清楚ヒロインに転生したが汚く生きる!
目覚めたら、とある漫画の清楚ヒロインになっていた。
……と、唐突に言ったら「コイツ頭強く打ったな、内科に行けクソババア。そして鏡を見ろ、清楚ではない」と返されることだろう。私も今そう思った。
だけど、これは嘘じゃなくて紛れもない事実。
証拠として私が目覚めた場所は、今まで住んでいた畳5畳分くらいしかなかったアパートの一室ではなく、野球ドーム一個分の広さを誇る部屋に置かれたベッドの上だということだ。
馬券や宝くじで大当たりを引いた覚えが微塵もないので、住んでいる部屋が変わっているのはおかしな話だ。
そしてもう一つ、証拠がある。
それは顔だ。顔が変わっているんだ。バッドに殴られてボコボコになったんじゃなくて、清楚な印象の美人顔になっていたんだ。今、鏡見て思っているんだから間違いない。私の目が腐ってなければ。
私はこの顔に見覚えがあった。それがさっき言ったとある漫画の清楚ヒロインのことだ。
そのとある漫画とは、『攫って! 王子様!』という誘拐を触発しそうなタイトルの少女漫画のことだ。
この漫画は要約すると、清楚ヒロインのリリアンが、ライバル悪役令嬢であるグロリアの政略結婚相手にして一国の王子であるエリックに一目惚れして、エリックもまたリリアンに一目惚れして、最終的にエリックとリリアンが結婚するという不倫を誘発させるような内容だ。ああ恐ろしい。
……ま、もっと詳しいことを言えば、グロリアやその他のモブキャラたちがリリアンをいじめたり、けなしたりして、リリアンがめっちゃ可哀想に見える中、最終的にリリアンが幸せを勝ち取るというストーリー。
いわゆる、シンデレラストーリーだ。
このお話は女子の間で結構有名になった。
しっかーし! 私はこの漫画を読み終えた瞬間、反吐が出た。
だって、エリックとリリアンは幸せになるけど、グロリアからすれば結婚相手を奪われたも同然。まぁ、それまでの行いが悪いから因果応報もいいところだが、結婚相手を奪われたことは一番の屈辱だ。
その時、グロリアは一体どんな思いをしたか……? 「死にたい」と思うさ。「生きてりゃなんとかなる」レベルじゃ済まないんだ!
私はグロリアの気持ちがよぉぉおおおおおおおおおおくわかる。私も彼氏を寝取られた。そして、失血死した。何で失血したか忘れたけど。
ともかく! 私はそういうヒロインだけが幸せになって、他の奴が蹴落とされて不幸のどん底に落ちるというのが酷く嫌いだ!
だからリリアンになるまい、なるならグロリアになってやると意気込んでいた! いや、転生するならフラミンゴがいいと思っていた!
そしたらどうだ!? どうもこうもない。漫画の、それも世界で一番嫌いな清楚処女に転生したってどういうことだよ!? もう神様恨むわ。
おかげで朝から目覚めが悪い。夢であってくれと思って壁に頭を打ち付けたが、頭が痛いだけなのでこれは現実なのだろう。
というわけで、私はこれからリリアンとして清楚に生きることにします……というとでも思ったか!?
そんなんやったらまたグロリアがかわいそうじゃねーかよぉ!? おいっ!?
私は嫌だね。政略結婚であれ他人の男奪うのは御免だ。リリアンなんて演じてられるかよっ!?
だけどなー、このまましていると浮気ENDになっちまうからなー、あー、どうしようー、どうしようー、と考えてかれこれ5分。
私はいいことを思いついた。
「そうだ、清楚にならなくちゃいーじゃん」
何を抜かしていると思うが実はこれが大事だったりする。
というのも、エリックがリリアンに一目惚れするのは顔だが、その後から惹かれていく理由に、清楚な性格が含まれているのだ!
