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魔葉の王のはじまり

 私は恋をした。仲間には冗談だと思われ、笑われてしまった。それもそうだろう。私が恋をしたのは、人間なのだから。


 私が人に恋をしたのは、少し前のことだ。


 私は元々人を見るのが好きだった。いつも木々の振りをして森の中から人間を見ていた。笑い声をあげながら遊ぶ子供たち、それを見守る母親たち、その幸せのために働く父親たち。

 その村の人々は、子供のために生きているように、私には見えた。私はそれが尊いものに感じる。私たちにはそんな生き方はできない。

 そしていつのころからか、私も誰かを守りながら生きたいと願うようになった。

 

 出来るはずが無い。

 魔の者である私は、きっと傷つけることしかできない。


 私は戦うことが嫌いだ。だが、他の魔獣たちは嬉しそうに人間を傷つける。何故だろうか?

 何故人間を傷つけるのだ、と聞いたことがある。そのとき、一匹の仲間が答えた。『奴らが我らを傷つけるからだ』。

 私は言った。それでは永久に傷つけあうのが終わらぬ。どちらかが耐えねばならぬ。と。

 今度は別の仲間が答えた。『ならば、人間が耐えるべきだ』。



 私は、もう何も言わなかった。



 他の仲間たちが私を蔑む目で見るようになった。人間に味方する愚か者だと罵られることもあった。

 それでも私は人を嫌いにはなれない。命短く、脆く、儚い人間を、私は嫌いになれない。



 私はその日もいつものように森から人を見ていた。その日はいつもと違った。子供が、足りない。普段ならあの大井戸の前で六人の子供たちが遊んでいたはずだ。今は五人。病気にでもなったのだろうか? それにしても様子がおかしい。この明るい時間、畑を耕しているはずの男たちも、子供を見守ったり何かを洗っていたりしている女たちも、皆村中を走り、何かを探しているようだ。口々に何かを叫んでいる。私には人の言葉が分からない。

 そして私には聞こえた。森の中から聞こえてくる小さな悲鳴に。私は魔葉の王。この森の植物の王だ。木々が私に教えてくれる。ニンゲンガアブナイ、と。


 私は走る。森の中を。悲鳴は未だ続いている。


 森の奥、迷い込んだ人間が居た。恐怖のあまりその場に座り込み、頭を抱えている。子供の目の前にいる仲間は、今まさに噛みつかんと口を開いている。

 右腕を伸ばし、触手で仲間を止める。仲間がこちらを睨んできた。仲間といっても、彼は私とは全く似てない。四肢で立ち、体は毛皮で覆われている。仲間が私の触手を噛み千切った。私はそれでは痛みを感じない。私を殺せるのは、炎だけだ。

 うなりを上げ、私を見上げてくる。『そのニンゲンを殺す』と言っている。私は噛み千切られた右腕を再生させることでそれに答えた。彼にはわかるはずだ。私のほうが強いことが。仲間がうなり声を上げたまま、背を向け森の中に消えていく。

 私はそれを見送ると、人の子と向き合った。小さい。なんと小さいことか。私の腕より細い体。子供が怯えた表情で私を見る。私に似ている緑の色をした髪、涙をたっぷり流している赤い瞳の可愛い女の子だ。この子だ、あのとき大井戸の前に居なかったのは。

 この子供は私があの襲ってきた仲間と同じように見えてるだろう。恐怖の対象でしかないはずだ。悲しい。辛い。怖がられるのはこんなにも・・・・・・。

 だが、私の想いより、今はこの女の子の恐怖心を拭い去るほうが先だ。そういえば、泣き叫ぶ子供に母親があることをしていた。それをやってみよう。

 すっと女の子の頭に蔓で出来た右手を乗せる。女の子の体が強張る。私は躊躇したが、ゆっくりと優しく撫でる。女の子が驚いたような表情で私を見た。私は撫で続ける。

 どれくらいそうしていただろうか。女の子はもう泣いていない。それどころか、いつの間にか私の足に倒れこみ、寝息を立てている。

 焦った。どうしよう。ひとまず、村まで連れて行ったほうがいいだろう。私はその女の子を起こさないよう抱き上げた。


 村に着いたが、私がこの女の子を抱いたまま村に入れば大混乱が起きるだろう。それは困る。森の中から村を見回す。私がばれない、かつ、この子供を寝かせても安全な場所・・・・・・。

 と、一つの人が造った棒が目に入った。かなり大きく、私と同じくらいだ。確か、力の弱い仲間がこの妙な棒が出す光を見ると、気持ち悪くなると言っていた気がする。私は何も感じないが、この棒の下なら、安全だろう。

 女の子をゆっくりと、その棒の下に寝かせる。間近で人を見るのは初めてだが、本当に可愛い。人間が子供のために生きているように見えるのも頷ける。守りたくなる。

 私はしばらく眠っている女の子を眺めていた。人が近づいてくる気配がする。私は森の中に入り、その様子を見守ることにした。


 私が森に入って少ししたあと、複数の人が女の子に気づき、駆け寄っていく。私はほっとした。これで大丈夫だろう。一人の男が、女の子に抱きつき、何度も同じことを言っている。人の言葉は分からないが、単語くらいなら覚えられそうだ。

ミ・・・・・・ミリ・・・・・・ミリナ、だろうか? それがあの子供の名前なのだろう。良い名だ。私は、もし誰かを守れるとしたら、ミリナを守りたい。

 私はその日から目的が、村の人々の生活を見る、から、ミリナを見守る、に変わっていた。

 それが恋だと気づくのに、そう時間はかからなかった。

 出来ることなら、話がしたい。傍にいたい。



 そして、十数年経った今、私はある人のおかげでその目的が達成できそうである。

 私は、怯える村人たちに胸を痛めたが、教えられたことを忠実に守るため一週間でマスターした人の言葉で高らかに宣言した。


「ミリナちゃんをミーにくだサーイ、ソンチョっさーん」









 本当に、あのガールたちには感謝している。取り返しのつかないことになる前に、私を止めてくれたのだから。

 あの二人はもう隣国へ行けただろうか。私はあの二人に何度でも礼を言いたい。


 ミーは、この村に居られて、ミリナちゃんのお友達になれて、とっても幸せデース






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