第104話 実況外の探検録 Part.4
【1】
和室へと模様替えになったVR空間で、銀髪の狐をモチーフにした女の子のアバターが姿勢よく正座をしていた。そんな彼女は何かを考えながら手元の操作パネルを弄っているが、その心境は分からない。
「うーん、やっぱり早く机は欲しいですね。まぁ、それは明日やりましょう! さて、それでは実況外の配信のプレイをやっていきましょう! まずはちょっと木の方を育てていきますよー!」
サクラはまだ中途半端な状態の模様替えに満足していないようで、そんなことを呟きながらモンエボを起動していく。
間に合わせで使っている竹林の背景と同様に、無料の範囲でも机くらいは用意されているので一時的にそれで代用する事も可能なのだが、そこには全然思い至っていないサクラであった。
「今の私の木に必要なスキルは教わったので、そこを目指してやっていきます! それじゃ頑張ってやりますよー! 目指せ、根で歩かないままでの進化!」
それがどういう事なのかを知らないままのサクラは、2回目の木の育成を行うべくゲームへの切り替えていった。
前回、全然敵を倒せずにいたのは何も解決していないのだが、その辺りはどうなるのだろうか。まぁサクラが変なことをするのは今更な話なので、どのように突破するのかを見守っていこう。
【2】
爽やかな風に吹かれ、サクラの木の葉はゆらゆらと揺れている。雲一つない昼間の良い天気の中であった。
そんな中、サクラの木に近付くリスの姿があった。見た目はまだ幼生体とも一般生物とも見分けがつかない。
「今度こそ、仕留めます! 『葉っぱカッター』!」
そして、サクラの木から葉っぱがリスを切り刻もうと飛んでいき、それは直撃する。……だが、それだけでは倒すには至らない。
その結果として、襲われたリスは一目散に逃げ去っていった。一般生物であれば一撃で死ぬ為、今のリスは幼生体だったという事になる。
「うがー!? 『樹液分泌』までの取得が遠いのですよ!?」
前回と何も変わらず、未だに1体も仕留められていないサクラであった。しかも一切の移動をしていない為、マップも解放されておらず、一度攻撃した幼生体が近くにいてもサクラはそれに気付けない。
まぁそもそも、サクラはマップが解放出来ない事にも未だに気付いていないのだが……。
「うーん、やっぱり倒すのが厳しいですね……。葉っぱカッターの一撃だけでは威力が足りてないみたいだし……はっ!? 倒せる可能性を思いつきましたよ!」
何やら手段を思いついたようではあるが、それは果たして真っ当な手段であるのかが疑問なところである。とはいえ、今の状況で可能な事も少ないのもまた事実。
サクラが思いついた手段は果たしてどのようなものなのか。その手段で、この早すぎる段階での詰み状態を突破できるのか、それが重要だ。
「ふっふっふ! スキルにはLvがあるんだし、葉っぱカッターのLvを上げて、一撃で倒せるようになればいいだけなのです!」
どうやらサクラの思いついた手段は、意外でもなんでもなく普通に順当な手段だったようである。まぁ取れる手段が少ない以上、そうなるのは順当といったところか。
「あ、近くにある木を切り倒して潰すのもありですかねー? 倒せなくても、足止めくらい出来ればありですよね! よし、合わせてそっちもやっていきましょう!」
順当だと油断していると、変なことを思いつくのがサクラであった。果たしてサクラが必要な進化ポイントを稼ぐのが先か、周囲の木々が切り倒され尽くすのが先か……。
【3】
サクラは現状の打開策を決めてから、しばらく経った。……周囲に倒れている木が数本あるが、それは気にしたらいけないだろう。特に倒れる方向を全く考えずに適当に切り倒したものが多いのは……。
「……むぅ、木が倒れる方向がよく分からないですね。まぁそこは感覚でやるのみです!」
一応は試行錯誤を繰り返していたけども、もう考える事を放棄したサクラは感覚のみで木を切り倒していく事にした。まぁまだ一撃で両断出来る訳でもなく、木を狙った方向に切り倒すコツを知らないのでその辺りは仕方ないだろう。
「あ、トカゲを発見です! 次の標的はトカゲですね!」
サクラの前には小さなトカゲの姿があり、そのトカゲを仕留める為に動き出す。
「狙いは後ろの木! 『葉っぱカッター』! おぉ、狙った方向に倒れてくれましたよ!」
サクラの放った葉っぱの刃はトカゲのすぐ後ろにある木に直撃し、その木に切れ目を入れていく。そして自重に耐えられなくなった木が、徐々に倒れていった。感覚でやった割には綺麗に倒れたものである。
だが、狙われていたトカゲは木が倒れ始めた時点で逃げ出していく。まぁ、倒れてくる様子が見えているのに、逃げない訳がない。
「あ、逃げられました!? でも、葉っぱカッターがLv2になりましたよ!」
トカゲに逃げられた事は悔しそうだが、狙っていたスキルのLv上げの方が達成されたのは大成果と言えるだろう。
「うーん、リスとかトカゲとか、そういう小さいのには全然当てられないですねー。大型の種族が近くに来てくれませんかねー?」
流石に木で小さなリスやトカゲを潰すのが無理なのを実感しているところのようである。種族の大きさの差は、モンエボで戦う上では重要な要素だ。
