第664話 実況外の探検録 Part.33
【5】
「獅子咆哮、発射です! いっけー!」
縄張りの中から、溜め終えた攻撃を放つサクラ。敵は縄張りの外にいるので、その威力に縄張りでの強化分は影響しないが……完全体への進化を経て、素の威力が上がっている為、その一撃で多くの敵が葬られていく。
「おぉ! 思った以上に威力が凄いですね! 凝縮せずに、これですか!」
流石に縄張りでの1.5倍も強化には及ばないとしても、大幅にステータスが強化された上での攻撃だ。堅牢系統の個体でない限り、効果範囲にいた敵は死んでいる。
「あ、まだ生き残りは何体かいますねー! でも、今の私にはこれがあります! 『放電』『放電』『放電』!」
生き残った敵……堅牢系統のサソリやネズミ、ヘビがサクラへと襲いかかりに動くが、離れた場所から『放電』での追撃を受けて、次々と葬られていく。『縄張り』へと入った途端、ステータス強化の影響が出て、より凶悪な威力になった攻撃を受けて……。
「ふっふっふ! Lv60の成熟体でも、全然敵じゃないですね! この調子でどんどん倒しましょう!」
進化して大幅に強化されたステータスと、縄張りでの強化を活用し……サクラは乱獲を行なっていく。生命と堅牢も強化されているし、遠距離攻撃を持つ器用系統の敵だとしても……今のサクラへは有効打を持っていない。
そもそも生き残るだけの生命や堅牢と、反撃出来るだけの器用を併せ持つ個体が少ないのだから……。その上で、サクラの『放電』を耐えられる個体は……今、ここには存在しない。
「さーて、一掃完了です! それじゃ次は他の方向にいる集団の撃破ですね! 『獅哮衝波』! ふふーん、1段階目までで足りますかねー?」
ご機嫌な様子の狐っ娘アバター。圧倒的な進化階位の差を利用して、乱獲を進めていくようである。乱獲のし過ぎは格上の個体を呼び寄せる事にはなるが……まぁそれも承知の上でやっているようだし、別に問題はないか。サクラの希望通りの結果になるか……そこは別の話ではあるけども。
【6】
「獅哮衝波、いっけー!」
もう何度目になるのか、獅子咆哮と獅哮衝波を交互に使って、縄張りの外周部にいる敵の集団を次々と仕留めていくサクラである。
「うーん、こう一気に倒したい時だと、横への範囲が広い『獅子咆哮』の方が便利ですねー。威力は『獅哮衝波』の方がいいですけど!」
その辺はスキルの効果範囲の違いなので、上手く使い分けてもらうしかない。凝縮して範囲を狭める事は出来ても、逆に範囲を広める事は不可能なのだから……。
「ともかく、残党処理ですねー! 『放電』『放電』『放電』!」
満面の笑みを浮かべながら、サクラは次々と電気を放っていく。既にこの乱獲で獲得した進化ポイントは120を超えて……まぁ1体辺り2の獲得なので、60体以上の撃破を行っている。
経験値は進化階位が変わった為、大幅に減衰はしていて、Lv2に上がるにはまだまだ必要となる状態だ。まぁこれだけ圧倒的な力の差があれば、当然の話ではあるが……。
「それにしても、乱獲しても何も出てきませんねー? まだ倒し足りないんでしょうか? 『放電』『放電』『放電』!」
結構な数を倒してはいるけども……現状では、まだ控えめな方。1回の攻撃で10体前後の撃破なのだから、乱戦としてはまぁそんなものである。
進化階位の差で一方的な状況にはなっているが、必要な進化ポイントの量も増えている為……進化ポイントが100程度では、まだ強制排除にはなりはしない。
「まぁ出てこないなら、それでもいいです! 東の端から離れ過ぎない程度に、どんどん始末していきましょう! まだまだ敵の反応はありますし!」
『縄張り』の効果で逃げた敵達は、一方向にだけ固まっている訳ではない。だからこそ、こうしてサクラは『縄張り』の外周部に散らばった敵を次々と倒しているのである。何かが止めなければ、時間切れになる時まで乱獲し続けるつもりなのだろう。
「ふっふっふ! 進化ポイント、124まで溜まりましたねー! まだ見てないですけど、新しく解放出来るようになったスキルツリーの部分、何か解放出来ますかねー?」
うん、まぁ進化ポイント的に足りてはいるから、やろうと思えば出来る状態ではある。まぁ何を解放するかは、サクラ次第だけれども……。
「さーて、次の獲物はあの一団です! 『獅子咆哮』!」
狙いやすい位置への移動をしつつ、2つのスキルを交互に使う事で、再使用時間の待ち時間を最小限に済ませているサクラであった。ちょっとずつ東の端から離れてはいっているが……まぁ今はまだ支障のない範囲か。
それはいいとして……当初の目的だったはずの増幅系アイテムの入手は、完全にどこかに消え去っているようである。まぁサクラだし、思いつきで行動が変わるのも仕方ないか。
【7】
「流石にそろそろ飽きてきましたねー。獅子咆哮、発射です!」
通算、10回目の範囲攻撃を放ちつつ、何やらボヤき始めるサクラであった。まぁ同じ事の繰り返しで、一方的に仕留めるだけなら、そりゃ飽きもくるだろう。
「結局、何も出てきませんし、このサソリを片付けたら終わりにしましょうかねー? 『放電』『放電』『放電』!」
