姉弟
ガチャ、バタンと玄関扉が閉じきり、スニーカーを脱ぎスリッパに履き替えてリビングへと歩みだす俺。
リビングに足を踏み入れ、テレビの前に置かれたソファーで足を投げ出しながら横たわる姉と、キッチンで夕飯の支度に取りかかっている母親に、「ただいまー」と告げる。
「かえり〜和仁」
「あら、お帰りなさい。早いわね、和ちゃん」
「そうでもないよ。姉貴が珍しくお早い帰宅じゃん、合コンに誘われなかったんだぁ〜」
「毎日開催されてるわけじゃないっての、合コンってのは。今日はハニーちゃんに付き合わされたか、和仁〜?」
「んなとこ……はぁ〜」
事情をいちいち話すのも億劫で、説明を省いてため息を吐く。
「ハニーちゃんはつくづく物好きだねぇ〜!こんな愚弟のどこが良いんだか〜」
「男性にモテないからって……」
ダイニングチェアに腰を下ろし、ソファーから起きあがろうともしない姉に呆れた声で反応する俺。
「釘さしてやってやろうって思ったけど〜良いのか〜?」
俺の呆れた反応に、姉が不貞腐れた低い声で意地の悪い事を言う。
姉が提案してきたものにはそそられるが、現状が覆る割合は高くはない。
状況が悪化するのが目に見える……
「のらないんだ〜つまんねぇのぅ〜和仁ぉ〜」
「……」
不貞腐れた蒸蒼院に呼び出され、二人きりの密室で追及される状況に陥るのは容易に思い浮かぶ。
蒸蒼院は、姉の前では借りてきた猫のように大人しくなる。しおらしく、猫かぶる、先輩だ。
「まあ、ハニーちゃんに釘さすけどね〜!ははっ!」
「ぐぅぬぬっ……ねきっ」
快活に笑い声を上げて、弟を弄ぶ姉に殺意を込めた瞳を向ける俺。
「はいはい〜ケンカはそこまでにして、夕飯できたから食べましょ〜」
母親が姉弟の喧嘩を仲裁し、ダイニングテーブルに三人分の夕飯を並べ始めた。