「でも、なんだか経験値が結構入ってますねー? いつの間にかLv4になってますし! ふっふっふ、Lvアップで進化ポイントは3ほど手に入ったので、とりあえず知恵のスキルツリーの第1段階は解放しておくのです!」
アドバイスとして教わった知恵のスキルツリーの第2段階に存在する『樹液分泌』の解放に向けて、第1段階の『知恵+5』を解放していくサクラだった。
地味に目標の樹液分泌の解放まであとLv1ほど上がれば達成する状況になってきている。まだ一度も幼生体の敵は倒せていないが。
「それにしても、木を切り倒し始めてから妙に経験値が増えましたよね? 私、何かしましたっけ?」
至る所に植わっている植物系の一般生物では経験値にはならないが、その木が倒れる際に巻き添えで死んでいた一般生物の虫や小動物の存在には気付いていないサクラであった。
【4】
それからしばらく、サクラは一般生物も幼生体の敵も見つける事が出来ないでいた。まぁ盛大に木が倒れていく中に、わざわざ突っ込んでくる敵もいないだろう。
周囲を荒らし過ぎれば、一定期間は弱い敵が寄り付かなくなる。単純にそれだけの仕様であった。……サクラは木の倒し方に集中していて通知を見落としている為、それを知らないが。
「全然敵がいません……おぉ、そんな事を言ってたら良いところにクマが現れましたよ!」
ただし、種族によってはその仕様の適応外のものもいる。そして、その代表格のクマがサクラの木の前に現れた。
「ふっふっふ、私に倒されるために現れましたね! 再使用時間が過ぎたら倒してあげますので、大人しくしていてください!」
ここにきて初めての大型の種族であるクマの出現である。……ただし、自身が襲われるという事は考慮していないのがサクラだ。
「って、ちょっと待ってください!? なんで手を振り上げてるんです? 私、食べれませんよ!? クマは肉食なのに、木を襲ってどうするんですか!? ぎゃー!?」
そしてクマの爪の一撃がサクラの木に襲い掛かり、その生命を削り取っていく。その言葉はライオンで木を倒していたサクラが言うべきものではない。
「あ、意外と平気です? あ、そういえば初期の耐久性はライオンより上でした!」
木は種族の特徴として初めから生命と堅牢が高くなっているので、強力なクマの攻撃とはいえあっさりと仕留められはしない。
「ふっふっふ、クマめ! 木の耐久性を舐めないでください! Lvが上がったこれの実験台になってもらいます! 『葉っぱカッター』!」
サクラがLv2になった葉っぱカッターで狙うのは、隣に並んでいる他の木。葉っぱカッターがLv2になった事で見事に両断出来て、その木が倒れ、クマを押し潰していく。サクラの木の枝も巻き込んで……。
至近距離にいるクマに向かって隣の木を倒すのだから、位置関係としてサクラ自身が巻き込まれるのは当然である。
「ぎゃー!? 私の木の枝まで巻き込まれたー!? あ、でも成功ですよ!」
ちょっとトラブルはあったものの、まだまだサクラの生命は残っている。初めての切り倒した木を使って押し潰す事に成功したのであった。
しかも頭部に当たった事で、クマは朦朧になっている。生命も半分以上削られていた。
「ふっふっふ、それでは再使用時間が過ぎるまでそのまま待っていて下さいね!」
倒れた木に押し潰され、朦朧でまともに動けないクマ。そしてそれを仕留めるべく、葉っぱカッターの再使用時間が過ぎるのを待つサクラ。
少しして、先に動き出したのはサクラであった。葉っぱカッターがLv2に上がっている為、再使用時間が少し短くなっていたのが大きいだろう。
「これでトドメです! 『葉っぱカッター』!」
サクラがスキルを発動した直後にクマの朦朧は回復したようだが、上に倒れている木が邪魔になり身動きがまともに取れていない。
そして、サクラの攻撃がクマに決まり、生命の全てを削り取っていった。……このクマ自体、それほど強くはなかったようである。
「初めて木で幼生体、撃破です! Lvも5に上がりましたし、進化ポイントも4になったので『樹液分泌』が解放出来ます! いやっほー! やれば出来るのですよ!」
そんな風になんだかんだで目標の進化ポイントを確保したサクラのテンションは非常に上がっていた。その周囲は倒れた木々が沢山あり、かなりの惨状となっているけども……。
「作者さん、ちょっと良いですか?」
「ん? どうしたの、サクラ?」
「なんか妙にツッコまれてる気がするんですけど、あれって作者さんですか?」
「……さぁ?」
「今、妙な間がありましたよね!? やっぱり作者さんじゃないんですか!?」
「……サクラ」
「な、なんですか!?」
「そこは触れちゃダメなとこだから。それをしていいのは、ここでだけだから」
「な、なんか怖いんですけど!? 分かりました! 分かりましたから!」
「それならよろしい。それじゃ、はいこれ」
「……カンペ回避を忘れてました。えーと、『ドジっ子サクラに頑張れと応援してくれる方はブックマークや評価をお願いします』って、何度ドジっ子じゃないって言わせる気ですか!?」
「え、隙があればいくらでも。そもそも事実だしなぁ」
「言い切りましたよ、この作者さん!? 私はドジっ子じゃなーい!」
「さて、次回は第3章の最終話の『第105話 実況外の探検録 Part.5』です。お楽しみに!」
「思いっきりスルーですか!? あ、次で第3章は終わりなんですね!」