詐欺師
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俺は詐欺師。
二十の時に俗に言うオレオレ詐欺をはじめた。はじめてやった時は、少し緊張したが、老人どもを騙すなんざ誰でも出来る。
ジジイババアに息子のフリして、口座に金を振り込ませる。
大金を騙し取った、という罪悪感なんざ俺が感じるわけが無い。
世の中、騙された方が悪いんだ。
そして今日も、俺は金をだまし取る。今日は、○○市の○○○-××に電話をかける。何か見た事ある電話番号だなと思ったが、そんなことは気にしない。さぁ、仕事だ仕事。
「もしもしー」
慣れたもんだ。俺は俳優になれるかもしれない。そう頭の中で独り言を、言っていると50代くらいの女性が電話に出た。
「もしもーし?あら?どなたかしら?」
「あー俺だよ、シンジだよ。母さん元気にしてる?」
このセリフ何回言ったことか…
すぐに返事はかえってきた。
「あら、シンジじゃない。うん、元気だよ。ところであんた、なんかあったの?」
「いやぁそれがさ、俺が建てた会社が倒産しちゃってさ、ちょっ
と5000万くらい貸してくんないかな?」
「うーん、いいけど用意に時間がかかるかもしれないわよ?」
「うん、悪いね母さん。」
チョロい。おそらくこの母親は、相当息子に甘い。後は、振り込まれる金を待つだけだ。
「じゃあ、ありがとね母さん。」
「ええ、でもちょっといいかしら?」
何だ?なんか用か?金ヅルババア。
「私の息子は、会社なんか経営してないけど?」
「えっ…??」
思わず声が出た。嘘だ。こいつの家系図は全部調べた。
ミスってた?この俺が?とにかくマズい。俺はすぐに電話を切ろうと、受話器を戻そうとしたその時。
「まだこんなことしてるの? ケンジ?」
…っ!!!まさか……
「母さん……なのか…?」
ヤバい。かなり焦ってる。焦っているせいで、正気を失っていた。
「そーよ、あなたの母親のフミコよ。あなた。もうこんなことは、やめなさい。」
俺は焦っていた。だから、深呼吸をして一度我に返った。
するとある事実を思い出した。
俺の母親は、死んでいる。
母親は、俺が二十歳になってからずっと病気で寝たきりだった。
だが、母親が充分な治療が受けれるほど、俺の家は裕福じゃなかった。それは、俺が中学生のときに起こした暴力事件のせいだ。
クラス担任の教師の腕を、ダガーナイフでかっ切ってやった。
その教師の慰謝料、治療金、をすべて含めて1000万した。
そのせいで我が家は借金まみれだ。
俺のせいで母親が死んだ。その事実のせいで今俺は詐欺師なんかをやってるんだ。
おそらく誰かが、俺のことを調べていたんだ。母の名前も。
「何言ってんだクソババア。俺の母親はとっくに死んでんだよっ!バーーーーカ!」
「……………」
黙りやがった。俺の母親の名前なんか名乗りやがって。
一体どこのどいつだ?おそらくヤツもくやしがっているだろう。
俺を騙そうとして失敗したのだから。
そんな風に勝ち誇っている俺。すると電話の中から母親のマネをしていたババアではない声が聞こえた。
「フミコさん、そろそろ時間です。息子さんに別れのあいさつを。」
「ええ、そうね。ありがとうね神様。私のわがままなんか聞いてくれて。」
「いえ。あなたの息子もあなたと会話をすれば善良な人間に生まれ変わるかもと思いましてね。」
「えっ……ほんとに…………母さん…なのか?」
頭で考えるより先に口が動いた。
「ええ。ケンジ。あなたと話すために天国の神さまにわざわざ頼んだのよ。あなたは、優しい子だから、私の死のせいで自分を責めるンじゃないかとおもったの。あなたが詐欺師をするしか生きる道がないのも、私のせいよ。あなたのせいなんかじゃない。」
涙がでた。久しく見ない、涙だ。
「母さんっ……
俺っっ… 俺はっ…… 」
「じゃあね、ケンジ。あなたはきっとやり直せる。天国でいつも見守っているからね……… プッツ………」
電話が切れた。それと同時に、詐欺師は泣き崩れたのであった。