閑話—渡されたチョコ
「架謂条さん、これ……なん、でぇすけど——」
正面で少女が、俯き緊張しながら差し出してきた両手にクリスマスを思わせる色合いの包装紙に包まれた長方形の箱が載っていた。
「ぼく……に、ですか?何かの……誰かと、間違っているんじゃ……」
「かっ、架謂条っさん、にです……他の誰でも、なく、ですぅ」
「えっと、あっ、ありがとう……」
正面で緊張した彼女が両脚を震わせ、強張った身体らしく両手を差し出したままの体勢で動かないでいる。
お礼を述べて、彼女の両手に載る長方形の箱を受け取る。
二人ともうわずった声しか発していなかった。
「うっ受け取ったから……もう、大丈夫だよ」
未だに両手を差し出したままで固まる彼女に言うが、上手く緊張をほぐせないらしくぎこちなく手が下りていく。
「ほんと、ありがと。泡浪さん」
俺が伝えられるありったけの感謝を、正面に立つ彼女——泡浪唯花に述べた。
彼女は、俯いていた顔を上げぎこちなくえへへ、とはにかんだ。
彼女の瞳はうっすらと潤っていて、涙を溜めていた。
はにかむ顔に、頬に一筋の涙がつぅーと流れていった。
厚い雲が上空を覆って夕陽が差していないのに、彼女が流した涙が美しく輝いて俺の瞳に映った。
彼女の——泡浪唯花の涙を瞳が捉え、やっと実感が湧いた。
ひとつ歳下の小学三年の泡浪唯花が振り絞った勇気は、架謂条和仁に届いた。
俺が、家族以外でチョコを貰った初めてのバレンタインデーだった。