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魔女見習いの旅行記  作者: まなりの
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はじめてのおつかい

世界は知らないことだらけ。


大通りから一本入った細い路地沿いの、クリーム色の小さな建物。

窓辺には、きっちりと手入れされたピンクの花が咲くプランター。

つやつやに磨き上げられた木の扉にはミモザのリース。

どれも、この家の主の性格を示すように整然と整えられている。


クララは、小さく息を吸い込んで、つやつやに磨き上げられた木の扉をノックした。


「来たね」

ややあって扉から顔をのぞかせた魔女は、にやりと笑った。



「…この地図、適当すぎない?」

「リリスは絵がへたくそだな」

「…絵がへたくそってレベルじゃない」

クララは手書きの地図片手に途方に暮れていた。


「クララ。次の休みは何か予定があるかい。なければ、お使いに行って欲しいのさ」

「別に、いいけど」

祖母からの唐突な依頼に、クララは目を瞬かせた。

「チェコのチェスキー・クロムロフに行ったことはあるかい」

「………え」

「なに、1日汽車に乗れば到着できるさ。向こうに泊めてもらって、翌日帰ればいい」

祖母の隣の家に行く位の気軽な調子にクララはあきれてまゆを寄せた。

「簡単に言うねおばあちゃん」

「おまえはもう高等学校の生徒なんだし、大丈夫。最近はすまーとふぉんだって便利だしね」

「つい最近まで使い方がわからないからいらないって言ってたくせに」

「声でしゃべりかけると何でも検索してくれる」

ふふん、と自慢げに電子デバイスをかざす祖母の指に嵌っている指輪の石から、きらりと光の粒がこぼれた。


クララの祖母、リリスは「つくる魔女」だ。


科学が発達する中でも、脈々と魔法は生き続けている。


私たちの世界とは違う場所、あちらの世界の力を借りて、魔女達は魔法の道具を作る。


魔法と言ったって、炎を出すとか、空を飛ぶとか、奇跡のようなことは起こせない。

魔法は、そこにひっそりとあって、やわらかく周りを照らしている灯りのようなもの。


持ち主が幸せになるのを少しお手伝いする、といった、おまじないに近い。


祖母は特に女性の装身具作りが得意だ。

昔から、クララは、祖母が魔法を使うのを見ているのが大好きだった。

丁寧に形作られていくネックレスや指輪に魔法が宿っていく様子を見ているだけで、なんとなくしあわせな気持ちになるのだ。


いつもは背筋を伸ばしてしゃんとしている祖母が、魔法を使う時は、悪戯をするこどもの様に笑うとこも好きだった。


「現地に行ったらこの地図を見て、ルージュの工房を訪ねておくれ。チェコビーズを仕入れて来てほしい。このメモを渡せば分かるだろうから」

「なら、メールか手紙を出して、郵送してもらえばいいじゃない」

「直接逢いに来ないやつとは、二度と取引してもらえないよ」

どうやら、気難しい相手らしい。

「そんな人と会うのは緊張する。留守番するから、おばあちゃんが行って来たら」

「家主を追い出す居候がどこにいる」


クララは、う、と言葉に詰まった。

高等学校に通うために、交通の便が良い祖母の家にお世話になりはじめたのは、つい最近のことだった。

それを出されると弱い。


アルバイトをして家賃を稼ぎながら、ひとり暮らしをするという案もあったのだか、祖母が仕事や家事の手伝いをしてくれるなら、家に住んでも良いよ、と言ってくれたのでお言葉に甘えたのだった。


祖母が、厳格さとお茶目さを持ち合わせている人間である事は知っている。

ここで一緒に暮らすのも、決まってからは少しどきどきしていた。


手伝う、という約束を違えたら、追い出されてしまうに違いないのだ。


「…わかった」

こうして、クララの、はじめてのお使いが始まった。


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