8.遭遇
今14時。
ウサギが出始めるのは18時過ぎらしいから、まだ時間がある。
先にアルムラットの方倒しに行くか。
アルムラットは、西にある森の中に出るらしい。
フュジ島は、中心に大きく町があって、北、東、南は一面草原。
そして西がその森。
ちなみに飛行船が着いたのは北側。
そんなわけで、さっきとは違う出口から町を出る。
森は町からも見えてるくらいだから、そんなに距離はない感じだ。
案の定、10分ほど歩くと森の端まで到着した。
4メートル弱の木が、所狭しと生い茂ってる。
近くで見ると、昼だってのに想像以上に暗い。
木と木の間隔が狭いから、光が葉っぱに遮られてあんまり入ってこないみたい。
奥の方はほとんど見えない。
何も照らすもの持ってないので、いつもより慎重に進む。
魔物がいるところで転んだりしたらシャレにならん。
すると、それほど深くない地点で、ガサガサと何かが動く音がした。
その方向にジッと目を凝らす。
まだ、全然光の届く位置だから、ちょっと見にくいだけで、ほとんど影響はない。
ガサガサ。
また音が聞こえる。
それと同時に、木の上から体長45センチくらいの生物が落ちてきた。
すぐに鑑定。
『ステータス』
《種族》 アルムラット
《HP》 35/35
《MP》 40/40
《物攻》 45
《物防》 25
《魔攻》 30
《魔防》 35
《スキル》なし
よし、アルムラットだ。
この視界が確保できる森の深さで出てきてくれたのは嬉しい。
真っ暗なところで戦うのはきつそう。
取り敢えず、コイツは短剣だけで倒すか。
毒弾は的が小さいし、ネズミだからすばしっこくて、当てらんなそう。
てことで、使い慣れたいつもの短剣で攻撃を仕掛ける。
ただ簡単には当てさせてくれないでしょう。
まずは様子見のつもりで、真っ直ぐ走って近づいて斬る。
ザシュ。
肉が切れる感触が手に伝わり、ネズミの体から血が出る。
…あれ?
普通に当たった。
HPも21減って、余裕で半分きった。
何かの間違いかと思って、もう一回同じように攻撃する。
ザシュッ。
《アルムラットの討伐を確認しました》
………………。
え、もしかしてコイツ全然動き早くない?
よく見たら、一応かわそうと横には動いてたけど、全然避けられてなかった。
…ネズミなのに遅いのかあ。
まあ、見た目はカピバラみたいで遅そうだけどね。
あ、でもカピバラは速いのか。
よく分からん。
◇ ◇ ◇
あー、もう日が暮れる。
森の脇から差し込む光の色がオレンジがかってきた。
思った以上に時間かかったな。
最初の一体こそ簡単に見つかったけど、それからが全然ダメ。
物音がすることは結構あるんだけど、
7割方アルムディアーだった。
森の中にも鹿いたみたい。
だったら最初から森来てれば良かったな。
草原で倒してた分の時間損した。
『入手条件(フュジ島)』
《アルムディアー討伐》 108/30
《アルムラビット討伐》 0/30
《アルムラット討伐》 40/40
念のため確認したけど、ちゃんと40体になってるね。
これでもうここに用はない。
じゃあラストのウサギ倒し行きますか。
ちょうど夜になったから出てくるでしょ。
そう思って草原に移動を始めようとしたその時。
俺の後ろ、森の奥の方から、さっきまでの魔物のものとは明らかに違う、大きな音と振動が伝わってきた。
木をなぎ倒す様な音と地鳴り。
その音がだんだんと近づいてきているような気がする。
…やばい。
直感的に理解した俺はその場から、森の外に向かって走り出す。
これまでしたことのないくらいの全力疾走。
疲労無効がある俺は体力なんて気にする必要ない。
ただひたすらにダッシュする。
はあ、はあ、はあ。
追い詰められた状態での緊張感で息が荒くなる。
くそっ。
木が多すぎて、真っ直ぐ進めないのもフラストレーションが溜まる。
精神的にはめちゃくちゃ疲れる。
それでも本気で逃げるしかない俺は走り続ける。
その調子で2分くらい走ると、徐々にその音が遠くなっていった。
向こうの体力がきれてきたのだろうか。
そして完全に聞こえなくなったところで、ようやく俺も足を止める。
ふう。
…何だったんだろう。
あんなやばい魔物がいるなんて聞いてない。
姿を見たわけじゃないから、どんな魔物かは分かんないけど、絶対に俺じゃ勝てないってことだけは分かる。
「とりあえずギルドに報告かな」
やっぱり今日のウサギ倒しは中止にしとく。
まずはこっちを優先しないと。