第405話 実況外の探検録 Part.21
【3】
妙に脱線しまくっていたが、ようやくモンエボの実況外のプレイがスタートである。サツキの振ったサイコロの結果、今回育てるのは桜の木に決まった。
「さぁ、姉妹配信、ゲームプレイの部に移行だよー! まぁここからは、私は声だけになりますけども!」
「え? サツキさんのアバターは映ってない……あー!? 映るだけのスペースがないですね!? むぅ……これは全然考えてなかったです……」
「サクラちゃんに抱き付いてていーい? モンエボの操作がメインになって動けない狐っ娘を抱きしめとく!」
「……それは止めてもらっていいですかねー!? なんか変な反応が来そうな気がするんですけど!?」
「私は、別に来ても大丈夫!」
「何言ってるんですかねー!? 私が良くないですよ!?」
プレイ開始に……中々なりそうにないな、これは。リアルの年相応の雰囲気になっているアバター2人分が配信画面の端で抱きしめてる状況は、色々と方向性が変わってくるので冗談抜きでサツキには自重してもらいたいところである。
「うーん、それじゃ仕方ない! サクラちゃんは正座してるし、膝枕でも――」
「やっぱりサツキさんは追い出してもいいですかねー!?」
「待って、待って、待って! 悪ふざけが過ぎたけど、冗談だからそれは待って!」
「……本当に悪ふざけなんです?」
「……本当だよー?」
思いっきり目が泳ぎまくっている、金髪の狐っ娘アバターである。流石は姉妹だし、プロの制作したものだ。自然な様子で、サツキの心境を雄弁に表情で語っていて、思いっきり目が泳いでいる。
「……えーと、サツキさんはこれに座っててください!」
「……はーい」
そう言いながらサクラが取り出したのは、VR空間に標準で用意されている普通の椅子である。それを自身の背後に置いて、そこにサツキが座るように促していた。
まぁこれなら正座をしたサクラの背後で、椅子に座って高さの出ているサツキが映る事になるので、無難な状況にはなっただろう。サツキは不満なようではあるが、本当に自重しろ、社会人の姉!
「ふぅ、これでやっと始められますねー! それじゃ実況外のプレイ、桜の育成を開始です!」
「……これ、あんまり時間は残ってなくなーい?」
「……そんな気はしますけど、少しくらいならやる時間はあるのでちょっとでも進めておきたいです!」
「そっか! それじゃサクラちゃん、ファイトー!」
脱線に次ぐ脱線だけども、今度こそようやく始まろうとしている。……まぁ大して進みそうにはないけども、たまにはこういう回があってもいいか。あくまでも、たまにならだが!
【4】
渓流の川沿いに場面は移り、地面の中から川辺を見上げるようになっていく。広げている根の視点なので、地面からのものになるのは当然の事でもあった。
「さーて、桜の木でプレイ開始です! とりあえず何をしましょうかねー?」
「昨日は……確か、エリアボスのヤマメを倒したとこだったよね? それなら、次のエリアへ移動?」
「確かそうでしたねー! 根を伸ばせる範囲は広がりましたし、川沿いに下っていきましょうか! 『看破』!」
動かない木での固有の要素になる『範囲拡大』のLvの上げ方は、サクラは配信中に視聴者から聞いていた。今の時点なら今いる渓流エリアの範囲は全域までカバーされているから、次のエリアへ進むのは何も問題はない。
進んだ先のエリアの全域が進めるかは、まだサクラは知らないが……。
その辺りの事は全然気にせず、どんどん川沿いに下流へと向かって根を広げていくサクラであった。まぁ次のエリアについては、そこに辿り着いてから考えればいい事だ。
それに『看破』が使えるようになった今は、これまでよりもかなり進みやすいだろう。
「そういえば、この渓流エリアの先って何になるんですかねー? ライオンと同じで湿原エリアです?」
「んー、ここってどこの『始まりの森林』からスタートしてるか把握出来てないから、分かんない?」
「あ、そうなんですか。まぁそこは行ってみれば分かる事ですね!」
サツキは決してやり込んでいる方ではないので、色々と把握し切れていない部分はあるのは仕方ないし、サクラもそれを知っているから変に追及する気もないようだ。まぁ元々がネタバレ厳禁でやっているのもあるから、これが当然の反応でもあるのだろう。
「次のエリアのエリアボスは、多分Lv15ですね!」
なんだかんだで1度は時間を飛ばしているので、敵のLvの上がり方はライオンの時とほぼ同じである。だから、この推測は正しいものだ。
「そういえばサクラちゃん、次に夜になるまであとどのくらい?」
「え? あ、そういえば全然気にしてませんでした! えーと、まだ1時間半くらいはありますよー!」
「そんなとこだったんだー! こっちのはダイジェスト動画になるから、時間の経過が分かりにくいんだよねー」
「そう言われると、確かにそうなりますね! ……その辺は注意した方が良い気がします!」
この辺りはプレイしているサクラ自身では見落としがちになる部分ではあるが、そもそもどのくらいの時間が経過していたか自体を気にしていなかった事を考えると何とも言い難いところである。
いやまぁ、夜になったとしても別に活動出来ない訳ではないから、特に気にする必要もないか。
【5】
どんどん下流へと根を伸ばして、視点を移動していくサクラ。適度に出現した敵を倒しながら、先へ先へと進んでいく。そして今はネズミと戦っている最中で、分体のミニ桜を生成中である。
「ふっふっふ、麻痺毒は優秀ですね! これでトドメです! 『葉っぱカッター』!」
