第51話 進化したての成長体
目の前にいるのは進化を終えたばかりのネズミ。そしてそれを撃破するのは、進化をした私のライオン!
少し距離が離れているこの場から一気に仕留めてしまうのさ! いっけー!
「先手必勝です! 『咆哮』!」
照準はネズミに合わせて発動! おぉ、成長体相手でもちゃんと怯んでくれる! まぁ怯んでくれないと困るんだけどね。
いなり寿司 : え、なんでキャンセル性能があるって分かってて今のタイミングで使った? 勿体なくね?
ミツルギ : そこは言っちゃダメなやつー!?
金金金 : 何を言う。それでこそサクラちゃんじゃないか。
真実とは何か : それこそまさしく真実である。
いなり寿司 : え、それで良いんだ!?
イガイガ : ぶっちゃけ、この配信で完璧なプレイなんて望んじゃいないからなぁー。
咲夜 : それは確かに言える。
「皆さん、地味に失礼じゃないですかねー!? って、無駄な話をしてる場合じゃなかったですよ! 『投擲』!」
確かに今のはキャンセル出来るのがすっぽ抜けてたけども、怯ませて動きは鈍らせれるんだから問題はなーい!
それよりも怯んでいる効果時間が勿体ないので、追撃で投擲だー! この為に少し距離を取ったのに無駄になっちゃう!
「よし、見事に命中です! でも思ったほどHPが減ってませんね……」
うーん、結構良い当たり方をしたと思ったけど、HPの2割も削れていないよね。流石は相手も成長体という事かな?
「とにかくこのまま追撃していきますよー! 体当たりからの『噛みつき』!」
ふっふっふ、これぞ昨日実況外でやっていた私のライオンの必勝パターン! 咆哮で怯ませて動きを鈍らせ、投擲を確実に当て、怯んでいる効果が続いているうちに体当たりをしながら噛みつきの発動!
ミツルギ : お、結構スムーズな連携だな。
イガイガ : 手慣れてきてる感じだし、このパターンで実況外での狩りをしてた感じか。
富岳 : ライオンにしては少し火力不足ではあるが、そこは先制を取って敵の動きを封じて補ってるってとこだな。
よし、決まったー! 思いっきりライオンの口の中にいるネズミのHPは半分……まだ半分も行ってなかったー!? 6割ちょっとは残ってる! 口からはみ出てるネズミの尻尾からHPバーが伸びて表示されてるのも変な感じ!
でもこの状態なら噛み砕いてしまえー! あ、噛みつきのスキルの効果中だから、何度も噛みまくろうと思っても出来ない!?
うぅ、スキルでは威力がある分だけ動きがある程度制限されるんだったー! しっかり噛むとかいうスキルないかなー? それにしてもHPの減り方が悪いね!
「ぐぬぬ、硬いですね、このネズミ!」
確かさっき見た時にはこのネズミの全身に薄っすらと白い模様があったし、これは全身を使うスキルを使っている成長体って事かな? そうなると、持ってるスキルは多分体当たりだと思うから……。
「このネズミ、堅牢なネズミですか!?」
咲夜 : 生命と堅牢が見た目が似てたりするけど、これは堅牢かな?
チャガ : 生命はもう少し白い模様が目立つから、堅牢だろうな。
ミツルギ : 防御が高いから、サクラちゃん、手数で攻めろ!
「はい、分かりましたー! って、噛みついてる状態のネズミをどうやって手数で攻めるんです!?」
富岳 : ミツルギ、無茶は言うもんじゃないぞ。
ミツルギ : ……そうだな。今の状況じゃ無理だった。
イガイガ : ミステイク・ミツルギがまた顔を出してきたか。
ミツルギ : くっ!
今のはミツルギさんのアドバイスのミスっぽいから、とりあえず考えなくても……あ、でも噛みついた状態から攻撃する手段もあるかも?
金金金 : ん? 狐っ娘アバターが笑みを浮かべだしたぞ。
咲夜 : こりゃ何か思いついたっぽいな。
神奈月 : サクラちゃん、何かを探してるな。
えっと、剥き出しになってる岩とか、尖ってる木の枝とかないかなー? あ、丁度いい所に岩を発見!
でも噛みつきの効果が切れたのと、ネズミが怯まなくなって暴れだしたみたい! 思いついたからには実行に移すのみなのですよ!
「うがー! 逃がしませんし、これでもくらえー!」
少しだけ口を開けてネズミの頭が出た状態で、再び口を閉じる! うぐっ! 流石に抵抗が激しい!?
「うがっ!?」
わっー!? なんか口の中から凄い衝撃が走って、強引に中からこじ開けられた!? うぅ、私のHPが2割近くも一気に減らされたよー! なんでネズミの攻撃の威力がそんなに高いの!?
「あっ!」
私が咥えたまま頭突きの要領でネズミを叩きつけようかと思ってた岩に自分から突っ込んでいった。うん、なんだかフラフラしてまともに動けていない!
しかも岩に当たった事でもダメージが発生してるみたいで、地味にHP が半分を切っているね! ふっふっふ、ドジなネズミなのさー!
「自滅したこのネズミこそ、ドジっ子なのですよ! というか、これってどういう状態異常なんです?」
強引に脱出してきて、その先で岩に自分からぶつかっていって、何かまともに動けなくなる状態異常になってるみたいだしね! これをドジっ子と言わずになんと言う!?
咲夜 : サクラちゃんがそれを言う?
ミナト : あはは、サクラちゃんナイス! そこで岩に叩きつけようとした結果だから、問題ないよ!
イガイガ : それは『朦朧』って状態異常で、頭に強い衝撃を受けた場合に確率で発生するぞ。
ミツルギ : ちょっ!? 俺の出番!
