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工房長の過去

 夢を見た。そう、昔の夢だ。おれもやきがまわったもんだぜ。昔の夢を見るなんざ。


 だが、そうか、もう『昔』になるか。おれがあの女と出会ったのは。


 たしか、戦場にいた。今ほど魔道具が普及してなかった三十年前の、戦場に。



「おらぁぁぁっ!」

 おれは目の前にせまる魔獣を大剣で叩き伏せる。

「くそっ、今日はいつもより多いじゃねぇか! 国軍はなにしてやがる!」

 今日で何度目かの魔獣の襲撃。おれは町を守るため戦っている。

「ガリー! ここはもうだめだ! 下がるぞ!」

 おれの十年来の相棒が魔術を放ちながら言う。何言ってやがる!。

「バカヤロウ! まだ逃げてねぇやつらがいるだろうが!」

「あきらめろ! 向こうはもう魔獣であふれかえってる!」

 相棒にいわれ、目を向けた先には魔獣が民家を襲っている。逃げ遅れた連中の悲鳴が聞こえた。

 だが、おれの目には見える。まだ生きていて、助けを求めてるやつがいる!

「くそがあああ!」

 おれは魔獣の群れに奔った。

「お、おい、よせ! んの、あほが!」

 背後から相棒の罵声が聞こえたが、おれにはわかってんだぜ? そんなこと言いながら、一緒にきてくれるんだろ?

「がああああ!」

 大剣を振り回し、魔獣を片っ端から叩き斬る。なんて数だ!

