第715話 実況外の探検録 Part.34
【1】
いつものように、和室にある机の前に正座……ではなく、縁側に腰掛けて、足をプラプラと振っている狐の姿を模したアバター、『サクラ』の姿がある。その表情は、妙に機嫌が良さそうなものだ。
装いを新たにして、外側に追加された縁側を上手く活用出来ているし、その気持ちが表情に現れているのだろう。配信中にも特に問題なく活用出来ていたし、作った価値もあったようだ。
「さーて、今日の実況外のプレイ、やっていきましょう! 目指せ、完全体Lv15です!」
普段と場所が異なっているからか、録画中という事を忘れたような動きは特にないようである。
それでいいんだよ、それで。今まで、開始時の様子が変過ぎた方が問題なんだから! ……でも、何事もなくまともに始まると、それはそれで不安になってくるものだ。
【2】
画面はモンエボへ切り替わり、サクラは狐っ娘のアバターから、ライオンの操作になっていく。その場所は、配信の最後に採集を行っていた場所のすぐ近く。
エリア全体として見れば北東部。南北で見ても、東西で見ても、中央を越えた位置ではある。そもそも荒野から入ってた際にかなり北側から入ってきていたので、初めから中央に近い位置ではあった。
「それじゃ、東へ出発ですね! 『索敵』『見切り』『弱点分析』『看破』!」
いつもの移動中に使用するスキルを発動して、サクラは東へ向けて移動を開始していく。今のところ、何一つツッコミどころがないのが、逆に不穏だな?
「『再誕の道標』、手に入りますかねー?」
サクラがそう呟きながら、平原エリアの拓けている部分を駆け抜けていく。配信中には結局手に入らないままだったが……そういう事を言うと、また手に入らなくなるぞ?
それ以前に、サクラが自力で採集場所を見つけられるかという懸念点はあるが……。いやまぁ、サクラでもすぐに分かるような場所にもあるから、そういう場所を通り掛かれば大丈夫なはずだろう。……おそらくは。
「あ、この辺、私より結構格下ですね? ちょっと移動速度を上げましょうか! 『疾走』!」
元々、この周囲はランダムリスポーンで飛ばされてきた場所ではある。エリアボスとして出てきた『九尾の狐』を倒した事で、一気にLvが上がり、格上ばかりだった場所も、格下ばかりへと変貌している状態だ。
このエリアでの上限Lvの達成を目的にしているのだから、移動するのは適切な判断。他のエリアよりも広いのだから、そうしなければ適切Lvには遠いのだから。
「うー、東の端、結構遠いですね……」
それでも半分以上は過ぎているのだから、文句は言わない! 今はともかく、もっとLv帯が高い場所まで移動が最優先だからね。
【3】
それからサクラは、ひたすらに東へ向けて駆け抜けていく。現在、Lv13まで到達したサクラに挑む敵はなく……ただただ、走っていくばかり。
九尾の狐が出てきた森も通り抜け、その先にあった草原も駆け抜け、先へ先へと進んでいく。
「Lv11以上の敵、中々出てこないんですけど!? これ、どうなってるんですかねー!?」
看破で見える敵のLvが、いつまで経っても上がってこない事に愚痴を漏らすサクラ。そう言われても、この広い平原エリアでは、各Lv帯の範囲は広いのだから仕方ない事だ。
『疾走』よりも『逃走』の方が移動速度の上昇幅は高いので、『九尾の狐』から逃げ回った時の方が移動距離が稼げていたという事情もある。
その辺は逃げていた当人のサクラは余裕がなく、ろくに確認出来ていなかったが、Lv13くらいまでは出てくるような場所までは進んでいた。中央部分に近い場所から北寄りに進んでいたのも影響しているが……まぁサクラは、そういう事情には気付いていない。
「……これ、もしかして燃え尽きた森を通った方が楽だったんですかねー?」
決して足場が良い状態ではないから、一概にそれがいいとは言えないが……選択肢としてはありではある。方向的には間違いなく、早めにLv帯も上がってくる部分だしね。
まぁ燃えて倒れた木々も多くあるけども、サクラにはそれを吹き飛ばして、道を作る手段も持っているのだから。
「……まぁひたすら、進むしかないですね!」
北の方に見える焼け跡を横から眺めつつ、サクラは東へと駆けていく。このエリアへ入ってきた場所から離れるほどLv帯が上がるんだから、北か南か、どちらかに少しズレれば、Lv帯も上がりやすいんだけどなー。
【4】
