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探検家の思い出

「おいおい、なんでエルフのガキがここにいやがんだ?」

「それは私が国から直々に依頼されたからよ、坊や」

 もう聞き飽きた言葉に返しながら、目の前の遺跡を見上げる。

 一人で遺跡を荒らし続けて早三十年。私も名が売れたものね。まさか国の調査団に加わってくれと頼まれるなんて。

「このクソチビ……舐めた口たたきやがって。嫁にいけねぇ体にしてやろうか?」

「お人形遊びがしたいならお家で本物の人形でやりなさい、坊や」

 あらま、顔真っ赤。どうしてこう人間は短気なのかしら。仕方ない……。

「あー、えー、君たち? 喧嘩はやめようよ、ね? ほら、これからこの遺跡を一緒に調べる仲間なんだから、さ?」

 腰にかけてあったナイフを掴もうとしたのを邪魔したのは、ヘラヘラと笑みを浮かべるヒョロそう――もとい弱そうな青年だった。

 この人はたしか……この調査団のリーダーだったかしら。

「ちっ……何が仲間だ。てめぇらみたいななまっちょろい連中と一緒にすんじゃねーよ」

 口ではそう言いながらも男は私から離れていく。一応、雇い主に手を上げないっていう冒険者の矜持とやらは心得ているようだ。

 私もナイフから手を離し、遺跡を見上げようとして――できなかった。

「……邪魔よ。遺跡が見えないでしょ」

「いやぁ、はは、君もほら、わざわざ人を怒らせるように言わないほうがいいよ? 女の子なんだから」

 さっきのリーダーっぽい青年だ。女の子。確かに見た目は人間で言うところ十四か十五、もう一つの血のほうでも百三十一歳は人間のそれ相応だけど、でも、たかだか三十年しか生きてなさそうなあなたに子ども扱いされるのは少々、腹立たしいのよね。

「坊や、喧嘩両成敗のつもりだろうけど、余計なお世話よ。あと、私もあなたたちを仲間だなんて思ってないわ。遺跡で見つかった秘宝を好きにしていいと言われたから来たのよ。それと」

 さっきからこの青年の顔も、腹立たしい。

「ヘラヘラしないで。不愉快よ」




「そこ、気をつけなさい。罠があるわ」

 護衛の冒険者に教えてやる。一応、これも依頼の内容だし。本当はこんな連中、一緒じゃなくてもいいんだけど……この遺跡は珍しく国が調査指定にしてるから、入れなかったのよね。

「いやぁ、すごいなぁ。よく罠があるって分かるね。僕にも君と同じくらいの娘がいるんだけど、妻に似て頭がとてもいいんだ。あ、そうだ、君、娘の友達になってくれないかい? 僕に似てちょっと友達が少ないのだけがこまりものでねぇ」

 またあの青年だ。この遺跡に入ってからずっと話しかけてくる。五月蝿い。

「話しかけないでと言ったでしょう。気が散るのよ」

「ふぅ、はは、困ったな。ぼく、何か嫌われることしたかい?」

「そうね、そのヘラヘラとした顔に、あなたが国の調査団のリーダー。その二つだけで嫌う理由には十分だわ」

 振り返るわけにもいかないから、どんな顔をしてるか分からないけど、きっとまだヘラヘラと笑ってるんだろう。

 調査団の連中と来たら、国の威光を笠に来て遺跡の封鎖、あまつさえ秘宝の独占を狙ってるのだからたちが悪い。

 ――――独占。

「……ところで、聞いていいかしら」

「なんだい?」

「何故今回に限って、見つけた秘宝を好きにしていいという条件を呑んだのかしら? リーダーさん」

「…………」

 意外だった。振り返って見つめた先に、ヘラヘラな笑顔を見つけることは出来なかった。ただ真剣に。それでいてまっすぐ、私を見つめ返していた。

 だけど、それはすぐヘラっと笑みに崩れる。

「さぁ、なんでかなぁ? お偉いさんの考えてることなんてわかんないなぁ」

 食えない青年だ。



「おお……」

 誰の声だったか。それは感嘆と歓喜が入り混じった声だった。無理もない。金銀財宝がたっぷり詰まった部屋を見つけたからだ。

「先に進むわよ」

「ちょ、ちょっと待てよ! こんな財宝目の前にして無視すんのか!?」

 さっきの冒険者が騒いでいる。他の連中も生唾を飲んでその部屋を見つめていた。ただ一人、ヘラヘラな笑顔は私に向けられていたけれど。

「あなた、馬鹿? こんなの、今回の調査には何の意味もないわ。私が依頼されたのは、『あなたたちを最奥部まで連れて行く』こと。『あなたたちが罠にかからないようにする』こと。この二つよ。あなたたちのお小遣いを増やすことじゃない」