「サクラちゃん、お見事!」
麻痺毒で動きを封じ、その間に飛ばした葉っぱで切り刻むというのが戦闘の定番パターンとなっている。桜の木でも『看破』を取得した影響は大きなものだ。
「いやー、看破で知恵系統の敵を避ければ、麻痺毒で一方的に仕留められますねー!」
「麻痺毒で動きを封じて、葉っぱでザクっと切り裂く! うん、良い感じで進めてるよ!」
「でも、もう少し攻撃手段が欲しいとこでもありますよねー! 毒を使うのに『根刺し』を使っちゃうので、どうしても追撃はミニ桜での葉っぱカッターになっちゃいますし……」
「ここら辺で少しスキルを増やしちゃう? 進化ポイント、そこそこ溜まってるよね?」
「えーと、今は進化ポイントは17ありますし、それもありですね!」
今のサクラの桜の木は、攻撃用のスキルは非常に少ない状況である。まぁ少ないが故に『葉っぱカッター』が既にLv4まで上がっていて結構な高威力になっている側面もあるが、もう少し攻撃手段が欲しいのは間違いないところだ。
「サツキさん、お勧めのスキルとかありませんかねー?」
「んー、ミニ桜を使わないで攻撃するなら、根での攻撃かなー? 連撃よりは単発?」
「あ、連撃と言えば今日の配信で『根の剣山』っていうのもありましたっけ! あれも良さそうな気もします!」
「あれは俊敏のスキルツリーのはずかな?」
「それじゃそこを見ていきましょう!」
単発を勧められているのに、盛大に無視していくサクラである。いやまぁ『根の剣山』は性質的には単発に近い連撃分類のスキルだから、決して狙いから大きく外れる訳ではないか。
「えーと、『根の剣山』は俊敏のスキルツリーの第6段階……どう考えても進化ポイントがが足りませんね!」
「あはは、まぁそうなるよねー。でも、進化ポイントが17あるなら、第4段階まで解放は出来るんじゃない?」
「あ、確かにいけそうですね!」
第1段階で1、第2段階で3、第3段階で5、第4段階で7の進化ポイントが必要になるので、16あれば足りる状況にはなっている。ただ、完全に連撃系のスキルになるのだけど、そこはいいのだろうか?
「えーと、第2段階で『多根突き』と、第4段階で『多根槍』が解放出来そうですけど、これってどう違うんです?」
「刺していく根の鋭さと連撃回数が違ったんだったかなー? ごめん、ちょっと自信ない!」
「あ、説明欄にそう書いてました!? これって、全部に毒は乗るんですかねー?」
「説明に書いてたんだ!? えっと、連撃だと毒の成功確率がかなり下がるんだったはず! そういう意味では、単発の方がお勧めだよー!」
「毒の成功確率が下がるんです!? むぅ……それなら単発の方が良さそうですね」
サツキの説明通り、毒の仕様としてはそうなっている。というか、成功確率が単発と連撃で同じだったなら、連撃の方が圧倒的に脅威になる性能になるから! ただでさえ強力な毒を、更に強力にしない為には必要な措置である。
まぁ別に毒を使わずに刺すのを目的にするのであれば、特に連撃でも問題はない。その辺りは戦闘スタイルの違いなだけである。単純にサクラがどう戦いたいか、そういう問題だ。
「あ、でも根刺しで毒にして、追撃として刺しまくるのは連撃でも問題ないです?」
「うん、そこは問題ないはずだよー!」
「それなら、そっちの方向で決定です! それじゃサクッと俊敏のスキルツリーを第4段階まで解放していきますねー!」
そうして第1段階の『俊敏+5』と第3段階の『俊敏+7』を加えて、俊敏のスキルツリーが第4段階まで解放された。……『根の操作』とは違うルートにはなるが、サクラは一切『根の操作』には興味がなさそうである。
「さーて、それじゃ新スキルを試して――」
「サクラちゃん、ちょっと待って!」
「え、どうしたんです?」
「現在時刻を確認しましょう!」
「あー!? もう時間切れじゃないですか!?」
「明日は祝日だし、夜更かししちゃう?」
「それは駄目です! 夜更かししたら、眠気で翌日はまともに動けなくなるもん!」
「それじゃ今日はここまでだねー!」
「……そうなりますねー。なんか中途半端になりましたけど、今回の実況外のプレイはここまでで終了です!」
そうして実況外のプレイは終了となった。まぁ脱線し過ぎていたのもあるし、そもそも開始自体が普段よりも少し遅めだったという事情もあるので、その辺は仕方ないだろう。桜の木での新たな攻撃手段のお試しは、次回の機会に持ち越しとなった。
「ふふーん、これにて今回の配信は終わりです!」
「はい、お疲れ様」
「なんか反応が軽くないです?」
「まぁ章の区切りなだけで、別に更新はそのまま続くしね?」
「……そういえば、前みたいに完全な更新のお休みってないんです?」
「んー、今のペースなら書き溜め補充はどうとでもなるし、休もうと思えば調整は出来るようになってるからね。よっぽど時間が必要な場合でない限りは、更新お休みはないかも?」
「あ、そうなんです?」
「まぁ体調を崩してしばらくダウンしてたり、スランプで一切書けない状態とかでない限りはね?」
「どっちも気をつけてくださいね!?」
「……気をつけはするけど、絶対に回避出来るかは分からないからねー」
「むぅ……それは確かにそうですけど」
「世の中、急に何が起こるか分からないからね?」
「……確かにそれはそうですよねー!」
「さて、次回からは第12章に入りまして、『第406話 連休最後の月曜日』になります。お楽しみに!」
「連休の最後の1日も頑張っていきますよー!」