いなり寿司 : ミステイク・ミツルギさん、少しお静かに。
イガイガ : そうそう。サクラちゃんは自力で噛みついたままでの追撃を考えたってのに、このミステイク・ミツルギは……。
ミツルギ :言いたい放題だな、お前ら!?
富岳 : 朦朧はそれほど長くはないから、こいつらは放っておいて戦闘に集中するのを推奨だ。
「了解です、富岳さん! あ、通知に『状態異常【朦朧】について』とも出てますね! なるほど、要するに絶好の追撃の機会ですね!」
ならばそのチャンスを逃す理由なんてどこにもないのさー! でも、今は『咆哮』も『投擲』も『噛みつき』も再使用時間のカウントゲージが表示中。となれば、今使える攻撃はこれのみ!
「これでトドメです! 『爪撃』!」
隙だらけのネズミに向かって、私のライオンの右前脚の爪を振り下ろーす! あ、ついトドメって言っちゃったけど、これってトドメには全然ダメージが足りないやつだー!?
でも言っちゃったものはもう仕方ない! という事で、無防備なネズミに爪がクリーンヒット! 一気に残りHP 2割まで削れたよ! いぇーい!
神奈月 : 全然トドメじゃなかったなー。
チャガ : まぁ、気持ちの問題だな。
真実とは何か : 常に真実である必要などないのである。
金金金 : サクラちゃん、どんどん畳みかけろ!
ミナト : 攻撃チャンスなのは間違いないからね!
「はい! 残りは通常攻撃でいきます!」
岩に自分からぶつかっていくのがダメージになるなら、私がさっき考えていたのも有効なはず! という事で、ネズミを頭だけ出した状態で咥えて、岩にガンガンとぶつけていくのさー!
「おぉ、これは思った以上にダメージが入りますね!」
ふっふっふ、どんどん何度もネズミの頭を草原の岩に打ち付けろー! 途中で暴れだしたりもしたけど、また朦朧になったのか大人しくなったね!
これは良い戦法を思いついたのですよ! 私は天才ですか! 天才ですね! いぇーい、このまま仕留め切ってしまえー!
いなり寿司 : あー、完全にはめ殺しになった。
咲夜 : なんだかネズミが可哀そうになる光景だ。
ミナト : まぁ弱肉強食ってこんなもんだしねー。
神奈月 : ゲーム的にも生存競争なんだし、こうもなるか。
「そうですとも! これは生き残るためにも必要な事なのです!」
ゲームの中とはいえ、敵を殺す事で強くなっていくんだもんね。そこに綺麗な手段も汚い手段もあったものかー!
私が避けるべきはゲームとして、実況として、何一つ面白くない戦い方! あ、でもこの状況って楽しい倒し方? うーん、微妙な気もしてきたけど、まだスキルの再使用時間が過ぎてないから単純に他に手段がないとも――
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
「あっ!?」
しまった! 少し考え事をしてたらネズミの残りHPを見てなくて、ネズミが死んで消滅して、私の視界が岩に激突するー!? 痛ー!? 実際に痛いわけじゃないけど、気分的に痛い!?
「うぅ……ふ、ふらふら……しま……す……」
うぅ、思いっきり自分から岩に頭突きをして盛大にダメージを受けたよー!? HPもがっつりではないけどちょっと減ったよー!
それよりも、何よりも、私まで朦朧になっちゃったっぽい! この状態って、操作がまともに出来ないみたいだー!?
いなり寿司 : さて、ネズミと同じように自滅して朦朧になったサクラちゃんには、返上したつもりでいる『ドジっ子』の称号を贈ろう。
富岳 : いなり寿司、地味に鬼畜だな。
ミツルギ : すまん、サクラちゃん。俺にはこれを止める手立てが思い浮かばない。
ミナト : ……あはは、ちょっと今回は難しいかなー?
金金金 : 自分で言ってたもんな、サクラちゃん。
咲夜 : うん、これはどうしようもないな。
チャガ : これは仕方ない。
神奈月 : うん、まぁ、そうだよなー。
真実とは何か : 避けられぬ真実もあるものだ。
「うぅ!? いりませんよ、そんな称号ー!?」
確かにネズミをドジっ子だと言ったのは私だけども! そのネズミと同じ状態になったのも私だけども! それでもそんな称号なんか欲しくなーい!
これはあれですか!? 今日もまたドジっ子疑惑の解消しないと駄目なやつですか!? よーし、受けて立つ! 絶対にその不名誉な称号は返上してやりますからね!
「言ったら怒りますからね、作者さん!」
「そう言われると、言いたくなるよねー? 【ドジっ子】サクラってさ」
「うがー!? 言ったら怒るって言ったのに、言ったー!」
「でも、今回は言い逃れは出来ないよね?」
「確かに言い逃れは出来ないですけど、今回はってなんですか!? 今まではただの濡れ衣ですよ!?」
「……そう思ってくれる人はどれだけいるのやら」
「ぐぬぬ、言いたい放題ですね、作者さん! では、私、サクラがドジっ子ではないと思う方はブックマークや評価をお願いします!」
「……それ、してもらえなくなるやつじゃん」
「そんな事ありませんよ! 読者の皆さん、そんな事はありませんよね!?」
「必死過ぎるなぁ、【ドジっ子】サクラ……。えー、主人公が荒ぶっていますが、次回は『第52話 草原の中に』です。お楽しみに!」
「うがー! 一刻も早く、その不名誉な称号を返上してやるのです!」
「……返上が出来てた事ってあったっけ?」
「ありましたよ! ありましたよね!?」