ひたすら移動を続けていくサクラ。そして、その視界に入ったのは……。
「あー! やっと見つけましたよ、Lv12のカメです! まだLv12ですか……。結構大きいカメですけど」
カメを見つけたところで、サクラはズサっと疾走を止める。ようやくLv帯が上がり、今のサクラの適正Lvに近付いてきた。広いエリアの難点は、視聴者も指摘していたが、こういうところだろう。
「普通に、土が剥き出しのとこをカメが歩いてるのも、なんか不思議な感じですね? 近くに水場、あるんですかねー?」
そんな事を言いながら、サクラは周囲を見渡していく。だけど、周囲にはそれらしき場所は見当たらない。
この付近は、土が剥き出しになっている場所が多く、草むらも背が低いものが転々とある程度。木々も疎らな場所である。もちろん、水場も近くには存在しない。
「この辺、木々が少ないですし……水場、あるんですかねー?」
不思議そうにしているけども、カメには陸棲のものもいるからね。まぁ水棲であれ、陸棲であれ、共に『カメ』という表示で統一されているけども……。
ちなみに、今サクラが見つけたカメは陸棲のカメである。器用のスキルツリーの構成が変わってくる為、プレイ可能な種族は水棲のカメに限られていて、陸棲のカメは敵限定なのだが……それを教えてくれる視聴者は、ここにはいない。
「んー、『頑健なカメ』だから、堅牢系統のカメですよね? ちょっと『硬質化』のお試しをやってみましょう!」
どうやら、少し格下のカメ相手に戦闘を始めるつもりのようだ。まぁ配信中にはほぼ出番がなかった新スキルだし、ここで余裕を持って試すのもありかもね。
30センチ程度のカメなので、程々に狙いやすいサイズだ。まぁ大体のカメは、この程度までは進化で大きくなる。これ以上の大きさになる事もあるけども……それは特定の条件を満たした場合だからね。
「えーと、確かパッシブスキルでしたし、特に何もしなくても効果は乗るはずですね! 『強牙』!」
戦うと決めれば、即座にカメの甲羅へと噛みつくサクラであった。相変わらず、噛みつく事には一切の躊躇いがない。
「おー! 牙が、甲羅を貫通しましたよ! これ、凄いですね!」
堅牢系統……それも甲羅を持つカメは、特に硬い部類ではある。だが、それを突破する為のスキルである『硬質化』の効果は、しっかりとカメの生命を削るのに役立っていた。
「……でも、これはダメージは少なめですね? まぁ、弾かれるよりはよっぽどいいですけど! 『噛みつき』! あ、『出血』も入るんですか!? これ、いいですね!」
身を守っている甲羅を貫通して攻撃しているのだから、そりゃ『出血』にもなるものだ。爪での攻撃よりは『出血』になりにくいとはいえ、牙での攻撃でも『出血』にならない訳ではないからね。むしろ、連撃よりはなりやすいくらいである。
「こっちはどうですかねー!? 『強獲牙』! あ、こっちでもいけます! あっ、暴れて『出血』がどんどん酷くなってますね!」
噛みつきでの捕獲……それも、甲羅を貫通させられ、咥えて持ち上げられれば暴れて当然だ。だが、その行動が……カメの生命を減らす事に繋がっていくのである。
ある程度のサイズ差は必要にはなるが、これもスキルを組み合わせての凶悪なコンボの1つ。カメからすれば物理的に反撃が難しい状態でもあるから、一方的な展開になっている。
「いいですね、この組み合わせ! よーし、この調子でカメを倒しましょう!」
満面の笑みを浮かべたサクラの狐っ娘アバターと、その餌食になるカメの姿は……生命が尽きるまで、続いていった。うん、まぁ配信中に出番はなかったけど、ここで出番があってよかったね。
「……おかしい」
「え? 何がです?」
「サクラのツッコミどころが少ない!?」
「それ、どういう反応なんですかねー!?」
「……サクラがまともに進める事自体が、ツッコミどころになるとは!?」
「いくらなんでも、その扱いは失礼じゃないですか!?」
「いやいや、これが日頃の行いってもんだよ?」
「……反論しきれないのが、なんか悔しいんですけど!?」
「見所は必須なんだし、ちゃんと進捗がある程度にはやらかしてくれないと……」
「無茶苦茶な事を言ってません!?」
「それでやってきたんだから、サクラなら出来る! さて、次回は『第716話 実況外の探検録 Part.35』です。お楽しみに!」
「次回、今回の章は最終回ですね! 頑張って、やっていきましょう!」