つまり、顔によってエリックからの一目惚れは回避できないけど、性格が汚すぎたら結婚は回避できる可能性があるということだ!
これならグロリアが不幸になる可能性をなくすことができる!
そうと思い立ったら吉日!
「今日から私は清楚令嬢リリアンを捨て、汚く染まっていくぞぉぉおおおおおお!」
そう大声をあげると、私は部屋を飛び出していった。
◇◇◇
前言撤回、グロリア潰す。
諸君、一体何があったか説明しよう。
私は部屋を飛び出し朝食をいただき、早速悪事を働こうとした。
しっかーし! その前にグロリアが私のところに訪ねに来たとメイドから報告され、庭で待つグロリアの下へ向かうため、家である屋敷を出た。
そしたら何があったか。屋敷を出るなり、グロリアのお付きのメイド二人が私に向かって泥を投げてきたんだ! 奇襲攻撃だ!
挙句には、奥の花壇の上に立って私を眺めている黒髪の女――グロリアが高らかに嘲笑ったんだ!
「おーほっほっほっほっほ! ご機嫌麗しゅう? 朝からとても汚い恰好をしてますわね? お風呂には入られましたの? おーっほっほっほっほ!」
なーにがご機嫌麗しゅうじゃ、こっちはご機嫌斜めじゃ。
おかげで綺麗な銀色の髪と純白のドレスが泥まみれじゃ。クリーニング高いんだぞ! って、この世界はクリーニングないか。
……そういえば一つ、大切なことを忘れてた。グロリアは超がつくほどクソ性格が悪いんだった。
ったく、グロリアを不幸にしないなんて意気込みしなくちゃよかった。おかげで色々損した気分。
……だけど、私は男を、エリックを奪うつもりはない。
だからといって、このまま指をくわえてグロリアを許す気もない。
じゃあ、どうすべきか? 簡単だ。
――清楚を捨てて、グロリアたちも泥まみれにしてやらぁ!
「おい、クソババア共」
自分でも驚くほどのドスの利いた声を響かせ、私はグロリアとその横にいるメイドを睨んだ。
すると、グロリアとメイドたちは一瞬震えたように見えた。ビビってんのか?
特に、グロリアは目を見開いて、口元を手で押さえて驚きを隠せない様子だった。
「なっ……何を言いましたの……? リリアン……?」
……ほぉー、どうやら私が汚い言葉を吐いたことが驚きのようだな。
それもそうだ、私は清楚という設定のキャラクターだ。驚くのも当然だ。
だがな、それは漫画の物語での話。
私と言うリリアンとは、別人なんだよ!
私は口を弧に歪めると、純白のドレスについた泥を両手に持ち、グロリアのメイド二人に思いっきり投げた! 野球選手さながらの投球フォームで。
すると、
「きゃ、きゃぁぁああああああ?!」
「ななな、なにをするのですのー!?」
ジャストミィィイイイイイイイイイイイイイト! 二人のメイドの顔面に泥を塗りつぶしてやったぜぇぇええええええええええ!
「こ、こんな顔じゃ旦那様に合わせる顔がないですわー!?」
「一旦撤退ですのー!?」
そう言い残すと、二人のメイドはどこかへと駆けて行った。
「おっし……どんなもんじゃぁああああああああああああい! 伊達に甲●園で野球を見てたわけじゃねーんだよぉ!」
我ながら大声で歓喜。
腕を真っすぐ天に掲げ、勝利の雄叫びをあげた! 女だけど。
「ななな、り、りり、りり、リリアン!? あ、あ、あ、あなた、一体、どどど、どうしたっていうの!?」
ん? あー、グロリアのこと忘れてた。
……といってもグロリアは足をガクガクと震わせて、瞳が微動しているな。あからさまに動揺してらぁ。
ってことは、今がチャンスだな……!
