第767話 実況外の探検録 Part.37
【6】
「……死にました」
まぁ調子に乗って、油断してたからね。しょんぼりしながらランダムリスポーンを選んでいるけど、割と自業自得ではある。
「私の方が遥かに格上なのに、なんで死んだんですかねー?」
いや、理由が分かってないんかい! 昨日の九尾の狐も、今日のウツボも、仕留める過程で格下の敵達の数の暴力に晒されていたからね!? それがさっき、サクラに向かっただけの話だから!
「まぁ過ぎたものは仕方ないですね! えーと、どこに出て……あっ! 丁度いい具合に南の方に出ました! これはラッキーですね!」
あー、うん。移動の手間が省けたという意味ではラッキーなのかもね。それで満足していいのかは、ちょっと疑問の余地もあるけども……。
「おー、この辺はもう崖上はかなり低くなってるんですね! 上から狙い撃ちは、難しそうです?」
そりゃまぁ同じエリア内でも地形の変化は出てくるし、河口に近付けばそれだけ高低差は減ってくるからね。高低差がなければ、上かの一方的な攻撃が難しくなるのも当選の事ではある。
「でも、砂浜はないんですねー。ちょっと期待してたんですけど、残念です……」
まぁそれは……ここの海岸エリアのメインではない要素だからね。砂浜に期待するのであれば、こことは別の違う海岸エリアに向かってもらうしかないんだけど……。
「んー、でもここなら同じ戦い方が……あ、色々と再使用時間中でした!? せめて、縄張りは使いたいですよねー」
どういう戦い方をするかはサクラに任せるけども、まぁLv30に到達したのなら、『縄張り』を活用するのは大いにありだ。Lv30以外の敵なら向こうから襲ってくる事はなくなるから、安全性はかなり確保されるしね。
ただまぁ、同様の効果は今でも得られるんだけど……さては、『威嚇』の存在を忘れているな? あれでも、『縄張り』のようなステータス強化の恩恵は得られないけど、敵を怯ませる役割は果たせるんだけども……。
「とりあえず、縄張りが使えるようになるまで待ちましょう! あ、でもこの辺は発動しておきますねー! 『索敵』『見切り』『弱点分析』『看破』!」
誰からの意見も届かない実況外のプレイでは、サクラの行動は自由そのものだなー。まぁ特に明確なプレイ方法が定められている訳じゃないから、自由にやってくれていいのだけど……それでも、ツッコミ不在は痛いものだね。
【7】
「あっ! 見つけました、サザエです! ふふーん、それも3個もです!」
再使用時間を待っている間、急に近場の潮溜まりに入ったサクラは……貝を採っていた。採り始めたとこ、なんでカットになってる!? あー、無言で急に採り始めたから、見所として判定されなかったのかも……。
いざ採ってみれば、狐っ娘アバターが満面の笑みを浮かべているのだから……初めから宣言してすればいいのにねー。
「いやー、時間潰しに期待せずに探してみたら、意外とあっさり見つかりましたね!」
あ、どうやら宣言しなかったのは、それほど期待はしてなかったようだね。そういう時こそ、意外とポロッと出てくるのは、確かによくある事。
「まだ縄張りが使えるようになるまでかかりますし、その間にもっと採集してしまいましょう! ウニとか、エビとかも手に入りませんかねー?」
いるにはいるけども、変に欲を出せば……いや、それは自ずと結果として出てくるか。必ずしも、物欲センサーが働くとも限らないし、何一つ手に入らなくなる訳でもない。
何も見つけられないとすれば……それは単なる、サクラの観察力不足の問題だ。潮溜まりで手に入れられるアイテムは、決して少なくないのだから。
「さーて、張り切って採集していきましょう!」
少なくとも……南の方へとランダムリスポーンをしてきたとはいえ、ここはまだLv30の個体は出ない位置。Lvが1でも下ならば、サクラが何もしなければ襲ってこないのだし、採集はしやすい環境ではあるからね。
【8】
「……いざ、本格的に探し始めると、中々見つからないですねー?」
いやいや、視界の中にサザエの貝殻が映ってるから!? 視界の端に伊勢エビのヒゲなんかも見え隠れしてるし、足元には今にも踏みつけそうなウニとかもあるんだけど!?
「ちょっと、ここの潮溜りは深かったですかねー? 他の浅い場所にしてみましょう!」
あー!? 色々と見えているのに、勿体ない!? 視聴者がいれば、絶対に指摘が入って確保出来ているのに、サクラだけだと気付けないのか!?
「敵もチラホラいたみたいなので、そこは変に触れないように要注意ですね!」
海水に浸けていた頭を持ち上げ、潮溜まりから出るべく移動を始めたサクラ。これ、採集出来るのに気付いてないんじゃなくて、敵だと勘違いしてるのか!? そこは看破の情報をちゃんと見よう!?
