第703話 動かない桜の木
うがー! ドラゴンを倒したと思ったら、思いっきり桜の木に根で刺されたー!?
「って、わー!? なんか、桜の木のHPが回復してるんですけど!?」
待って、待って、待って!? これ、私のライオンのお腹に突き刺さった根から吸収してない!?
ミツルギ : あー、『養分吸収』で思いっきり吸われてるな。
咲夜 : 攻撃と回復が同時に出来るスキルだし、弱ってる今は特に使いたくなるよなー!
イガイガ : 尖った育ち方をしてる幻獣種のドラゴンより、安定した進化をしているこっちの桜の木の方が危険かもな。
神奈月 : 『生命』は弱点にはなってないから、『堅牢』と合わせて耐久性はあるっぽいし?
ミナト : 『屈強』と『俊敏』と『知恵』が弱点だけど……弱点が多い場合、それだけ他の要素が育ってる訳だしねー。
「いつまでも吸われてたまりますか! 『放電』『放電』『放電』!」
うがー! 『咆哮』で強制キャンセルにしたいけど、再使用時間の真っ最中だから無理! まだ私のHPには余裕があるから、0距離からの放電を食らえー!
「……むぅ、何気に回復量が多いですね。今のでなんとか相殺出来る程度ですか。『放電』『放電』『放電』『放電』『放電』『放電』!」
ともかく、今は回復量を上回る攻撃を仕掛けるのみ! ……根が突き刺さったままで、地味に動けないし!
金金金 : これ、刺さったままで動けないのか?
ヤツメウナギ : ここまでガッツリと刺さったら、効果時間が終わるまでは……まぁ抜くのは厳しいな。
ミナト : 無理に抜くのも出来なくはないけど……それをしたら、ほぼ確実に『出血』になるしねー。ダメージ量は大した事はないから、この刺さり方なら、自然と抜けるのを待つ方が安全かな?
こんにゃく : ぶっちゃけ、刺さり方が悪過ぎる! ドラゴンを倒した瞬間だったとはいえ、腹を貫通は身動きが取りにくくなるから、そもそも抜きにくい!
「……ちょっと油断し過ぎてましたしねー。『放電』『放電』『放電』!」
お腹に少し刺さった程度なら、どうにか抜けられるとは思うけど……完全に貫通しちゃって、背中から木の根が見えてるんだもん! 真上に飛び上がるにしても、体勢を下手に変えようとするとダメージ量が増すし……この状態、脱出は無理!
ここで『咆哮』が使えたら、強制キャンセルして脱出が出来るのに……。
「あ、この手段がありました! 『覇気の咆哮』!」
凝縮すれば成功確率は上がるって話だったと思うし、桜の木との距離はかなり近いんだから、最大まで凝縮して……発射!
「よし、成功です! 根がスルッと抜けましたね!」
今のうちに飛び退いて、桜の木から距離を取るのです! ……スルッと抜けたら、『出血』にはならないのって少し不思議? あれだけガッツリと突き刺さってたのに、傷も残ってないのはゲームだからこそだよね。
サツキ : サクラちゃん、脱出!
水無月 : 脱出!
紅葉 : 敵の攻撃の強制キャンセルなんて事も出来るんだね?
いなり寿司 : 存在を忘れられがちな『覇気の咆哮』だけど、出番があったな。
神奈月 : 凝縮したとはいえ、広範囲版の『咆哮』だからこそ、確定でキャンセルではないんだけど……なんとか脱出は出来たな!
G : くっ! そこは失敗する様子が見たかった!
イガイガ : まぁ脱出が出来てしまったものは仕方ないけどさ……。
「私が脱出したのを、ガッカリしないでくれませんかねー!? とりあえず、『萎縮』で動けなくなってる間にこれです! 『投擲』!」
毒の実を取り出して、弾き飛ばして、桜の木の幹に当てるのですよ! うん、命中!
「これで毒も入りました……って、わわっ! もう萎縮が切れたんです!? っ!? これ、離れないと!」
待って、待って、待って!? 桜の木を中心に、根が盛り上がって地面の上まで出てきて……わー!? どんどん範囲が広がってるー!?
ミツルギ : あー、これは『根の侵食』か。
金金金 : それ、どういうスキルだ?
ミツルギ : 見ての通り、地表面に根を張り巡らせていくスキルなんだけど……これで出てくる根の全てが攻撃対象になる代わりに、根を使った攻撃の威力が跳ね上がるって内容。
神奈月 : 迂闊に広がった根の範囲に入れば、スキルとは関係なしに巻き付かれて捕縛もされるから要注意だぞ! 捕獲性能も持ってる、地味に厄介なスキルだからな!
ミナト : んー、捕まりさえしなければ、絶好の攻撃チャンスでもあるよ?
咲夜 : それ、いつもの簡単に言うけど高難易度なヤツ!
「離れた方がいいってのは、よく分かりました! 思った以上に厄介ですね、この桜の木!」
ドラゴンが強敵だと思って、その攻撃を凌ぐ為に盾にしたけど……何気に、こっちの桜の木の方が強くないですかねー!?
