トキヒサとアレン
「私って、そんなに信用無いのかしら?」
パトリックに杖の場所を探してもらうと、見つかったのは長老の村だった。なので村に戻り、ルーサさん達はいち早く杖を見つけてくれていたようで、探してもらった事を伝えると少し不機嫌になってしまった。
「ごめんって、どうなってるのかわからなかったからさ。」
「まぁいいわ。それより覚悟は決まったの?」
「ああ。」
ルーサさんは一本の杖を差し出してきた。アレンに会おうと、いざ魔法を唱えようとして口ごもる。あのときは確か杖の魂の事を憤っていると表現していた。アレンは憤っているのかと、疑問に思う。むしろもっと穏やかな存在な気がしてならなかった。
なぜなら、アレンの杖には禍々しさが全く無い。どちらかというと神秘的な雰囲気で、怒っているというのは想像できなかった。しばらく呪文をどうしようかと考える。周りが心配そうにしているのはわかったが、焦っても仕方がないと自分に言い聞かせた。
そして、やっとふさわしい呪文を思いつく。自分の中のアレンのイメージや、杖の形から一番しっくり来る呪文を。
『穏やかなる魂との対面』
意識が杖に持っていかれるように感じた。呪文は正解だったようだが、つい抵抗しようとしてしまう。でも、それを感じ取ったのか分からないが、引っ張られる力が弱まった。なんのために呪文を唱えたのか。自分に言い聞かせながら、杖の奥底に意識を集中した。
「ここは?」
気が付くと、あたり一面が真っ暗だった。よく見ると遠くに小さな光が見える。それが星々だと気づくのに時間がかかってしまった。なにせ知っている星座が1つもなかったから。
「不思議か?」
後ろから問いかけられる。振り返るとそこにあったのは、いや、そこにいたのは一本の木。アレンの魔源樹だと、すぐにわかった。木が喋っているというシュールな絵柄も自然と受け入れてしまう。
「アレン?」
「いかにも。」
予想通りだった。そして自分がフワフワと浮いているだけなのに気づく。なんとか体勢を安定させようとするが上手く行かない。
「変な感じかもしれんが、慣れてもらうしかないな。それより、君はあの時の少年で合っているか?」
「ええ。アレンさんが復活するために使われた魂です。」
「そうか、敬称はいらない。君たちには申し訳ない事をしたと思っている。すまない。」
木の枝が揺れて、頭を下げているように感じた。とりあえず、アレンに会いに来たのは正解だったと思えて安心する。少なくとも、問答無用で体を乗っ取られる事は無かった。
「いえ。最後まで止めようとしてくれたのは知っていますので。」
「そんなことまで知っているのか?あれから10年ほど経っているが、何があったのか教えてくれまいか?」
アレンは現世で起きていることを何も知らないようだった。なのでこの10年で起きた事を話していく。特にテルペリンの事や、今更やってきたクラスメートの事を細かく説明した。
「テルペリオンか、懐かしいな。死んでしまったとは、悲しいものだ。」
心なしか落ちてくる葉っぱが増えているように見える。アレンの気持ちを考えると、気のせいとは思えなかった。
「ああ、すまない。つい感慨にふけってしまった。それで、魔王か。我らの王を勝手に名乗るとはな。」
葉っぱがぶつかり合いざわめいている。恐怖を感じるのは本能だろうか。心では怖いが、頭では安堵していた。魔王は自分が魔源樹の代表であるかのように語っていたが、それが嘘だとわかったから。
「どれくらいの魔源樹が魔王に賛同しているんですか?」
「その質問に答えるのは難しい。我らは最初こそ人間の心を保っているが、時が経つに連れて薄れていき、やがて心は失われる。これが本来の我らの姿であり、魔王達は異端と言わざるを得ない。現状で意識を保っている魔源樹は10分の1ほどで、そのほとんどは魔王派だが、だからといって魔王が我らの代表というのとは断じて無い。」
魔源樹が本来は心を失うという事は、テルペリオン達が言っていた事はほとんどが正しいようだった。10分の1というのが多いのか少ないのかはわからない。それより気になるのは、魔王達というくくりの中にクラスメート達も含まれているのではないかという点だ。
「俺達は存在しちゃいけないのでしょうか?」
「存在の可否か。それは、我らが決めることではない。アキシギルで今を生きる者たちが決める事だ。ただ、悪いようにはされないはずだが。」
「どうしてそう思うんですか?」
「どうして魔源樹なんてものが存在するのか、不思議に思ったことはないか?話せば長くなるので今は言わんが、魔源樹自体がアキシギルにとって不可欠なものだ。無下にはされん。気になるならエルフに聞いてみる事だ。」
正直に言うと魔源樹について不思議に思ったことはなく、そういうものだと考えていた。ただ、今は知らなくてもいいように思える。それよりも、俺達の立場がどうなるのか考えてしまう。
「大事にされるというのはわかりましたが、俺達に自由はあるのでしょうか?」
「自由?」
アレンは理解できていないようだったが、俺達にとっては大事なことだった。