動物だと一般生物にも看破で情報が出るから、植物と違う仕様なのが仇となってたか!? ……やはり、視聴者からのツッコミは必須なのかもしれない。
「痛っ!? あ、ウニが足に刺さって……あー!? これ、採集可能じゃないですか!? ……あれ? 看破に表示が出てます?」
あ、踏みつけた結果、ようやくそこに気付いたっぽい! 正直、サザエを見つけた時に気付けとも思うけども、今気付いたのでも、まだ遅くはない!
「え、これってもしかして……あー!? 看破で『一般生物』って表示が出るんです!? っ! もしかして!?」
すぐさま背後に振り向いて、出て行こうとしていた深めの潮溜まりの中に戻り……再び、水にライオンの顔を浸けていく。
「おぉ! 敵の数が結構いると思ってましたけど、何気に一般生物が合間に混ざってるじゃないですか!?」
あー、うん。サクラが見落としていた理由、大体分かった。今は大々的に縄張りを展開している状態じゃないから、敵は分かりやすい逃亡行動は見せていない。
なので、看破の反応の中には、潮溜まりにいる敵の反応もそれなりにある。一般生物も同時に表示されているのだが……それを全て敵だと誤認したのが、サクラが見つけられなかった理由だろう。まぁ単純に、よく見ろって話だけども!
「サザエとウニ、ゲットです! どっちも、食べにくそうですけど……その分、HPの回復量は多いですね!」
サザエは貝殻ごと噛み砕く必要があるし、ウニは割らなければ食べる事は出来ない。だが、手間がかかる分だけ、回復量は多めという性質にもなってくる。
もちろん、これらは食べられない種族も出てくるが……サクラのライオンならば問題はない。
「さーて、この調子でどんどん採っていきましょう!」
えーと……なんか、目的がズレていってるような? あのー、実況外の配信プレイはそれほど長くは出来ないから、適度なところで採集は切り上げようね?
一応、Lv30への到達と、進化ポイント稼ぎはそれなりに達成してるけど、まだ南の端まで辿り着いてないからね!?
【9】
「……なんですかね、これ? 『カメノテ』?」
完全に移動を忘れ、採集に夢中になっていたサクラが、他の潮溜まりに移ろうとした時に触れたものに反応を示していた。
『カメノテ』とは、まぁ簡単に言えば岩場にくっついている、小さな貝のようなものだ。厳密にはカニやエビと同じ甲殻類であり、『亀の手』に似ている事から、このような名前が付いている。
「採集は出来るみたいですし、食べれるみたいですけど……よく分からないですね?」
まぁ馴染みがなければ、知らなくても不思議ではないものではある。視聴者がいれば解説してくれる部分だけども、今は実況外のプレイだから、サクラに説明してくれる人は誰もいない。
というか、採集に夢中になり過ぎだから! 適度に採ったら、他の潮溜まりに移動してを繰り返して、少しずつ南に進んではいるけども……移動の事、すっかり忘れてるよね!?
「あ、そろそろ時間切れ……って、わー!? 移動、忘れて……あれ? ほぼ、南の端まで来てます?」
あー、ようやく本来の目的を思い出したか。……Lv30の敵も近くにいたりしたんだけど、好戦的なのを引き当てなくてよかったね。いや、むしろ好戦的な敵を引き当てて、意識が採集から外れた方がよかったのか?
「んー、気付いたら南の端まで来てましたけど……まぁ結果オーライって事にしておきましょう! かなり、採集出来ましたし!」
とは言うものの、実はサクラが採れたのは、動きの鈍い貝やウニなどに限られる。タコやカニ、魚なんかには普通に逃げられまくって、捕まえられていなかった。
単純に仕留めればいい敵と違って、直接の触れなければ得られない仕様なので……まぁサクラには荷が重かったんだろうなー。水中を移動するのを捕まえるのは、普通でも難しいから……。
「それじゃ、今日の実況外のプレイはこの辺で終了です! 明日は、ここの南側のエリアへの進出からですねー!」
途中で脱線した結果、進化ポイント稼ぎは控えめになってしまったけども……その代わり、生命の回復手段が増えたのであった。食べるのに一手間かかるけども、胃袋の回復には丁度良いものではあるし、結果的には良い内容だったのかもね。
「……サクラ、進化ポイント稼ぎは?」
「えっと……採集に夢中になって、忘れてました!」
「まぁ別にそれでもいいけどさ……」
「ふふーん! どうやるかは、私の自由ですからね!」
「……自由過ぎない?」
「何か問題、ありますかねー?」
「まぁこの辺は今更か……」
「ふっふっふ! そういう事です!」
「なんでドヤ顔? まぁそれはいいとして……しばらく、お休み期間に入ります。再開は4月8日(火)の予定!」
「作者さん、しっかり休んでくださいねー!」
「電子書籍の方の作業をしてるんだけど、なんか妙に不調なんだよなぁ……」
「全然、休んでないじゃないですか!? 不調ならちゃんと休みましょうよ!?」
「……だよねー。うん、ちゃんと休もう……」




