練り上げる。足場が問題ないことを確認し、咆哮を放つ。ドラゴンの魔力を模したそれは、魔王を完璧に捉える。

 命中はしたが、倒すまでには至っていない。吹き飛ばされ、ボロボロになりながらもまだ立ち上がろうとしているのが見えた。とどめを刺そうと駆けだすが、すぐに止まることになる。

 2つの魔法が発動していた。それは溶岩の蛇と雷の狼。テルペリオンを追い詰めたそれらを見て、つい武者震いしてしまう。敵討ちというわけでは無いと、どんなに言い聞かせても、魔王が憎いことは変わらないし無念を晴らしたいというのが本音だった。

 『溶岩を灼き尽くす光源』

 溶岩蛇を見て思う。テルペリオンの翼を溶かしたそれを、逆に溶かしてしまおうと。真昼の空の一点に魔力を集中させ、第二の太陽のごとく光源を作り出す。そこから光を照射し、立派だった翼を傷つけた溶岩蛇を跡形もなく灼き尽くす。

 溶岩蛇を灼き尽くす間、雷狼は地面を駆け抜けてきた。照射されている光を避けるように迫りくるのはわかっている。わかっているが魔法を2つ同時には使えないので対処できないし、テルペリオンのブレスでも消し去れなかった雷狼を半端な攻撃で対処できるとは思えなかった。

 なのでギリギリまでひきつける。ひきつけてから対処することにした。想定外だったのは雷狼の駆ける速度が思ったよりも速かったこと。それでも怯むことはない。

 『雷狼を縛る嵐』

 冗談抜きでギリギリのタイミングになってしまった。というより、片腕に噛みつかれていて、痺れてしばらく動けなくなってしまっている。それでも、雷狼そのものの動きを封じることには成功する。

 このままでもいいのだが、力の誇示が目的なので嵐の範囲を絞っていく。何度も雷光が走り、激しい音も鳴り響く。静かになり、嵐を解除すると雷狼も跡形もなかった。

 魔王は静かに立っている。魔力が無くなったのか、それとも諦めただけなのか。いずれにしても抵抗するつもりはなさそうだったので、一応は警戒しながらも魔王の正面までゆっくりと歩きながら移動した。

 そして、眉間に指先を向ける。最後に話すことがあるか考えたが思いつかず、魔王も何も語らない。無言のまま、眉間を撃ち抜いた。


挿絵(By みてみん)

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