店長の趣味
「はぁ・・・・・・困ったわね」
店の中で独り言を呟く。年かしら?
いえ、まだ若いわ。三十前なんですから。え? そんなことはどうでもいい? 何が困ったか言えって?
それはね、『メイド☆パラダイス』始まって以来のピンチに見舞われちゃってるからよ、今。
あ、『メイド☆パラダイス』っていうのは私の経営する喫茶店の名前なんだけど。
え? なんでそんな名前かって? だって、メイドさんがウェイトレスなんだもの。
え? なんでメイドがウェイトレスしてるかって? そのほうが嬉しいでしょう?
え? そうでもない? またまたーそんなこといって。私の彼なんて、営みのときわざわざその格好をさせ・・・・・・やんもう、何言わせるのっ。
え? 勝手に言っただけだろ? こほん、気のせいです。
えーと、何の話だったかしら。あ、そうそう。それでピンチの話なんだけど、ここで働いてる女の子たちが全員風邪でダウンしちゃってねー。
それで昨日は営業できなかったんだけど、みんなちょっとしつこいのにかかっちゃったみたいで・・・・・・今日も営業できないとなると、ちょっと厳しいかも? ってことなのよ。
一応、ギルドにも依頼として出してあるんだけど・・・・・・え? 男ばっかりじゃないかって? 良いのよ、皿洗いと料理が出来れば。接客は私一人で頑張るんだから!
・・・・・・でも、来るわけないわよねぇ、はぁ。
「ここかな?」
「みたいじゃのぉ、場所も名前もあっとるぞい」
「・・・・・・なんだか、名前ですごく嫌な予感がするんだが・・・・・・」
あら? お客様かしら? でも、外には準備中の看板にしたままだし・・・・・・。
あ、入ってきたわ。
「すいませーん」
あらやだ、可愛い声。
「はいはーい。・・・・・・!」
いきなりだけれど、すっごくびっくりしたわ。だって、美女と美少女二人がいきなりお店に来たのよ? しかも準備中の。
「ごめんなさい、今準備中なんです」
本当は引っ張り込んでお話したいところだけど・・・・・・残念ね、普段どおり営業できていれば・・・・・・。
「あ、いえ、お・・・・・・じゃない、私たち、ギルドの依頼を見てきたんですけど」
? 何を言い直したのかしら? って、ギルドから!? こんなかわいいのに冒険者なの!? あり得ないわ!!
「・・・・・・あの・・・・・・?」
いやっ、そんなつぶらな瞳で見上げないで!
・・・・・・こほん、とりあえず落ち着きましょうか。
「あ、ご、ごめんなさいね。まさかギルドからきてくれる人が、こんなに可愛いだなんて思わなくて」
あら? なんだか微妙な表情ね。まぁいいわ。
「それじゃぁ、早速だけど、着替えてもらいましょうか。詳しい話も奥でしますので」
「わかりました。よろしくお願いします」
本当、お人形さんみたいな子ねぇ・・・・・・はじめてみたわ。でも、うふふ、楽しみね。
〜第四十一話冒頭〜
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「じゃぁ、ヴァンちゃん、いきましょうか」
「・・・・・・うごけません・・・・・・」
あらあらぐったりしちゃって。やりすぎちゃったかしら?
「ほらほら、ヴァン、起きて起きて」
まぁまぁアリアちゃん、そんなぐいぐいひっぱったら、服が乱れて見た目大変なことになるわよ?
「わかっ、おきる、起きるから・・・・・・もう触らないで・・・・・・」
セリフだけ聞くと、事後って感じね。え? なんのあとかだって? んもう、わかってる、く・せ・にぃ。
「・・・・・・店長、顔がにやけとるぞ」
「えっ、あら、おほほほ」
あぁ、びっくりした。フランさんって大きいのに妙に気配が無いのよね。って、私何者なの?
「ふぅ・・・・・・すみません、店長さん。お待たせしました・・・・・・」
まぁ若干私のせいでもあるんだけれど、謝られるとちょっと良心が痛むわね。
「気にしないで、さ、ちょっと開店時間は遅くなったけど、お店あけましょうか」
こくりと頷くメイド服のヴァンちゃんは、食べたくなるほど可愛かったです。○月×日。晴れのち曇り。
扉を開けて入ってくるお客様に声をあげます。
「お帰りなさいませ、ご主人様ーっ」
・・・・・・ヴァンちゃん、引かない。メイドさんがおもてなしするのですから、ここはお客様にとってお家、そして私とヴァンちゃんはそこのメイドなのよ! 分かったわねっ、さぁ、おもてなしなさい!