 大体、宝物庫でもない場所にそんなのがひしめいているなんて怪しすぎる。そもそもこの遺跡は他の遺跡と違ってかなり深そうだし、危険だ。ここまでもずいぶんな距離があった。

「で、でもよ……」

「別に盗りたければ勝手にしたらいい。あとでとやかく言われるのも面倒だから、先に言っておくわ。その部屋はきっと罠だらけよ」

 無駄な時間を食った。秘宝もありそうな部屋だったけれど、仕掛けられた罠がどんなものか分からない以上、手は出せない。私一人だけだったら問題なかったんだけど、横に居るヘラ笑顔含め、連中足遅そうだし。


 いつまでも後ろから足音が続いてこない。腹が立つ。振り返って怒鳴ろうとした、瞬間だった。



 揺れた。



「うわぁっ!? な、なんだなんだ!?」

 凄まじい振動。立っていられない。思わず倒れそうになり――。

「僕につかまって!!」

 誰かに抱きしめられた。顔を上げれば、笑顔の代わりに必死な表情を貼り付けている、リーダーさんだった。

 普段なら顔を赤くしたりするところなんだろうけど、そうも言ってられない。視線を前に戻せば、どっかの馬鹿の手に煌びやかな装飾が存在を主張していた。

 おそらく部屋から一つ盗ったんだろう。一瞬で理解した。あの部屋は財宝の重さぴったりが仕掛けだったね。財宝を盗ったり、盗ろうとして部屋に入ったら、すぐに罠が発動する……!

「あなた! その装飾を部屋に戻しなさい!」

「な、なんでだよ!」

「馬鹿! ウスノロ! それが罠なの! 言うとおりになさい!」

 馬鹿は慌てて部屋に装飾を投げ入れる。


 ――――――――揺れは収まらなかった。


「くっ、この遺跡を作った先人はよっぽどの業突く張りね……!!」

「おい、おさまんねーぞ!」

「ど、どど、どうすればいいんだ!? 案内人! こんなことがないようお前を雇ったんだぞ!」

 五月蝿い五月蝿い五月蝿い! 本当に五月蝿い!

「文句言ってる暇があったらさっさと逃げる! 回れ右! 一目散よ!」

 まだ私を抱きしめてるリーダーさんを引っ張り、逃げ出す連中の背中を追う。


 あぁ、でも、なんでこう。


「あっ!? 危ない!!」

 突然、すごい衝撃を受けた。それがリーダーさんが私を突き飛ばしたのだと気づいたのは、リーダーさんの両足が天井の瓦礫で押しつぶされたのを確認してから。

 一気に血の気が引くって、初めてだった。

「り、リーダーさん! ちょっ、誰か! 誰か戻って……き……て……」

 あはは、誰? 足が遅そうなんて言ったの。もう誰も居ないじゃない。

「き、みも、はやく……逃げるんだ……」

 揺れがさらに酷くなる。

「ば……かいわないで。そんな石、私一人でもどかせる。あなたも逃げるの」

 揺れる地面のせいで、リーダーさんの足を潰してる石まで遠い気がした。真っ赤だった。床が。こんな血の量、なんで生きてるんだろうと思った。

 ぐっと石を押す。重い。重すぎるよ。上を見上げて思わず笑いそうになる。そりゃ重いはずよ。だってまるで柱だもん。振り返って、気絶しそうになった。なんであっち側にも同じような柱があるわけ?

 ふらふらとリーダーさんの目の前まで来て、ぺたんと座り込む。視界がぐにゃりとゆがんだ。

「ご、めんね。私が精霊魔法でも使えたら、助かったんだろうけど……でも、私」

 頭に何か暖かいものが触れる。なんで私、リーダーさんに撫でられてるんだろ……。

「泣かない泣かない。君を死なせるつもりないから、ね?」

「なにいってるの……こんな状況……もう助からないわよ」

 リーダーさんが悲しそうに笑う。そんな笑い方似合わない。

「もし生きて帰ることが出来たら、君、妻と娘にこれ渡してくれないかな。そして伝えてほしいんだ。例え体がなくても、君たちの事を見守ってるって」

 そう言って首飾りを渡された。女の人と女の子が移ってるペンダント。こんな形見渡されても、私も一緒に埋まっちゃうんだけど。

「……あのね、話聞いてる? 私もしんじゃうんだけど」

「だから、大丈夫だって。ほら、笑って笑って。君くらいの年の子に泣かれると、パパ困っちゃうな」

「誰がパパよ。私こう見えても百三十一歳よ」

「おおー、おばあちゃんだったのかぁ」

「誰がババアか」

 うつ伏せになってるリーダーさんを殴る。これから死ぬっていうのに、なんだか不思議だわ。これがあきらめの境地ってやつかしら。生き埋めって苦しいのかな。苦しいだろうなぁ。