そう言いながら、生き残っていた2体のサソリへとトドメを刺していく。なんだかんだで、縄張りから逃げた個体の数はかなりの量であったものだ。普段サクラが仕留めている敵は、全体のごく一部に過ぎないのがよく分かる。
そして……これで通算100体は仕留めた事になり、流石にそろそろ動き出す。
「わっ! あ、なんか大きなサソリが……って、Lv100の『活力のサソリ』です!? わわっ!? ちょっと待ってください!? これ、なんで完全体なんですかねー!? というか、Lv100(上限)ってなってますけど!? 『疾走』!」
ある意味では予想通りの敵の出現で、ある意味では予想外の敵の内容で、慌て始めるサクラであった。残念ながら、完全体の場合では次の進化階位の敵は出てこないのである。次が……最終進化なのだから。
ちなみにだが『活力の』は生命系統で進化した完全体の名称だ。まぁこの手の出現方法で出てくる敵はどのステータスも高水準で構成されているので、あまり進化系統の違いに意味はない。
「わっ!? わわっ!? わー! このサソリ、速いんですけど!? というか、なんか針が光ってるのはなんですかねー!?」
逃げに徹し始めたサクラだが、Lv99もの差があれば同じ完全体であったとしても……容易に逃げられる訳もない。ましてや、チラチラと後ろの様子を窺いながらでは尚更に。
「わっ! ぐふっ! ぎゃー!?」
すごく当たり前な話だが、そんな状態で逃げたところで転ぶのは当然の事。そして、乱獲し過ぎたサクラを仕留める為に現れた敵が、そんな隙を見逃してくれるはずもなく……あっけなくサクラは死ぬのであった。
まぁ元々想定していた事なのだから、特に気にする必要もないだろう。……サクラがどう思うかは別問題ではあるけども。
【8】
「私を始末しに何か出てくるのは予想してましたけど、それがLv100の完全体ってなんですかねー! 次の進化階位じゃないんですか!? というか、完全体ってLv100まであるんです!?」
リスポーンの待機状態で、憤りながらサクラはそんな毒を吐いていた。やはり、予想外の部分で文句が出てきたか。
「……まぁ次の進化階位の名前は分からなかったですけど、上限Lvが分かったのはよしとしましょう! 元々、死ぬつもりではあったんですし!」
文句は言っていたけども、呑み込める範囲の成果でもあったようである。……死亡をノルマと言われるのは嫌がる割に、死亡を気にしない時も結構あるもんだ。
「まぁ目的も達成しましたし……って、達成じゃないですよ!? 東の端まで移動……って、あー!? ランダムリスポーン!?」
悠長に文句を言っている間に、再誕の道標を使うチャンス逃してしまったサクラである。さて、ランダムリスポーンでどこに出るのやら?
【9】
「……どこに出ました……っ!?」
ランダムリスポーンした先で、周囲の様子を確認していたサクラだが……その視線の先には、大きなサソリの姿がある。まぁさっきサクラを仕留めたサソリなのだが……少し離れた位置ではあるものの、見える位置に出てくるとは……。
「なんで、あれの近くに出るんですかねー! というか、まだいたんです!?」
そりゃ、あの手の敵は仕留めたらすぐに消える訳ではないからね。前に同じタイプのクマが出た時も、2度目も殺されたのを忘れているのだろうか?
「そーっと離れましょう! 今は気付かれてないみたいですし、逃げの一択です!」
結構な大声が出ている気もするが……まぁ音声は基本的に敵の行動パターンに影響を与えるものでもないので支障はないか。物音を立てたりした場合は反応する事もあるけども、モンエボでは喋る事がゲーム性には影響してないからねー。
そうしてサクラは、これまでに見た事もないくらいに慎重に歩みを進めて、巨大サソリから距離を取っていく。
「……ふぅ、なんとか離れられました! ここまで来れば、流石に襲われませんよね? 戦ってる間に、東の端から離れてて助かりました!」
うん、まぁ離れてなければ、エリアの東の端にあのサソリが陣取る事になってたからね。まぁ北か南に少しズレれば回避する事も可能だけど、それでも危険な状態になっていたのは間違いない。
「さーて、それじゃ今度こそ目標達成ですね! この辺で終わりにしておきます!」
東の端に行く以外は、いつ立てた目標なのか視聴者の誰も知らないけども……まぁサクラが納得しているなら、それでいいだろう。実況外のプレイがツッコミどころだらけなのは、今に始まった事ではないし。
「作者さん! 色々と予想外だったんですけど!?」
「そう言われてもなー。それが仕様だし?」
「……どういう仕様になってるんですかねー?」
「それはネタバレ案件だし、仮にネタバレで良いと言ってもここで語る内容ではないね」
「うっ!? まぁそれはそうですけど……」
「まぁ何はともあれ、次の章からは本格的に完全体へ突入だね」
「ふっふっふ! 確かに、それは間違いないですね!」
「まぁその前に、予告していた通りにお休み期間に入るけどね」
「あ、そういえばそうでした!」
「という事で、しばらくお休み期間に入ります。再開は7月23日(火)から、『第18章 第665話 やるべき事』が開始です! お楽しみに!」
「リアルの事も、配信も、頑張っていきますよー!」




