すべては婚約破棄のために
「ガートルード、お前のような悪女とは婚約破棄する!」
突然放たれた王太子の婚約破棄宣言が、城のダンスホールに響き渡った。
ダンスは止まり、音楽も止み、全員の視線がこちらへ集中しているのに気づく。
顔見知りの人々の視線が痛い。
いつも励ましてくれる王妃様と王太子の実の妹姫。
ワイルドな魅力の騎士団長様。
穏やかでいつも相談にのってくれる宰相閣下のご子息。
バカ王太子の弟でとても性格の良い愛らしい第二王子様。
言いがかりとしか思えない婚約破棄宣言よりも、皆の期待を裏切る方が辛かった。
皆は、ご令嬢に意地悪などしていないと言った言葉を信じて励ましてくれたのに。
皆に謝らなければと思ったその時、耳を疑う声が飛び込んできた。
『よおぉぉぉおおおっしゃあああ!』
大歓声。
ホールに集まった皆様全員、なぜかエキサイトしていらっしゃる。
ついでに使用人たちも一緒になって叫び声をあげている。
呆気にとられるガートルードと王太子。
すると、王太子の隣にいた可愛いご令嬢が、こちらへ来る妹姫の姿を見て感極まったように叫んだ。
「くうぅっ、作戦成功ぉぉっ!」
「何とかうまく行ったわね! ご苦労様!」
「はい! 姫様のお役に立てて嬉しいです、良かったあ~」
「さすが兄上。こんなに簡単に引っ掛かって下さるなんて、本当にバカですわ」
「そうですわね。王様もご覧になられた事ですし、これで前妻の子であるバカではなく、弟の貴方に王位継承権が移ることでしょう。ついでにガートルードもこのまま王家に引き込みたいわ」
「はい。僕、頑張ります!」
「いいや、ガートルードは俺の嫁にする予定だからな、そこは譲らねえぜ!」
「私のことを忘れてもらっては困りますね」
唐突に火花を散らす三人。
『さあ! 誰を選ぶんだ?』
「待て! 一体これは」
「やっぱり知らなかったんだね。城に仕える人間全員が国の将来を憂えて、兄上をそこから引きずり落とすために芝居をしていたんだよ。ついでに、兄上の振ったガートルード嬢はこう見えて聖女様でした!」
「なっ!」
「黙っていて済みません。でも聞かれませんでしたから」
「う、う、うそだああぁぁあーーーっ!」
こうして、その国は無事に聖女を迎え入れ、バカを追放することに成功してその後栄えたそうな。