第139話 実況外の探検録 Part.6
【1】
「もう一度、えいや! 」
VR空間の和室の中にある一枚板の立派な机の前に座る、銀髪の狐をモチーフにした女の子……サクラが、何度も何度もサイコロを投げていた。ゲームのプレイ動画のはずなのに、いきなり何をやっているのだろうか。
「うーん、あの時みたいに転がっていきませんねー? もう一回!」
どうやら配信中にどこかに転がっていったサイコロの再現をしているようである。何の意味があるのかは分からないが、サクラが変な行動を取るのは今更ではあるので気にするだけ無駄だろう。
「んー、何がどうしてああなったんですかねー? まぁいいです! それでは実況外の配信のプレイをやっていきます! 今日の目標は木の進化と、ライオンの丘陵エリアでのマップ解放ですね!」
いくらサイコロを振り直しても、あの時と同じように変な方向へと転がっていく事はなかった。物理演算がそのまま採用されているのでどこに転がっていくかは分からないが同じような事は発生するのだが、それはサイコロの落ち方次第である。それを再現する意味は全くないが。
「まずは木の育成からやっていきましょう!」
まぁそれは置いておいて、サクラはモンエボの起動をしていく。とりあえず木の育成を優先してやっていくようである。木は前回『樹液分泌』をし過ぎて、虫に殺されランダムリスポーンとなっているので、そこからの続きになるだろう。
「それじゃ進化を目指して頑張っていきますよー!」
そうしてサクラは起動が終わったモンエボの方へと操作を切りかえていった。今日で幼生体から成長体に進化するLv10まで辿り着けるのだろうか?
【2】
前回サクラによって荒らされた地点から、ランダムリスポーンした場所でスタートとなる。ランダムリスポーンしたばかりなので、周囲の木々はまだ被害を受けずに無事であった。
「えっと、進化ポイントはいくらありましたっけ?」
そんな独り言を呟きながら、サクラは木の進化ポイントを確認していく。まぁ流石に同時に2体の育成をしている訳であり、この辺りは逐次確認していくので問題ないだろう。すべてを暗記しておけという方が無茶な話ではある。
「今は進化ポイント7はありますね! うーん、それならあの樫の木が持ってた『硬化』が欲しいとこですけど……とりあえずスキルツリーを見ていきましょう! あれは堅牢のスキルツリーですね!」
そうしてサクラは堅牢のスキルツリーを開いていく。完全に実況中の樫の木の影響を受けているようであった。まぁそれが悪い事ではないし、育成方針を定める上では良い判断だ。
「あ、ありました! 堅牢の第2段階で手に入るスキルが光合成か硬化なんですねー! 光合成は……太陽が出てる間に限定って、制限が酷くないですかねー!?」
光合成を光源なしでどうやってやるのかという話ではあるが、まぁそう言いたくなる気持ちは分からなくはない。
「硬化は……あ、堅牢が上がる代わりに俊敏が下がるんですね。どうせ動かないんですし、これで良い気もします!」
サクラの目指している動かない木では回避速度と移動速度については影響はないが……攻撃速度にも影響するのには一切気付いていないサクラであった。ちなみに光合成と硬化の説明は以下の通りである。
『光合成Lv1』:アクティブスキル
太陽が出ている間に限り、一定時間全てのステータスを強化。
Lv上昇により、効果時間の延長。
『硬化Lv1』:アクティブスキル
一定時間、堅牢を大幅に上昇させる。ただし、俊敏が大幅に低下する。
Lv上昇により、効果時間の延長。
堅牢のスキルツリーを眺めながら、サクラは悩み始めている。まぁ育成方針を適当に決めるよりは、悩んで決めた方がいい。……その悩んだ結果がどうなるかは分からないけども。
「んー、そもそもどのスキルツリーから進化させるのかも重要ですよねー。今がLv6ですし、Lv10になった時に確か進化ポイント15が必要でしたっけ……」
意外な事にサクラは成長体への進化に必要な進化ポイントの量を覚えていたようである。進化の為の進化ポイントの温存も必要なのを、この時点で気付いたのは大きいだろう。
「んー、サクッと進化の解放をしましょう! それから進化の為の進化ポイント稼ぎです!」
そう言いながら、サクラは堅牢のスキルツリーから器用のスキルツリーに切り替え、『葉っぱカッター』の先にある第3段階の『器用+7』を解放していった。それに伴い、進化先として『器用な木』が選択できるようになっていく。
おい、今までの堅牢の流れはどこに行った! 進化先を出すのは分かるけども、その脈絡のなさはどこから来た!? ……相変わらず行動が読めないサクラである。姉の事をマイペースと言っていたけども、どう考えても人の事は言えないだろう。
「さてと、『器用な木』への進化条件は満たしたので、どんどん敵を倒していきますよー!」
まぁとりあえず今の主力となる『葉っぱカッター』をメインで使っていくのであれば、決して悪い進化先ではない。動かないつもりでいるなら、尚更に。
【3】
