子供だった者達と子供を育てる者
明くる日の朝、あいつらと話そうと代表の執務室をノックする。
正直、何を話すべきか、何ができるのかわかっていないけど、
アリシアの言う通り話をしたらわかることがあるかもしれない。
この時間なら代表の執務室にいるって聞いたんだけど、おっ返事があった。じゃぁ入りますか。
「トキヒサ様。おはようございます。昨日はありがとうございました。」
「いや、そんな大したことじゃないので。」
「あれが、大したことではない、ですか。流石としか言いようがないですな。」
「え?」
「まぁなんと言いますか、あれほどの魔法の中を突破できるとは、噂以上でした。」
「はぁ。」
「あっ失礼しました。それでご用件は?」
「えーっと。昨日の3人の様子は、どうですか?」
「様子、ですか。とてもリラックスしています。
まだ何も伝えていないので、そのせいかと思いますが。」
「そう、ですか。あの、お願いなんですが、その伝える役目を任せてもらえませんか?」
「トキヒサ様に、ですか?」
「やはり彼らと同じ転移者には任せられませんか?」
「いえいえ、そんな風に考える者はおりませんよ。失礼ながらまだ自覚されておられないようですが、ドラゴンに認められるというのは我々にとってはそれだけ大きいことなのです。ただ、その、トキヒサ様にとっては辛い役目になるのかと。」
捕まった3人と俺が知り合いだった事はもう広まっているからね。
詳しい所まではみんな知らないんだけど。
「大丈夫です。お願いします。」
「・・・左様ですか。
もうご存じだと思われますが、今回の魔源樹の被害は計8本になります。
処分内容に変更はありません。」
「わかっています。」
俺が知らないところで3本も壊したらしいんだよな。どっちにしてもって感じはするけど。
代表は返事を聞くと早速手配してくれた。
それで担当者と打ち合わせて、俺からは概要を伝えるだけにして、
その後に担当者が詳しい内容を説明することになった。
「やぁ。」
「あ?なんだ、九十九か。」
「君らの、この後について話に来た。」
「ああ、そうかい。」
相変わらず態度悪いね。後ろの二人は、興味ありそうだね。
「そんなに怒らないでさ、とりあえず九十九君の話を聞こうよ。」
「そうだな。で?九十九、いつここから出られるんだ?」
「チッ。」
代表が言っていていたとおり、すごくリラックスしているな。
それに、まさかもう全てが終わっているとは思っていない様子。
無理もないけどね。
本人達はちょっと木を切り倒して、
ちょっと暴れてただけと思っているだろうから、
ちょっと痛い目みて終わりと思ってそう。
「九十九君?どうしたの?」
「・・・なんというか、君らはここで全部終わりだ。」
「あ?」
「九十九。それはどういう意味だ?」
「君らは処刑される。それで人生は終わり。」
うーん、もっと直接的な言い方が良かったかな?
何を言われたのか理解できているのかわからん。
「ちょっと待てよ!!そこまでのことはしてないだろ!!」
「九十九君。今までのことは謝るからさ、考え直してくれない?」
「九十九。わけを聞かせてくれ。」
意味自体は、伝わってたみたいだな。
それぞれ抗議してくるところを見ると、全然納得はできていないみたいだけど。
そんなに暴れても出られないって。
「この世界ではね、人間は死ぬと魔源樹になるんだよ。
そして、魔源樹から魔力を分けてもらってみんな魔法を使っている。
君らはそれを切り倒してしまったろ?」
「んだそれ?そんなこと知るわけないだろ!!」
知らなかった、ね。そう言うだろうとは思っていたけど。
「そうは言ってもね。切り倒すどころか、傷つけようとするだけで重罪になるからね。
それに君らは森の中で何度も止められただろ。」
「九十九君。だから、ごめんって。この間のことは謝るからさ、なんとかしてくれない?」
「君らにとってはこの間のことでも、俺にとってはもう10年も経っているんだ。いまさら恨んでいるわけがない。」
10年前の恨みで、俺が指示していると思っているのか?そんなわけないでしょ。
「だがな、九十九。そんな設定わかるわけ無いだろ。」
設定?そんな風に考えていたのか?
「あのな。ここは地球じゃない、でも現実なんだ。
君らはゲーム感覚で楽しんでいたんじゃないのか?」
黙り込んじゃったよ。ということは自覚はあるみたいだな。
「九十九。どうにもできないのか?それとも何もしたくないのか?」
「どうにもしたくないし何もしたくない。
いいか俺はな、この世界で生きているんだ。
それに君らの保護者ではない。」
「チッ。じゃぁ何しに来たんだよ!!」
何しに、か。話すまで俺に何ができるのかよくわかっていなかったけど、
話してみてやっと気付けたな。
俺ができることは、
こいつらの人生を馬鹿な子供ではなく、
立派な大人として終わらせてやることなんだろうな。
「わかって欲しかったんだよ。
君らはみんなに守ってもらっている子供だったっていうことをね。」
「あ?エラそうにすんじゃねぇよ。」
「いいから聞けって。地球じゃこんなことにはならないだろ?
それはな、絶対にやっちゃいけないことは教えてもらえるし、
やってしまったとしても助けてもらえるからなんだよ。」
「九十九君?悪いんだけど、そんなに助けてもらったことは無いんだよね。」
「本当にそうなのか?
少なくとも、やったら命を落とすようなことは教えてもらっていたろ?
調子に乗って悪質な迷惑行為をしても、誰かが助けてくれたろ?」
「九十九。関係ない話も入っていないか?」
「ものの例えだって。いいか、ここは地球じゃないんだ。一から全部教えてもらえるとは限らないし、守ってくれる人もいない。そもそも、こうなる前になんとかできるチャンスはいくらでもあったろ?誰かに助けを求めることも、途中で止めることも、俺の話を聞くだけでも良かった。君らには、どうすべきだったのか考えていて欲しい。そして大人として最期を迎えて欲しい。」
「ケッ。余計なお世話だ。」
「・・・そうか。まっ、あとは君ら次第だ。・・・じゃぁな。」
ちょうど担当者と入れ替わる時間になったし、
言いたいこと、というか伝えるべきことは伝えられたよな。
あとは、響いてくれる事を祈るしかないな。
そういえば、結局なんて名前だったっけ?
・・・いや、聞くのはやめておくか。
ちょっと可哀そうに思ってしまったしな。




