第179話 実況外の探検録 Part.9
【5】
森の中で明確で異様な存在感を放っている桜の木。それは通常の生物の枠から外れた精神生命体を宿し、進化を果たした事でその力を少し引き出した姿。
「さーて、ライオンの目標は達成したので、桜の育成を始めましょう!」
そういう設定のゲームの中で、サクラが成長体へと進化した桜の操作に切り替えた。前回は進化したところで終わっていたので、ここからは本格的な成長体としての育成を開始である。
「とりあえず植わったままでも行動範囲が広がるスキルがあるって言ってましたよね! その確認からやっていきましょう! えっと、どこのスキルツリーでしたっけ……?」
そう結論付けると、サクラはそれぞれのスキルツリーの項目を眺めていく。そういうスキルが存在するという情報は覚えているが、それが具体的にどのスキルツリーなのかというのは忘れてしまっているようだ。それ、知恵のスキルツリーだから! あぁ、順番的には一番最後になるんだよなぁ……。
「生命は……あ、第4段階に『養分吸収』というのがありますね! これ、あれですね! 根で突き刺してHPを回復するやつです! これ、そのうち取りたいですねー!」
どうやらサクラはスキルツリーを順番に見ていく事にしたらしい。まぁ進化してから4段階以降のチェックはまだだったので、軽くでも見ていくのは良い事だろう。
ちなみに木の『養分吸収』はライオンでの『捕食回復Ⅰ』と同じ位置に存在しているスキルである。このようにスキルツリーの内容は種族に合わせて変わっていく為、確認は大事。……本来の目的とはズレてはいるが、サクラは次の屈強のスキルツリーに切り替えていく。
「おぉ、屈強って地味に根で突き刺したり、根で打ち付けたりするスキルがメインっぽいですね! 今まで見た動かない木でもこの辺は使ってた気もしますし、この辺は許容範囲ですかね?」
妙に木や草花が根で歩く事に拒否反応があるようなサクラだが、根で攻撃する事そのものには特に思う事はないようである。……なんというか、いまいちその基準が分からないものだ。いや、プレイする者の好みの問題なので、余計な口出しは無用か。
「ふふーん、こうやって新しいスキルを色々眺めているのも楽しいですねー! さーて、次は堅牢のスキルツリーです!」
そんな独り言と共に、スキルツリーを堅牢のものへと切り替えていく。この調子だと一番最後の知恵にある『範囲拡大』に辿り着くまでしばらくかかるだろう。
「え、『巨大成長Ⅰ』とかありますけど、大きくなれるんですかねー!? これ、ちょっと取りたいです! 他には……『軟質化』って、柔らかくなるんです? 柔らかくなるって何に使うんですか、これ?」
大きくなることには興味を示すサクラではあるが、柔らかくなることには全然意義を見出せないでいた。まぁ『軟質化』は耐える事も目的としたものではなく、耐久性を意図的に落とす事を目的としているスキルなので、その手段が必要でなければ無用なスキルでもある。
「他にも『光の纏い』とか『地固め』とかありますけど、これだけじゃよく分からないので今は良いです! さーて、次に行きましょう! 今度は俊敏のスキルツリー!」
第6段階のスキルはどちらもスルーされてしまったが、まぁ今の段階で気にしたところで進化ポイントが全然足りていないのだから問題はない。
そもそも動かない進化を選んだ以上、進化ポイントが足りたとしても今取るべきスキルでもない。動かないままの状態を維持し、それでいてエリアボスを倒す手段を手に入れなければサクラの桜の木の育成はまともに進まないのだから。
「えっと、俊敏は……第6段階に『駆ける根』って何ですか!? その前に『移動速度強化Ⅰ』もありますし、ちょっと待ってください! 木が速く駆けてくるようになるんです!?」
配信用のVR空間に表示されているサクラの狐っ娘アバターが露骨に嫌そうな顔をしている。確かに勢いよく駆ける木というのはちょっと凄い絵面にはなるけども、そこまで嫌がる事なのだろうか。何にでも躊躇なく噛みつく割に、サクラのその辺の基準はよく分からない。
「……他の第6段階の『根の剣山』っていうのも名前からして物騒ですねー。その前提の第4段階に『多根槍』ってスキルもありますし、連撃攻撃っぽいのは覚えておきましょう! 多分、使ってくる敵も出てくるはずですしね!」
根で駆けるのからは目を逸らす様に他のスキルツリーへの話題へと変えていく。まぁ今日やっていた丘陵エリアで木自体が少ない事もあって機会はなかったけども、同じくらいのLv帯になっている森に行けば普通に出てくる。
だから、その注意しようという意思は普通に大事なものだ。……ただ、それと同時に駆けてくる木は、もういつ出てきてもおかしくない事にも気付いて欲しい。実際にその手の木が出てきた時にサクラがどんな反応をするのか、今から楽しみにしておこう。
「それにしても、範囲を広げるような感じのスキルはまだないですねー? スキルツリーにあるって聞いたと思うんですけど、間違いでしたっけ?」
そんな事を言いながらサクラは器用のスキルツリーへと切り替えていく。うん、聞いたのは間違いないから! 知恵のスキルツリーの方だと考える前に、聞いたことそのものが事実だったかどうかを疑わないで!? 疑問を持つべきはそこじゃないから!
