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受付嬢の『未』恋

 私の名前はエリア。冒険者ギルド王都支部のしがない受付嬢です。二番目の窓口に毎日座ってます。え? 自分で嬢とかつけるな? 失礼ですね。私はまだまだお嬢さんです。

 いつもいつも依頼を受けに来る冒険者の方々の相手をして、書類とにらめっこ。変わらない毎日を過ごしています。正直、退屈です。でもお給料がいいのでやめるわけにはいきません。入るのも大変でしたしね。

 それにしても、今日は驚きの依頼がはいってきました。報酬なんと金貨三十枚! 要人数十人ってかいてありますが、それでも一人三枚ですね。これは冒険者の方々もおいしいんじゃないでしょうか。だけれど、そこに落とし穴。この依頼の内容が討伐で、対象が『A級魔獣』だってこと。ギルドとしても無駄死にを出さないために、希望者をふるいにかけなければいけませんね。

 依頼書の複製書を掲示板に貼り付けますか。ぺたぺた。

「ほぅ、金貨三十枚か」

「十人でねぇ、うまそうじゃねーか」

 いつの間に後ろにいたのか、剣士風の方と、背中に斧を担いだいかつい方がいらっしゃいました。

「む、悪いな、おどろかせたか。ところでその依頼、今から受けられるか?」

 斧を担いだいかつい・・・・・・面倒です、斧男さんが話しかけてきます。

「はい、今きたばかりの依頼でございます。ですが、A級魔獣ということもあり、ギルド内ランクを確かめさせていただきますが、よろしいですか?」

 平静を装い、答えます。本当は心臓バクバクしてます。私はびっくりするのに弱いのです。冒険者の方々は気配を消すのがお上手で、たまにこうして驚かせてきます。

「ふむ、ふるいにかけるというわけだな」

「へへ、もちかまわねーぜ」

 剣士さんが鼻をこすりながら横から言ってきました。自信がお有りのようです。

「かしこまりました。それではこちらへどうぞ」

 お二方を窓口に通し、手続きを行います。結果はこの依頼の最初のお二方になりました。結構な実力をお持ちの方々だったようです。


 お昼過ぎ、件の依頼はとうとう残りお一人にまで集まりました。大勢の方が希望なさいましたが、そのほとんどの方は依頼登録帳にお名前が載る事はありませんでした。ごめんなさい。

「ふぅ・・・・・・あと一人ですか。最後の方は一発合格なさってくれるといいのですけれど」

 正直、依頼を受けられない冒険者の方々の不満や愚痴を聞くのはうんざりです。

「そうねぇ、弱い男って口だけは達者だものね」

 私の独り言に一番窓口の先輩が答えました。

「でもね、エリちゃん、これもお仕事なのよ」

「わかっていますよ、先輩」

 十分承知していますとも。ですが、やっぱり怒鳴られたりするのは怖いです。と、一人の冒険者の方が入ってきました。

 間違えました。ローブでした。あ、ローブをかぶった男性の方でした。頭から深くかぶっている様は、まるでローブが歩いているかのようです。ローブさんは掲示板を眺めています。

「あら、初めての方かしら」

 先輩が何か言ってます。独り言でしょうから、無視してあげます。あ、ローブさんの動きがとまりました。あの視線・・・・・・というか、顔すら良く見えないのですが、見ている先には私が張ったあの討伐依頼書があるはずです。ローブさんがこちらに歩いてきます。私の窓口の前で立ち止まりました。大きい方です、私も結構大きいほうなんですが、私より頭二つ分くらい大きいかもしれません。もちろん、身長が。

「この依頼を受けたいんだが」

 声が低いです。低いだけじゃないです。体の芯に響くような声です。なんだか暑くなります。

「はい、いつもご利用ありがとうございます。お名前をお願いします」

 ペンと羊皮紙を差し出します。ローブの袖から手が伸びます。浅黒いです。すごく硬そうです。骨太です。大きいです。触ってみたいです。そんなことを思っていると手が引っ込みました。残念です。羊皮紙をとり、内容を確認します。『ヴァン・グラシアード』様。羊皮紙を机の下にある魔道具に入れます。この魔道具、全国のギルド支部と交信でき、情報を共有できるという優れものなのです。えっへん。あ、さっそく魔道具の画面に文字が浮かんできました。ランクBですか。あと一つ依頼達成すればAになれみたいですね。達成率も100%近い・・・・・・すごいですね、ローブさん。あ、ヴァン様。文句なしで合格でしょう。

「はい、ヴァン・グラシアード様、確認いたしました。A級魔獣『レガベアード』討伐に参加、間違いございませんか?」

「ああ、頼む」

 即答です。

「かしこまりました、ヴァン様で規定人数が埋まりました。他九名の冒険者の方々と討伐にお向かいくださいませ」

「ギリギリか。運が良い」

 そういってヴァン様は笑いました。心地いい笑い声です。こんな声、受付嬢をやって初めて聞きました。まずいです、顔が熱くなってきます。ですが、私も受付嬢の端くれ。ポーカーフェイスは、じゅうはちばんです!

