パトリックへの依頼とパトリックの受諾
「そうか、そんなことが。それにしても、よく1人でここまで来れたな。」
「鍛え直したからな。」
「いやいや。」
アレンに会いに行く前に、パトリックの所を訪れて今までの事を話した。テルペリオンが死んだことすら知らなかったようで、世の中と隔絶した生活をしているのが見て取れる。ワイバーンの巣の先に住んでいるのだから当然で、ここまで来るのには一苦労した。
「まぁいいや。それより何の相談なんだ?」
パトリックとクレアさんは予定通りエルフの遺跡で暮らしていた。遺跡といっても2人でリフォームしたようで俺の屋敷と同じくらい立派で綺麗なものになっている。勝っている点といえば広さくらいだが、2人で暮らすには十分だし競ったところで意味がない。
いわゆる客間のような部屋は流石に用意していなかったようで、リビングのソファに座って話している。クレアさんは遠慮して離席してくれていた。
「それがね、アリシアが妊娠してるんだ。」
「はぁ?」
テルペリオンの死よりも驚いているようだった。さっきまでソファに深く腰掛けていたのに、前屈みになっている。
「なのに、これからアレンに会いに行くのか。どうなるかわからないのに?よく許してもらえたな。」
「うーん、むしろ後押しされたんだけどな。」
むしろ会いに行くのをやめようかとアリシアに言った時に猛反対されたことを話した。手を組みながら苦笑いしているパトリックは、話を聞き終えると立ち上がって飲み物を取って帰ってくる。
「何というか、アリシアさんらしいというか。」
そう言いながら俺にも飲み物を差し出してきた。なんだかのどが渇いてたので一気飲みすると、パトリックも同じように一気飲みしている。
「まっ、アリシアさんがそう言うなら俺が止めたりするのは野暮だよな。それと、トキヒサがなんでわざわざ来たのかわかったぞ。」
「そうか?」
「失敗したときにアリシアさんの事を助けてやって欲しいんだろ?」
「正解。」
流石にわかりやすかったのか、どうして会いに来たのか簡単に見破られてしまう。だがパトリックの表情は暗く、どう切り出せばいいのか迷っているようだった。
「なぁ、悪いけどよ。俺に出来る事なんてほとんどない。そりゃ元王族ではあるが、今はこんな暮らしをしてるからな。」
元々遺跡だった部屋を示しながら説明される。自分には何もできないとアピールされるが、俺が頼みたい事とは違う考えをしているようだった。
「今パトリックが考えているような事を頼むつもりはないかな。多分だけど。」
「そうなのか?じゃぁ何だ?」
「ほら、たとえ親がいなくても仕事はあるんだろ?それすらもらえなかった時に助けてやって欲しいんだ。」
パトリックは首をかしげてしまっている。ソファに座り直しながら、どういうことなのか気になっているようだった。
「この体は魔源樹だったからさ。どんな子供が生まれるかわからないだろ?」
「化け物でも生まれるって言いたいのか?」
「それは、多分無いと思う。ただ、すごく強いか弱いかのどちらかな気がしてるんだよな。」
魔源樹の本来の目的は魔法を使ってくれる子孫を作ることだった。そういう意味では少なくとも人間の形で生まれてくれると思っている。魔源樹の思惑通りに魔法を使えるか、失敗して全く使えないか。使える場合、この体が詠唱魔法まで使えることを考えると、とても強い子供になると考えていた。そこまで説明すると、パトリックも納得した顔をしている。
「まぁ、話はわかったけどよ。」
「それじゃ、よろしくな。」
「あんまり期待するなよ。」
承諾はしてくれたが、自信はなさそうだった。どうすればいいのか考えてくれているのだろう。頭を搔きながら空っぽの容器を見つめていた。
「そんなに考えなくてもさ、俺が失敗した後にアリシアに伝えてくれればいいよ。後はなんとかするだろうから。」
「ん?あぁ、そうだな。」
「もう1つ、話があるんだけど?」
「なんだ?」
俺の言う事に一旦は納得したようで、パトリックは落ち着きかけていた。そんなところに話を追加したのでまた身構えてしまっている。
「子供の名前って、決めておいた方が良いかな?」
「おいおい。そんな大事な話をしてこなかったのか?」
「だってな。どうも遺言みたいで話しにくくってさ。」
「あのなぁ。」
呆れてしまっているようだ。ちゃんとしておかなければならないとはわかっていたが、名前の話をしてしまうと最後の夜という雰囲気になってしまうと思った。ただパトリックに頼みに行こうと思いついたので、一緒に伝言を頼めばいいのではと考えてしまったので今話している。
「後で教えるからさ。ダメだったら伝えてくれない。」
「まったく、わかったよ。ところで、肝心のアレンの杖は見つかってるのか?」
「え?そういえば、どうなんだ?」
呆れながらも承諾してくれた。仕方がないと思っただけかもしれないが。魔源樹についてはルーサさん達が調べてくれているはずだが、どうなっているかはわからない。
「知らんのかい。探してやろうか?」
「わかるのか。」
「大体な。要はトキヒサの体と同じ魔源樹を探せばいいんだろ?」
「よくわからんが、頼んだ。」
パトリックは髪の毛をよこせと要求してきた。意図はわかるが、少し抵抗を感じてしまう。ただこれでやるべきことは全て終わった、終わってしまったと思っていた。