 ぼんやりとそんなことを考えてると、視界が奇妙な物体でいっぱいになった。どっかで見たような……あ、そうだ、秘宝よ。私が国の調査団に没収されたやつ。何で目の前に。

「って、あら……?」

 急に真っ暗になった。体に力が入らない。意識がおちていく。


「これは素晴らしい秘宝だよ。でも、はは、一人用っていうのが、残念だけどね……」


 私は意識はリーダーさんの声を子守唄にしながら、一瞬で沈んでいった。





「……ん……」

 眩しい。今何時だろう。起きなきゃ。確か今日は国のちょう

「はっ!?」

 なんで眠っていたの!? ここどこ!? リーダーさんは!? 遺跡は!? って。

「……なにこれ……」

 周りを見れば、瓦礫の山。いや、それ以上に目を引くのは自分のまわりに散らばってる殻のようなもの。大きな卵でも割ったのだろうか……。

「おい、生存者だ!」

 がんと頭に響く誰かの声。目を向ければ、いくつか見知った顔と、見知らぬ顔。

 あぁ、あの馬鹿と他の調査団の連中と……状況を見れば、おそらく、救助隊といったところね。とりあえず、このまま座っていたら体をべたべた触られそう。起き上がって怪我をしてないことを見せないと……ついでに飛び跳ねてみせてあげるわ。

 逃げ出してた連中が幽霊でも見るような顔で見てるけど、無視して救助隊の人に聞く。

「調査団のリーダーと一緒に生き埋めになりそうだったけど、助かったわ。リーダーさんは?」

 すぐに答えてくれない。どころか、苦い顔をしている。ちょっとまって、どういうこと、それは。

「聞こえなかったかしら。リーダーさんは? 私と一緒に助かってるはずよ」

「…………何故、君が助かったのか分からないが、今日はこの遺跡が崩れて一週間だ。調査団のリーダーは見つかっていない」




 ――――――――――は?

 一週間? 見つかってない? 何を言っているんだろう、この人。私は無事なのに。リーダーさんはまだ埋まったまま? どうして? 最後、リーダーさんがつかったのは秘宝。絶対にたすかって――――。


『でも、はは、一人用っていうのが、残念だけどね……』


 あ。


「……馬鹿ね。自分で使えば、良かったじゃない……」

 目の奥がツンと熱くなる。視界がゆがむ。あぁ、本当、馬鹿。このペンダント、ほんとに形見にして、馬鹿。

「うっ……くっ……」

 ぐっと薄汚れた袖で目をこする。もっとこする。痛くなるくらいに。

 空を見上げて、息を一つ。ついでに足も一つ出す。続けて歩き、逃げた連中の横を通り過ぎる。

 振り返って、口を開いた。

「坊主ども、今度は年寄りの言うことはちゃんと聞くようにするんじゃぞ?」



 あぁ、全く。ババア扱いのほうがまだマシなようじゃ。









「おーい、フラン、だいじょうぶー?」

 んお?

「おお、ウラカーン、なんじゃ?」

「なんじゃ? じゃないよー。急にぼーっとするから寝てるのかとー」

「ん、むぅ、確かに寝ておったかもしれん。白昼夢というやつじゃな」

「へぇー、どんな夢?」

「昔の夢じゃ。馬鹿な男の、のぉ」

「……男。名前は?」

 お、おおう、顔を近づけるでない。阿呆め。

「名前かえ? それは………………むむ?」

 そういえば名前を知らんかったのぅ。なんじゃったか……。

「ははー、名前も知らんようなやつかぁー」

 なんじゃヘラヘラと。……ぬ。

「名前は知らんが、なんかおぬしに似ておったわ。そういえば」

「オレっちにー? それじゃあ、すげぇかっこいーやつだったんだねぇ」

「たわけ」

 しかし、ふむ、似ておる。確かあの後、奥さんと娘っ子の家まで行ったと思うんじゃが……はて、姓はなんじゃったかのぅ……。

「また考え込んでるー。ほんとにどうしたのー? ……疲れてるのか? 平気か?」

「…………平気じゃ。なんでもないわい。ほれ、はよう帰らんと、エピがぐずりおるぞい」

「む、フランがぼーっとしてたくせにー……」


 ま、どうでもいいことよね。


 おっと、間違えたわ。

 ――――どうでもいいことじゃの。

ものごっつい久々にこっち更新しました…。というわけで、読んでいただきありがとうございます!


今回は古き日のフランさんでした。何気に古参の三人組って外伝かいてないんですよねー。

アリアとヴァンは少々…ストーリー的に書きにくいというか、本編のほうのネタバレになるというか。むしろ本編で使いたいというか。


…ということで、もう一人一話というのはやめにして、くじ引きとかリクエストとかで書いていこうかなーとおもってます。

まぁ…更新できるかどうかは…フフ…。

まず本編から書けってかんじですよねわかりますん!!


はい、がんばります。これからもよろしくおねがいしまっす!

ではではっ。

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