「他の皆様はすでに準備ができており、二階の待合室にて待機なさっております。一応出発は一時間後となっておりますが、ヴァン様の準備がよろしければ、二階の皆様にご連絡し、すぐに出発してもかまいません。準備のほうがいかがですか?」

「大丈夫だ」

 また即答です。

「かしこまりました、それでは、少々お待ちくださいませ」

 私はそういうと、机の下にある呼び出し音を押しました。これで二階の待合室には、出発準備完了の合図が鳴っているはずです。

 少しして、九人の冒険者の方々が降りていらっしゃいました。流し目でヴァン様を見ると、自己紹介もせずギルドを出て行きます。ヴァン様もそのままついていってしまいました。

「どうかご無事で・・・・・・お帰りをお待ちしています」

 ギルドのドアに向かって言います。もちろん、ヴァン様たちには聞こえてないでしょう。ですが、私は言いたかったのです。


 しばらくして報告に戻ってきた冒険者さんたちの中に、ヴァン様の姿はありませんでした。


 九人の冒険者の方々が窓口に並んでいます。最初に依頼登録をした剣士さんが代表して報告をしてきます。

「つーわけで、魔獣は倒したものの、どこからとも無くやってきた『狼殺し』が急に襲ってきてな、ローブをつけた男がやられちまったんだ」

 平然として話す剣士さん。冒険者さんたちは他の誰が死のうと、心を動かすことはないようです。でもそれは、私たちギルドに関係する者たちにも言えることです。そうじゃないと、心が壊れちゃいますので。でも、なぜでしょう。今はそのことが無性に悲しくて、無性に苛立ちます。

「では、あなた方は、ヴァン様を置き去りにし逃げてきたというわけですね」

 私の言葉に弓を肩にかけた冒険者が怒鳴ります。

「たかが受付になにがわかる!」

 普段なら内心ビクビクなクールフェイスになるところですが、今はちっとも怖くありません。

「分かりたくありません。あなたに、たかが、といわれる筋合いもありません。どうぞ、これが今回の依頼の報酬です。では、お引取りください」

 睨みながら金貨の入った袋を窓口の机にたたきつけます。剣士さんが肩をすくめその袋を取りました。

「へいへい、それじゃーおれらはこの辺で。さぁ行くぞお前ら、山分けタイムだ」

 汚い言葉を吐きながらゾロゾロとギルドを出てきます。さっさとどっか行ってください。と、一人斧男さんだけ、窓口の前にまだ立っていました。

「何か用ですか?」

 普段なら絶対使わない口調で斧男さんに聞きます。斧男さんは何かを言いたげな顔をして、口を開こうとしたり、閉じたりを繰り返しています。イライラしてきました。

「言いたいことがあるならはっきりどうぞ!」

 机をたたきながら立ち上がる私に、斧男さんは目を伏せて口を開きました。

「・・・・・・俺たちは、そのまま逃げてきた。ローブの男の死体を確認したわけじゃない。『狼殺し』はその場にいたが、あの男が死んだかどうかは分からない」

 斧男さんはそれだけいうと、背を向けて歩いていきました。

 言葉の意味をそのままとると、ヴァン様は生きているかもしれないということ。『狼殺し』の噂はたくさん耳にしますが、本当に人を殺したというのは、まだ聞いたことがないです。斧男さんの言葉は私に希望を持たせるのに十分な効果を発揮しました。

 でも、仕事は仕事。死亡報告書には名前を書かないといけません。ペンを動かす私の指は軽やかです。


 その日、私は少女に出会いました。その少女は美して、女の私から見ても可愛くて、蒼く輝く髪は、誰かと全く正反対。なのに、私は思ってしまいました。あの人に、似ている。

 幾千幾万の人々の顔を見てきた私たち受付嬢は、相手の雰囲気を見る勘が培われてきます。その少女の雰囲気は、あまりにも、あの人に似ていました。でも、あの人は男の人です。いくらなんでも、女の子になるなんてことは無いはずです。

 でも、口調までちょっと似ています。女の子にしては男らし過ぎます。どんな教育を受けてきたんでしょうか。というか、見た目十二歳くらいなのに、ギルドに登録ですか? あれ、何か以前はギルドに登録してたみたいな口ぶりですね。

 渡した羊皮紙に書かれたお名前、『ヴァン・グラシアード』様。まさか。でも、そんな。もうお一方、金髪のボンッキュッボンな美少女のお名前、『アリア・エキーア』様。噂の『狼殺し』の名前。もう驚きの連続です。ですが、偽名を語るのはよくあること。私は歴戦の受付嬢!(ちょっとくらい、誇張してもいいですよね)、ポーカーフェイスは十八番です! あれ、これ二回目?

 ・・・・・・これは確かめねばなりません。でも、私はただの受付嬢。詮索してはいけません。とりあえず、体が汚れるかもしれない試験依頼を渡しておきますか。うふふ、報告にいらっしゃったとき、お二方には、二階の宿泊室でゆっくりしてもらいましょう。え? それでどうやって確かめるのかって? まぁまぁそれはおいおい。あぁ、帰りに魔道具店に寄らないと。何を買うか? そんな、私の口から言わせる気ですか? イヤバカン。あは、なんだか楽しくなってきました。

 そんなことを考えながら応対していると、ちょっと地が出てしまいした。あぶないあぶない。

 あぁ、それにしても楽しみですね。お二方、報告を心待ちにしております。うふふ。





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