葉っぱが蝶を切り裂くべく勢いよく飛んでいき、その攻撃を受けて蝶は撃破されていく。スキルLv2の葉っぱカッターでの攻撃かつ、先ほど器用のステータスが増えている為、威力がより増していた。
「ふっふっふ、集まってきた虫たちの撃破完了です! これでLv7ですね!」
ちゃんと敵を倒せれるようになった事が嬉しいのか、サクラの機嫌は上々である。前回は効果の程度が分からずに無駄に『樹液分泌』を重ね掛けし過ぎて自滅していた。今回はその反省を踏まえてか、『樹液分泌』を使うのは1回のみに抑えている。
なんだかんだで反省するところはちゃんと反省しているのだった。……反省点を忘れさえしなければ。
「葉っぱカッターの再使用時間が過ぎたら、もう一度ですねー! うーん、他にも遠距離攻撃のスキルが欲しいとこですけど、何かありませんかねー?」
そう言いながらサクラは器用のスキルツリーを開いていく。まぁ遠距離攻撃の手段が1つしかない状況では、その気持ちも分からなくはない。
実は根の操作を取ってしまえば、根でその辺の小石を掴んで投げれば『投擲』を取る事も出来るのだが、サクラがそんな事を知るはずもない。そしてそれを伝える視聴者も今はここにはいない。
「あ、『樹液飛ばし』ってのがあるじゃないですか! これってどんなスキルなんでしょう?」
木の器用のスキルツリーにある、葉っぱカッターと同じ第2段階のスキルの『樹液飛ばし』にサクラは目を付けた。ちなみにスキルの内容としては以下の通り。
『樹液飛ばしLv1』:アクティブスキル
敵に樹液を浴びせ、一定時間周囲の他の敵から襲われやすくする。
Lv上昇により、効果時間の延長。
「……攻撃スキルじゃないですね」
どうやら期待が外れて残念がっているサクラであった。それは攻撃スキルではないけども使い方によっては非常に有用なのだが、その事に気付いた様子もない。まぁ実際に使ってみないと効果を実感しにくいスキルではある為、この反応はある意味仕方ないか。
「あ、そうだ。生命とか屈強とかも見てみましょうか! あのHPを吸ってくる攻撃は欲しいですしね!」
そうしてサクラは生命のスキルツリーと屈強のスキルツリーを見ていく。欲しがっているところ悪いけども、そのスキルは成長体からのものだから今見ても意味はない。
「うーん、それっぽいのはないですねー。屈強に根で突き刺す攻撃はあったけど、それを取りましょうかねー?」
進化の為に進化ポイントを溜める必要もあるという事が少し抜けかけている気がするサクラである。今の進化ポイントは一度2まで減って、Lv7になるまでで7まで溜まったところ。
Lv10までに進化ポイント15を用意するには、決して余裕がある訳でもないのだが……誰か、ツッコんでくれる視聴者はいませんかねー!? いる訳もないか。
「まぁその辺は進化してから考えればいいですね!」
サクラのどういう心境の変化か分からないけども、進化ポイントを無駄に使わない選択にしてくれたようだ。……今日の実況中のプレイで盛大に予定が狂ったのが、少なからず影響していたのかもしれない。
「さーて、Lv10を目指してどんどんやりますよー! 『樹液分泌』!」
そうしてサクラは木の進化を目指して、Lv上げを再開した。この様子なら変に脱線し過ぎずに木の進化まで辿り着くかもしれない。
「来ましたね、虫たち! 私の経験値と進化ポイントになってもらいます! 『葉っぱカッター』!」
樹液分泌の適切な使用と、威力が高めの葉っぱカッターでどんどんと敵を倒していくサクラであった。一撃では倒し切れなかった敵であっても、樹液分泌を使えば再度近付いてきて、それを仕留められるようになったのも大きいだろう。
「なんだかツッコミが多いような気はするのは気のせいですかねー?」
「気のせいじゃない?」
「そっかー、やっぱり気のせいですか! って、確実に気のせいじゃないですよね!?」
「……サクラ、そこは気のせいという事にしておくんだ。そうじゃないと……」
「……そうじゃないとどうなるんです?」
「天然過ぎて、意味不明になる」
「それ、どういう意味ですかねー!?」
「言葉のままの意味だけど?」
「ぐぬぬ、作者さんはあれですか!? 私を陥れたいんですか!?」
「いや、自由にしてくれて問題ないよ?」
「だったらツッコミはいらなくないですかねー!?」
「え、そこも含めてサクラだよ?」
「うがー!? もの凄い不本意なんですけど!?」
「という事で、はいこれ」
「はっ!? カンペ回避に失敗しました!? むぅ……読みますけど、変な事を書いてたら怒りますからね! えーと、『可憐で可愛いサクラちゃんが良いと思った方はブックマークや評価をお願いしまーす』って、なんですか、これ?」
「……え、何その内容? サクラ、すり替えた?」
「そんな事はしてません……あ、最後に『サツキより』って書いてます!?」
「いつの間に!?」
「姉さん、何やってるのー!?」
「自由過ぎるわ! まぁ処置は後々考えるとして……次回は『第140話 実況外の探検録 Part.7』です。お楽しみに!」
「次で第4章は終わりですねー!」