「グロリア、私はどうもこうもしていない」
私はゆっくりとグロリアに向かって歩き、言葉を紡いだ。
「私は今日、決意したんだ。運命を変えるってな」
グロリアの顔が間近になると歩みを止め、にっこりとほほえんだ。
すると、グロリアは片方の口角をわずかに上げ、苦笑いを作った。
その次の瞬間、
「土まみれになれやぁぁあああああああああああ!」
私は怒号をあげると、両腕をグロリアの背中まで回し、その身体を抱えながら後方にのけぞった!
「くらえぇぇえええええええええええええええ! ジャーマンスープレックス改!」
「あぁぁああああああああああああ!?」
必殺技を叫ぶと共にグロリアが叫び、グロリアの頭が地面に刺さると同時にその声が消えた。
これぞ、私が小学5年の時から使ってきた対吉田沙●里防衛術奥義、『ジャーマンスープレックス改』。別名、ただのジャーマンスープレックス。
これを鍛え続けてきたおかげで、グロリアを土に刺すことができた。てか、ここの土は柔らかいな。
「にしても……」
やっぱ久々にやると身体の節々が痛いな……少し背中を伸ばそう、ぐぬぬぬぬぬ……。
んで、グロリアはと言うと、ピクリとも動かないな。てか、この土に突き刺さっている姿、何か犬●家を彷彿とさせるな。あとパンツの色は紫か、淫乱だな。
「ま、このまま放っておくのもよくないし、抜いておくか」
私は大根を畑から抜くように、グロリアの脚を持ってその頭を抜いた。
すると、白眼をむいた土まみれのグロリアの顔が出て来た。……って、ありゃー、気絶してるなー、これ。
ま、やられたらやり返すってことで、私はその辺にグロリアを捨てた。
そして、一仕事終えた農夫のように、額の汗を拭い、太陽を眺めた。
「今日もいい天気だな」
なんて、呟いた直後だった。
――パチパチパチパチ……。
どこからか拍手する音が聞こえてきた。
私は音のする方――屋敷の方を見るとそこには貴族の衣装をまとった金髪のイケメンが拍手していた。
私はこの男を知っている、エリックだ。でも、なんでこんなところに?
……ああ、そうだ。思い出した。
エリックとリリアンの出会いって、この泥を投げられた後なんだっけな。
確か、泥まみれのリリアンに対して「大丈夫ですか?」と優しく声をかけた後、「美しい方だ」とかほざいた記憶がある。この色男め。
だが、その運命は変えられた。
「先ほどの戦いぶり、見ていました」
ほぅ、見てくれていたか。これは運がいい。
これでエリック王子のリリアンイメージから清楚が抜け落ちたはずだ。
つまり、結婚ルートは阻止できたことになる!
まさかこんなに早く計画が上手く進むとは、我ながら出来る女だ。
「あなたの男勝りな言葉、活き活きとした動き、そしてその綺麗な汗。このエリック感服し、惚れました」
…………あれ? 今、なんて言った?
ちょっと待って、え、聞き間違い? え、え、え? 惚れ、た? ほ? へ?
なんて私がおどおどしているのも束の間。
エリックは私の前でひざまずき、私の右手を取って一言。
「どうか、このエリックの后となってくれませんか?」
……………………は? え、な、ん、で? フラ、グ折れ、て、ない?
いや、折れてない、どころ、か……むしろ、結婚ルートを、早め、た? え? どうして?
え? え? え?
「このエリック、泥にまみれ、プロレス技を決め、パンチラしてくれる女性が好きなのでございます」
……へ……へ……へ、
「変態だぁぁあああああああああああああああああああああああ!?」
その日、私は全力で走り、馬で追いかけくるエリックから逃げ回ったのであった。
めでたし、いやめでたくねぇ……。
当初はもっと恋愛要素強めでいこうと思ったら、気づけばコメディが強めに……。
追記:ご感想で賜りました「続きが読みたい」のご要望にお応えしまして、続きの後日談を執筆しました(5月3日)




