アレンの意見とトキヒサの決断
自由。地球の人間は当たり前に持っていて、でもアキシギルの人間は持っていないもの。好き勝手にやりたいわけではない、少なくとも魔源樹を切り倒していい自由などはいらない。アキシギルの人間と自由に結婚できないのはわかる、でも勝手に決めないでもらいたい。仕事が無いのは仕方がない、本当にそうだろうか。全て思い通りにいくとは考えていない、ただ何も要求できず言われるがままになってしまうのは避けたい。
このことをアレンに説明する。表情などはなく枝が揺らめいているだけなので、どう思われているかわからなかった。ただ静かに話を聞いていたアレンは、おもむろに声を出す。
「話はわかったが、それで私にどうして欲しいんだ?」
「やって欲しいことではなく、教えて欲しいことがあります。俺達は何者なのでしょうか?」
アレンは黙ってしまった。それどころか動きが完全に止まっている。不安になりながら回答を待った。
「難しい事を聞く。上位種族がどう考えるか正確にはわからないが、新しい種族として認識される可能性は高いだろうな。」
「新しい種族?」
「テルペリオンに聞いた話では、かつてアキシギルに魔物は存在しなかったそうだ。詳しくは聞かなかったが、いろいろあったらしい。」
何があったのかも気になりはするが、それよりも新種族としてどういう扱いをされるのか考えてしまう。テルペリオンが生きていればと思ってしまった。
「それは、魔物と同じ扱いをされるかもしれないということですか?」
「残念なことではあるが、可能性はあるな。現に魔王は魔物と同じ扱いなのではないか?」
デンメスの態度を思い出す。他の上位種族にも同じことは言えるが、魔王の事を問答無用で処分しようとしていた。まるで魔物を討伐するように。
「確かに、魔王は魔物と同じように考えられているかもしれないです。」
「そうか、だからと言って魔物扱いされるとは限らないがな。」
アレンの声には全く自信がない。俺も楽観視は出来ないのではと考えていた。
「俺達は、ある意味で魔王と同じ存在です。そして、その魔王は魔源樹を害しています。なので、魔王については俺達で対処すべきではないでしょうか。でなければ、立場が無くなってしまう気がします。」
「で、どうするつもりだ?」
質問されて思ったことがある。昔の自分なら、なんて答えるべきかわからなかっただろうと。俺は、ただ強いだけの臆病者だった。肝心の決断はいつも人任せで、アリシアとヨシエ委員長が対立した時も自分の意見なんて何も持っていなかったし、マコト達が困っている時もただ流されているだけだった。戦い方までアレンに任せっきりだったというのは、笑い話にもならない。
だからだろうか。巨人と戦いたいと決めた時にテルペリオンが嬉しそうだったのは。思い返せば、あんな風に決断したのは初めてだったかもしれない。
アレンの質問にどう答えたいのか。自分がどうしたいのか。今ならはっきりわかる。テルペリオンが安心できたのは、きっとこうなると確信していたからだろう。
「ありがとうございます。おかげでやるべきことがわかりました。」
「ん?」
「戻ったら魔王と決着をつけようと思います。一対一で。」
葉っぱのこすれあう音が一段と大きくなった。どこまで本気なのか見定めているのだろう。やがて、俺が本気だと思ってくれたようで、忠告するように話し始めた。
「戦うのは良い事だと思うが、1人で戦う意味があるのか?死ぬぞ。」
「死ぬ、でしょうね。でも魔王をどうにかしようとしている姿勢を見せないと、この先どうなるかわからないので。」
「自己犠牲というわけか。確かに最善ではあるか。よく決断できたものだ。」
アキシギルを害している魔王に、対立する姿勢を示すこと自体に意味があると考えていた。たとえ勝てなかったとしても、その姿勢だけで認められるはずだと。アレンは感心したような声を出しているが、そんな風に言われるようなことではないと思った。
「俺は、そんなに立派ではないですよ。ここに来るまでに、何人の助言をもらい、後押ししてもらったことか。最後の最後に、道を踏み外すところでしたし。」
最初は1人で戦おうと思っていた。デンメスと再会しなかったら、今でも1人で鍛え直していたかもしれない。デンメス自身にそのつもりはなかっただろうが、結果的には助言されたのと変わらない。
それ以外にも、いろんな人に助けてもらった。エイコムに鍛えてもらい、ルーサさんに励ましてもらい、ココアさんに考え直すきっかけをもらい、マコトと話してやるべきことが決まり、ヨシエ委員長には相談に乗ってもらった。
子供が出来たと知って、アレンには会わない方がいいのではと思ってしまった。後押しされてここまで来たが、会って良かったと思う。自分がやるべきことを、決める事が出来たのだから。
「そんなに卑下するものではない。人間は全てを1人で決められるほど強くはないし、正しい決断を出来るほど万能でもない。例え促された結果だったとしても、最後に決めるのは自分自身だ。それで本当に1人で行くのか?君だけが犠牲になることはあるまい。」
「いえ、これは俺がやるべきことです。誰かがやらなければならないのなら、俺がやるべきです。もう、10年もアキシギルで過ごしてきましたが他のみんなはまだ来たばかりなので。心残りはありますが、わかってくれると思います。」
「そうか、わかった。では戻すぞ、いいな。」
「はい。」
目を閉じて、気持ちを整理する。アリシアには悪いと思うが、きっとわかってくれる。わけもわからないうちに、いなくなるわけでは無いのだから。それにしても、時間がかかっている。どうしたのかと不思議に思うと話しかけられた。
「待て。1つ話がある。」




