友人
「はよーすっ、カズ!昨日のあれ、観たぁ?」
「はよー、璃奈。観てない。嘉田瀬さんもおはよう……」
俺が下駄箱でスニーカーを脱いで、校内用スリッパに脚を突っ込もうとしたタイミングで、昇降口の方から元気な挨拶が聞こえたので声の主の人物に身体を向けて挨拶を返した。
挨拶をされなかった嘉田瀬澪那にも、一応挨拶をする。
片手を軽くあげて挨拶した谷之坂璃奈は会話に興じようとするが、隣の嘉田瀬は身体を縮こまらせ居心地悪そうな表情を浮かべている。
「……」
「璃奈、嘉田瀬さんが歓迎してないようだから後にしない?」
「ああ、そうだね。また後で話しにいくから〜!またねー!」
俺の言葉で嘉田瀬の浮かない様子に気付いた谷之坂が約束してから、片手を振りながら教室へと歩み出した。
俺は、谷之坂と嘉田瀬の遠ざかる後ろ姿を見送ってから、教室へと脚を踏み出した。
教室に脚を踏み入れ、自身の席まで歩んでいる際に数人のクラスメイトに挨拶をされて挨拶を返し、席に着いて椅子を引いて腰を下ろす。
担任が教室に脚を踏み入れる直前まで谷之坂は姿を見せなかった。
谷之坂は嘉田瀬に解放されなかったらしい。
午前の授業が終わり、長い昼休憩に突入し、谷之坂が俺のクラスの教室に姿を見せた。
「付き合わなくていいのか、嘉田瀬さんに?」
「送り出してくれた。渋々ね……」
「だろうね。それで——」
嘉田瀬が泣き出しそうな歪んだ顔で谷之坂を送りだす光景が浮かんで、苦笑しながら下駄箱での交わされようとした話題について促した俺。