「器用のスキルツリーは……おぉ、『花びらの舞』とか『桜吹雪』とかありますよ! これは是非とも取りたいです!」
なんだか妙に嬉しそうにテンションが上がっているサクラであった。まぁ桜の木に少なからずこだわりがあるのだから、その象徴となる花びらを使った攻撃スキルに興味を持つのは不思議ではないか。
サクラの桜の木は器用で進化しているので、スキルとしての相性も悪くはない。むしろ、動かない事にこだわり続けるのであれば、特に重要になってくるスキルになる。
「あ、『果実生成』とか『芳醇な香り』っていうのもありますね。この辺って、敵を呼び寄せるスキルですかねー? あ、今日見た蜜柑の木もこれのどっちかを使ってたかもしれないですね!」
まさにその通りである。知恵のスキルツリーにある『樹液分泌』よりは効果が下がるが、『芳醇な香り』には敵を広範囲から集める効果が、『果実生成』には生らした果物によって足止めをする効果がある。
ちなみに桜の場合は、リアルでの桜の種類は無視され一律でサクランボが生るようになっている。この辺りはゲームとしての都合なのでご容赦願いたい。
「さてと、残るは知恵のスキルツリーですけど……あ、そういえばスキルツリーの第4段階って言ってた気がします!?」
おーい、確認するスキルツリーが最後の1つになってから思い出しても意味がないと思うんですけども? いや、それでこそサクラなのかもしれない。真っ当な行動しかしないサクラだと、この話の根幹から崩れ去ってしまう危険性もあるので、そのまま変に突っ切ってもらった方が良い。
「あっ! 『夜目』があった場所に『範囲拡大』がありました! 言ってたのはこれですよね! 途中で『識別』も手に入りますし、この先に『看破』もあります!」
ようやく目的としていたスキルに辿り着いたようである。ライオンの育成で結構時間を使っていたし、スキルツリーの確認をこんなにのんびりやってて時間は足りるのだろうか? サクラが普段ゲームを止める時間は、もうすぐそこまで迫っているのだが……。
「これは最重要なスキルっぽいので、しっかりと詳細を確認しておきましょう!」
そんなサクラの言葉と共に、スキルの詳細が表示されていく。その内容は以下の通り。
『範囲拡大Lv1』:パッシブスキル
根を伸ばし、活動範囲を拡大させる。
それに伴い、各スキルの効果範囲が拡張する事が出来る。
Lv上昇により、効果範囲の拡大。
「おぉ、これこそ私が求めているスキルですね! でも、パッシブスキルでLvがあるのって地味に初めて見た気がします! というか、木には『夜目』ってないんですねー!」
種族的な特徴として昼間の太陽が出ている間の方が強くなるのが木だから、そういう仕様にはなっている。まぁ夜目が無いからといって、ゲーム的な調整で移動に支障が出るほどの暗さでも無いため問題はない。サクラのように動かないのを前提にするのであれば、尚更に。
「さて、それじゃ解放して……って、進化ポイントが全然ないんでした!? ぎゃー!? 時間ももう殆どないですよ!?」
ここにきて、ようやくあまり時間が残っていない事に気付くサクラであった。桜の木の育成を始めようとした段階から大体分かっていた事の筈なのに、今になってなぜ慌てているのだろうか。現在時刻の確認は忘れないようにしましょう。
「うぅ!? せめて、せめて少しだけでも進化ポイントを稼ぎたいです! 『樹液分泌』『葉っぱカッター』! あれ? あっさり倒せます?」
最後の悪足掻きとしてやったつもりが、寄ってきたカブトムシをあっさりと倒せて驚いている。いや、成長体に進化して強くなってるのを忘れないようにね!? 幼生体の敵なら、もう雑魚だから!
「ふっふっふ、これなら少しくらいなら進化ポイントを集められそうです! いつもより少し遅くなるけど、10分くらいはやりましょう!」
そうして、普段より少しだけ長めにプレイをしていくつもりになったサクラであった。まぁやり過ぎて20分ほど経過した後に風呂に入れと母親に怒られて慌ててログアウトしていくのはご愛敬という事で。
結果としては進化ポイントは13ほどにはなったので、次の育成の際には『範囲拡大』を取る事も出来るだろう。
「……むぅ、時間配分を間違えました」
「木の方はほぼスキルツリーの確認だけになっちゃったね」
「まぁ過ぎた事をどうこう言っても仕方ないですね! 次の機会に頑張って育てます!」
「うん、その辺は頑張って」
「はい、そのつもりです! 色々気になるスキルもありましたしねー!」
「いくつか気にしてたのがあったね?」
「その辺を解放して使いたいところです! それにしても種族によって結構スキルツリーの内容が違うんですね?」
「極端にかけ離れてるライオンと木の比較だと特にそう感じるだろうね。種族によっては構成が大して変わらないのもあるから」
「あ、そうなんです?」
「ライオンとオオカミ辺りはかなり近いとかそんな感じ。まぁそれでも多少の差異は出てくるけどね」
「おー! そういう感じなんですね!」
「うん、そういう感じ」
「それでは、キツネがどうなるかが気になるという方はブックマークや評価をお願いします!」
「……それ、ただ単なるサクラの疑問なのでは?」
「そうとも言いますね!」
「まぁそれはキツネをアンロックしてからね。さて次回からは第6章に入りまして『第180話 SNSでの変化』です。お楽しみに!」
「なんだか少し不穏な雰囲気がする気がするのは気のせいですか!?」