 突然、おれの後ろから突風が通り過ぎていった。風の魔術だな、魔獣が切り裂かれていく。

「まったく。お前をフォローする身にもなってくれ」

 憎まれ口を叩きながら相棒が隣まで来た。頼りになるやつだぜ。

「今度酒おごってやらぁ」

「あぁ。ぜひそうしてほしいね」

 そしておれたちは魔獣へ突っ込んだ。

「おい、ラッツェ! あの家に人の気配がする!」

 飛び掛ってくる魔獣を叩ききり、叫ぶ。

「分かった! ここで足止めしていてやる!」

 ラッツェはそれだけ言ってくれた。本当、頼りになるやつだぜ!。



「だらぁっ!」

 民家の扉を蹴り破る。

「誰かいるかぁ!? 聞こえたら返事しやがれー!」

 居るのは分かってるぜ。この魔獣の気配漂う戦場に、ここだけ違う流れがありやがる。

 どこだ、どこだどこだどこだ! 手遅れになる前に!。

 家の中を駆け巡り、二階へあがる。

「ここかぁ!」

 寝室と思われるドアを玄関と同じように蹴り飛ばし、中に突撃した。

「っ!?」

 そこには魔獣が二匹と、死体が二つと、ガキが一人。

 魔獣は乱入者のおれに矛先をかえ、襲ってきた。

「しゃらくせぇ!」

 ワンパターン戦法がおれに通じるとおもうんじゃねぇ、ザコが!。

「おい、平気か?」

 ガキに近づく。おれを見上げると見る見るうちに表情が変わっていった。やべぇ、泣くぞこれは。

「う、うわあああああん!」

 だきついてきた。泣きながら、おとーさんが、おかーさんが、って言いやがる。

 この二つの仏は、このガキの両親か。・・・・・・ちっ。

「悪ぃな、おそくなっちまって」

 おれはガキを抱き上げる。ガキはおれの首に手を回し、泣き続けた。

「今から安全なとこ連れてってやるから、しっかりつかまれ。いいな?」

 ガキは、涙は止まってないが、叫ぶのをやめておれを正面からみた。

 こいつぁ・・・・・・残念だな。すくすく育ってりゃ、かなり良い女になっただろうに。

「うん・・・・・・」

 なんてことを考えてたらガキが喋った。良かった、どうやら心はこわれてねぇみてぇだな。

「おまえの親はあとで必ず迎えに来るからな」

 今度はうなずいただけだった。



民家の中からでも気配と流れで分かる。魔獣はもういないみてぇだな。ラッツェのやろう、やるじゃねぇか!。

「ラッツェ! 待たせた・・・・・・な・・・・・・」

 家から飛び出したおれの目に入り込んできたのは、信じたくねぇ光景だった。

 ラッツェが、死んでやがる。胸を太い何かで一刺し・・・・・・。

「おいおい・・・・・・冗談だろ、ラッツェ。こんなとこで死ぬのかよ、夢はどうした! おれにいつも聞かせてくれた夢は!?」

 叫んでも、何をしても、ラッツェは死んだ。

 おれのせいだ。ラッツェは魔術師。接近戦なんてできるはずねぇのに。

 任せろなんて言った言葉を、あっさり信じやがって、おれは阿呆だ。どうしようもねぇ・・・・・・阿呆だ。

「・・・・・・だい、じょうぶ?」

 ガキがおれの顔に手を当ててきた。じゃぁおれがしばらくラッツェの近くにいたら、こいつは死んでたのか?

 自分の両親が死んで、自分も死にそうになったのに、おれのことを心配してくれるこのガキを、見殺しにしてたのか?

 どっちが・・・・・・どっちが正しかったんだ? 両方を助ける道はなかったのか?

 ラッツェ、教えてくれよ・・・・・・お前は何でも知ってただろ・・・・・・。


 だが、ラッツェはただそこに横たわるだけで、答えちゃくれなかった。



「・・・・・・」

「・・・・・・」

 町民が避難していた大聖堂に、おれとガキもきた。ガキは足を怪我してたみてぇだから、おれがずっと抱いている。

 おれは、これからどうしたらいいんだろうか。いつものようにギルドで討伐依頼を受けて、魔獣をぶっ殺して・・・・・・『撃神』なんつー名前で呼ばれて・・・・・・おれが今まで魔獣を倒してこれたのは、ラッツェがいてくれたからだ。あいつの魔術は一級品で、知識も豊富。

 何でも知ってた・・・・・・『風神 ラッツェ・レリール』なくして『撃神 ガリドウス・グランシード』の存在はありえねぇ。

「ん・・・・・・」

 おれの腕に抱かれたガキが声を上げた。寝てやがる。まぁしかたねぇな。

 あぁ、あとでこいつの両親を迎えにいく約束をしてたっけな。ラッツェもそのままだ。墓、つくってやんねーと。

 とりあえずこいつを誰かにあずけねーとな。おれはその辺にいるシスターに話しかけた。清潔な布と消毒液を手に持っている。

「悪ぃ。こいつ、両親が殺されてな。あずかってくれねーか。」

「ご両親を・・・・・・はい、もちろんですわ」

 不憫に思ってるならあんたが親代わりにでもなってくれや。ガキにてをかけ、シスターに渡そうとした。

「あら?」

 ガキはおれの服をぎゅっと掴んだまま離さねぇ。

 ・・・・・・そういえば、こいつはこれからどうなるんだろうか。やっぱ、孤児院に預けられるんだろうな。

「・・・・・・いや、やっぱいい」

 ガキを抱きなおす。シスターは不思議そうな顔をしてたが、忙しいんだな。すぐいっちまった。

 ラッツェはこいつを助けるために死んだようなもんだ。おれのせいでな。そう思うと、孤児院に預けるのは気が引けるぜ。


 ラッツェ、結局夢をかなえることはできなかったな・・・・・・。

 『この町に工房を作りたいな。そうすれば魔獣除けもすぐに設置できるはずだ』

 いつもおれに言ってやがった。そんで次の言葉が、『だから、金を貯めよう。お前もだぞ?』ってな。

 おれにゃ夢なんかねぇ。ただ戦うのが生きがいだったからな。しかたねーから、一緒に貯めてやった。


 これからどうするか、か。

 そうだな、こいつが起きてから、聞いてみるか。

 『工房を作ろうと思うんだが、お前、ついてくるか?』。

 ・・・・・・なんてな。




 それをうちのガキどもに話したら、

「なんだい、それ? 親父が『撃神』なんてたいそうな名前持ってたなんて、信じられないね」

「全くだね。工房長、つくならもう少しマシな嘘ついてくれませんか?」

 とか言いやがる。全く、疑りぶけぇやつらだ。

「だいたい、死んだ母さんはすっげぇ怖かったじゃないか」

 あぁ、そりゃ激しく同意するぜ、我が娘よ。

 ガキんときはあんな大人しかったのになぁ、女ってぇのは分からねぇもんだぜ。



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