「あ、ゾウが……根に捕まりましたね!? わー、根で串刺しにされて……どんどん吸われてますよ」
さっきの私が受けたのより、凶悪じゃない!? ゾウが受けてる攻撃、同じスキルなの!? それとも、上位の別スキル!?
ミツルギ : まぁあれが『根の侵食』の効果だな。動けないというハンデを負っても尚、渡り合う為の手段だ。
富岳 : ただの『養分吸収』でも、見ての通り、性能が跳ね上がるからな。
いなり寿司 : これはあれだ。サクラちゃんの使う『縄張り』に、少し似た性質があるぞ。敵を呼び寄せる性能はないが、一定範囲内での強化スキルになる。
ヤツメウナギ : 堅牢のスキルツリーにあるのが、まだ独特なところか。移動するタイプなら、そう使ってくる事もないし、もし使われたとしてもデメリットが多いから、それほど脅威にはならないんだが……。
「この根の広がりって、縄張りでの強化に近いんです!? わー!? どんどん回復されてるんですけど! ……とりあえず、漁夫の利を狙ってゾウに攻撃を入れときましょう! 『放電』!」
一撃でも入れておけば、経験値は少なくなっても、進化ポイントは貰えるもんね! でも、この根の広がりは怖いねー。迂闊に近付けば、あのゾウの同じ状態になりそうだし、どう攻めよう?
咲夜 : ちゃっかりと、進化ポイントの確保はしてるー!?
チャガ : ゾウも反撃はしているから、一方的な展開って訳でもないが……流石に桜の木に分があるな。
ミナト : 受けてるダメージを上回るだけの回復になってるし、堅牢系統の『頑健なゾウ』だと威力不足かもね。弱点に『屈強』が出てるしさ。
富岳 : せめて、屈強が強ければ、強引に根を引き千切る事も可能なんだがな。
「……毒も入ってるはずなんですけど、全然そんなのはお構いなしで回復してますもんね。この根を広げた状態、回復量も増えるんです?」
ゾウへのダメージの入り方も半端ないんだけど、それ以上に桜の木の回復量がとんでもないもん! ドラゴンの一撃でかなり弱ってたはずなのに、もう7割くらいまでHPが回復してる状態だし!
ミツルギ : まぁ回復量も増えるが……そもそも、この『根の侵食』自体が他のスキルで強化されてるな。
ミナト : 『根の侵食』自体は第5段階のスキルだから、ここまでの効果はないんだよね。だから、その先にある強化用のスキルの恩恵が出てるのはほぼ確実かな。
神奈月 : 『侵食範囲拡大』とか『侵食強度増加』とかあったっけ。
ミナト : そうそう、そういうスキル。行動範囲の拡大は知恵のスキルツリーにある『範囲拡大』なんだけど、『根の侵食』の強化は別枠で色々あるんだよね。
「……恐ろしいですね、それ! これ、もう遠距離から仕留めるしかなさそうです! 『獅哮衝波』!」
縄張りよりも範囲は遥かに狭いけど、桜の木の強化範囲に入るのは危険過ぎるもん! ミナトさんみたいな実力者なら、捕まえてこようとする根も避けられるんだろうけど……私には絶対無理だから!
<完全体を撃破しました>
<進化ポイントを2獲得しました>
「あ、ゾウが死にましたね。経験値、ほぼ無いようなものでしたけど……って、わわっ!? ミニ桜が……って、こっちでも根が地表面まで出てくるんです!?」
待って、待って! それ、聞いてないんだけど! ミニ桜でまで侵食してこれるって、ズルくない!?
「っ!? また、桜の花びらでの攻撃……って、前よりダメージが増えてますよね、これ!?」
ぎゃー! 視界も悪くなってるし、HPの減り方も凄くなってるんですけどー!?
ミツルギ : その『桜吹雪』は視覚妨害の性能が強めで、ダメージは控えめだが……強化が入れば、それなりに痛いか。
富岳 : まぁ強化してるんだから、当然ではあるがな。
真実とは何か : それが真実なのである!
「強化してるんだから、当たり前の話でしたねー!? うー! 鬱陶しいですね、この花びら!?」
嫌がらせのスキルなの、これ!? ぐぬぬ! 『咆哮』の再使用時間は過ぎたけど、溜めに入っちゃってるから使えないし……強引に突っ切って、振り払うしかないのかな?
「この桜の木、厄介過ぎません!?」
「まぁそれは否定しない」
「否定してくれないんです!?」
「実際、厄介な性質をしてるのは間違いないしね」
「ぐぬぬ!? 作者さん、必勝法とかないんですか!?」
「必勝とは言えないけど、まぁ攻略法はあるよ?」
「おぉ!? 攻略法はあるんですか!?」
「そりゃ、倒せない敵を用意はしてないからね。どれだけ強くても、どこかに倒す手段はあるよ。……サクラがそれを持ってるかは別としてだけど」
「最後の一言、なんか不穏なんですけど!?」
「種族の相性として、倒せない敵ってのは存在するからね。さて、次回は『第704話 厄介な相手』です。お楽しみに!」
「うがー! 次回のタイトルにまで厄介とか言われてるじゃないですか!?」




