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覚悟していたアリシアと覚悟を決めるトキヒサ

 「ダメよ。行きなさい。」

 「なんでだよ。」

 子供が出来たと聞いて心が揺らいでしまい、勢いでアレンのところに行く事をやめようかと提案してしまった。色んな人の思いを踏みにじる事だとはわかっていたが、関係ないとも思ってしまう。アリシアは俺にとって最も大切な人なのだから、いくらアレンと会っても大丈夫だろうと思っていても、危険があるなら避けたいと考えてしまう。

 アキシギルでは、親のいない子供はそれだけで不利を抱えてしまう。俺は特殊な存在なので、居たところで無意味かもしれないが居るに越したことはない。アリシアは母親のいない事で苦労していて、その話は周囲から散々聞かされてきた。だから自分の子供に同じ思いはさせたくないし、アリシアも同じ思いだと、そう考えている。

 でもその考えは間違っているようだった。アリシアは背筋を伸ばして、真っすぐにこちらを見つめながら、明確に突っぱねてきた。わけがわからなかったので、つい語気を強めてしまう。

 「なんでって、トキヒサにはやることがあるんでしょ?」

 「そうだけど、親がいない子供がどうなるか、アリシアが一番わかってるんじゃないか。」

 「わかった上で言っているの。トキヒサが魔源樹の体だろうが、私は気にしない。トキヒサと一緒に居て楽しかったし、例え人間じゃなかったとしても気にしない。でも、子供はそうじゃないでしょ?」

 子供の気持ちを言っているのだろうが、まだ飲み込めていなかった。何であろうが親はいた方が良いと思ってしまっている。

 「子供は気にするのかな?」

 「だって、どんな子が生まれるかわからないじゃない。普通の子なら良いけど、魔法が使えなかったりしたらどうするの?なんて説明するつもり?」

 そう言われると、なんと答えれば良いのかわからなかった。言葉に詰まっていると、やさしい言い方で諭される。

 「みんなでアレンのところに行くって決めたんでしょ?私も望んでいるから、ね。」

 「あ、ああ。」

 理解はできるし、結局アレンに会うのが最善だというのもわかっている。俺達にとってというだけでなく、アキシギルにとっても一番だとわかっている。でも子供にとってはどうなのだろうか。

 アレンに会ったとして、何もわからなかったら。そのまま意識を乗っ取られてしまったらどうなるのだろうか。最悪を回避するのであれば、会わない方が良いようにも思えた。そんな事を考えていると、アリシアはさらに後押ししてくる。

 「あんまり心配しないで。この世界でもね、人が死んじゃうのは珍しい事じゃないから。よくある事でもないけど。」

 「そうなのか?」

 「うん。トキヒサはテルペリオン様と一緒だったから、あんまりわかんないかもしれないけどね。魔物に殺されちゃう人って多いんだよ?」

 確かに、今までは自覚していなかった。だが、エイコムに鍛え直してもらっていて疑問に思っていたことでもある。アキシギルの人間は、魔法があったとしても魔物と戦えているのだろうかと。

 だから、アリシアの言うことは素直に理解できる。自分の力だけで魔物と戦っていなかったらわからなかったかもしれないが。

 「テルペリオンがいなくなって、1人で戦ってみて、だからなんとなくわかる。」

 「そう、なんだね。トキヒサってさ、その魔物を倒す仕事をしていたでしょ?だから覚悟はしていたんだよね。」

 「覚悟?」

 「いつ死んじゃってもおかしくないなって。」

 そんな事を思っていたとは全く知らなかった。正直、負ける気が全くしなかったのも想像できなかった原因だろう。

 「全然知らなかった。」

 「うん。言わなくてもいいかなって。それでね、別に死んでほしいわけじゃないよ。でもね、やらなきゃいけない事を見失わないで。」

 「でもさ、」

 「テルペリオン様にも、お願いされたんでしょ?」

 それを言うのはズルいと思った。でもやらなければならないことは何かと聞かれれば、今はアレンに会う事と答えてしまう。違うと答えるほど盲目にはなれなかった。

 たしかに最初はアリシアに会って、自分の魔源樹の体と向き合う事が目的だった。でもそれはきっかけに過ぎず、体と向き合うには元々の持ち主であるアレンと会うことが必要になると考え直している。目をジッと見て気持ちを確認するが、全く逸らさないことから揺らいだりはしないと悟った。

 「じゃぁ、行ってくるよ。」

 「うん。気を付けてね。」

 どこか嬉しそうにしているのが印象的だった。行ってくるなんて言いつつも、今日だけは2人で一緒にいたいと伝えると微笑みながら頷いてくれる。数えきれないほど一晩を共にしてきたというのに、特別な意味がたくさんあって感慨深かった。

 そして夜が明け、アリシアに見送られて出発する。アレンに会うために、だがその前の最後の寄り道。何かがあったとしても、後を託せる唯一の親友のもとへ向かう。


挿絵(By みてみん)

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