「わ、わかりました」
ヴァンちゃんがとことこと次に入ってきたお客様のところへ走っていったわ、だいじょぶかしら?
「お、お帰りなさい、ませ・・・・・・ごしゅじん、さま」
そんな顔を赤らめて俯いて弱弱しい声で言っちゃだめよ!! 私的には満点を上げたいところだけど、接客業では恥ずかしがらない小さい声で喋らない笑顔を忘れないの三原則があるのよ!
「に、二名」
あら? お客様もまんざらじゃなさそうね。
「は、はい、こちらになります。ど、どうぞ」
ふむふむ・・・・・・あの恥ずかしがってるのが良いというお客様もいるのね。でも、あれはヴァンちゃんの可愛さがあって初めてできる技・・・・・・神様って不公平ねぇ。
注文をとってヴァンちゃんが戻ってきたわ。
「フランー、パエリア1、ウドーン1、はいりまーす」
ヴァンちゃん、あなた、いくら背が小さいからって、カウンターに身を乗り出して厨房を覗き込んじゃ駄目よ、スカート短いって忘れてるんじゃないかしら?
も、もうちょっとで・・・・・・みえそうっ
「・・・・・・店長さん、何してるんですか?」
ひゃあ! ア、アリアちゃん。びっくりしたわ。
「さっきまであれだけヴァンを味わったのに、まだ足りないんですか?」
そんな睨まないの。だって、ねぇ? アリアちゃんなら分かるでしょ?
「えぇ、十分分かります。でも、店長さんはお仕事をしてください」
はぁ〜い・・・・・・くすん、しかられちゃった。
アリアちゃんってヴァンちゃんと違った可愛さで、綺麗系だから、怒ると結構怖いのよね。
・・・・・・ヴァンちゃんが怒っても、かわいいだけなんだけど。
あら、お客様だわ。さぁ、アリアちゃんにまたしかられないように、お仕事お仕事!
「おかえりなさいませー、ご主人さまーっ」
「では、今日は御疲れ様でした。はいこれ、報酬です」
私はそういってアリアちゃんにお金を渡します。
「ありがとうございます。・・・・・・それにしても、大変なんですね、喫茶店って」
「うむうむ。わしも今まで色々なところに行ったことがあるが、ここまで繁盛しているのはみたことないぞい」
んー、それはもうヴァンちゃんのおかげだとおもうわ。お客様、ヴァンちゃんを見に来てる方が多かったようだし。
でもほんと、満席なんて久しぶりだったわー。これはもうヴァンちゃんに大感謝ね。
「んんー・・・・・・むにゃむにゃ」
あらあら、可愛い寝顔。フランさんの背中で眠っていると、親子みたい。
「・・・・・・店長、わしはまだ若い」
「え? あ、いえ、おほほほ〜」
・・・・・・なんで考えてることわかったのかしら?
「今日は本当に助かったわ。ありがとうございました」
「いやいや、わしらも良い経験をさせてもらったわい」
「そうね、こちらこそ、ありがとうございました」
「ん〜・・・・・・にゃむ〜・・・・・・」
「ふふっ、ヴァンちゃんも、ありがとね」
頭をなでなで、柔らかいわ。ずっと触っていたいくらい。
「じゃぁ、わしらはこれで」
「はい、またどこかで」
「さようなら〜」
「ん〜・・・・・・」
三人の可愛い冒険者たちが帰っていくわ。なんだか寂しい気分。
・・・・・・はぁ、もう会えないのかと思うと、ちょっと涙が出そう。
「てんちょー!」
あら?
「店長!」
あらあら? 二人ともどうしたの、風邪は平気なの?
「ごめんなさい! 速攻でなおしてきました!!」
ええ? 駄目よ、寝てないと。
「でもでも!」
それにもう閉店よ?
「あ・・・・・・」
「う・・・・・・」
ふふっ、でも来てくれて嬉しいわ。明日からまた頑張ってもらうけど、とりあえずお茶でもしましょうか。さ、入って。
「えへへー、てんちょーのお茶おいしーから好きです〜」
「・・・・・・店長、何かいいことあったんですか? 顔がにやけてますよ」
あら、ほんと。たぶん、あなたたちが来てくれたのが嬉しいのよ。
「ええー、てんちょーったらー」
「・・・・・・」
照れちゃってかわいいったらもう。そうよね、私にはこの子達がいてくれるものね。寂しいだなんて、バカみたい。
ふふっ、こういうのを幸せっていうんでしょうね。
出来れば、あの可愛い冒険者たちにも私たちと同じように、幸せが待っていますように。